小麦粉の価格高騰で注目高まる「米粉」でパンを作るメリット、デメリットとは?
- オトナンサー |

ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で輸入小麦の価格が高騰し、パン店の中には値上げを検討する店も多いようです。そんな中、「米粉」への注目が高まっています。米粉の原料であるコメの自給率は、ほぼ100%のため、今後、米粉の供給量が増え、米粉で作ったパンを販売する店も増えるかもしれません。
小麦粉の代わりに米粉でパンを作るメリット、デメリットなどについて、グルテンフリーの料理を提供するレストラン「ロベリスク。」(東京都港区西麻布)の山崎史雄総料理長に聞きました。
各種アレルギーに対応し、低カロリー
Q.小麦粉の代わりに米粉を使ってパンを作るメリット、デメリットについて、教えてください。
山崎さん「米粉を使ってパンを作るメリットは、多岐にわたります。
【各種アレルギーに対応】
まず、米粉を使う一番の大きなメリットは、各種アレルギーに対応していることです。食物三大アレルゲンの一つである小麦に含まれる『グルテン』(グリアジンとグルテニンによってつながった網目状のタンパク質)が含まれていないので、『小麦アレルギー』の人や、グルテンの摂取によって体調不良を起こす人も食べることができます。
また、『グルテン不耐症』(グリアジンに過敏に反応して、下痢などの症状が出ること)や『セリアック病』(体内の免疫システムが誤って小腸の内膜にダメージを与える自己免疫疾患)などの症状を引き起こすリスクを避けることができます。
昨今の国内外の研究では、これまで原因不明とされてきた小脳失調のうち、36%でグルテンへの抗体が陽性であることが発表されています。この抗体が陽性であると、運動神経障害や軽度の認知症状を引き起こしやすいという指摘もあります。
グルテンを摂取し過ぎることで眠気や疲労感、イライラしやすくなるなどの症状が出る可能性が高まるため、グルテンフリー(グルテンを含む食べ物を摂取しない食事法)に取り組む人もいます。
【小麦粉で作ったパンより低カロリー】
製パン後、米粉パンは100グラム当たり243キロカロリー、小麦粉で作った食パンは100グラム当たり269キロカロリーというデータがあります。
米粉パンのカロリーが低い大きな要因は、グルテンが含まれていないことで吸油率(油の吸収率)が小麦粉より低くなるためです。小麦粉の吸油率は38%である一方、米粉の吸油率は21%です。
また、米粉の吸水率が高いことも低カロリーの大きな要因です。例えば、米粉にはアミロース(でんぷん)の含有率によって『1番粉(吸水率低)』『2番粉(吸水率中)』『3番粉(吸水率高)』という分類があり、製パン用に推奨されている2番粉や3番粉のような、より吸水率が高い米粉を使用して製パンした場合、『ずっしり』『もっちり』としたパンやケーキを作ることができます。パンに含まれる水分量が多いと、満腹感の持続時間が長いので、ダイエットにも向いていると言えます。
【『こねる、伸ばす、たたく』という作業が不要】
例えば、小麦粉でパンを作る場合、小麦粉に含まれるグルテンをしっかりと形成することが必要です。そのためには、こねてたたきつける力作業を繰り返さなければなりません。
米粉パンには、グルテン自体が存在しないので、1番粉や2番粉を使ってしっとり系のパンを作るのであれば、材料をボウルなどに入れて混ぜるだけで済むので、作業台が狭くても作ることができます。また、粒子が細かい米粉を使用すれば、発酵の時間が短くて済みます。気を付けるべきポイントは、『よく混ぜる』『乾燥に気を付ける』ことぐらいです。
続いて、米粉でパンを作るデメリットは次の通りです。
【米粉の知識と慣れが必要】
米粉パンと小麦粉パンは、全くの別物と言っても過言ではありません。米粉は吸油率が低いため乾燥に弱いことや、吸水性の高さなど、小麦粉の調理に慣れている人の多くが『小麦粉のように扱ってしまう』ことで、イメージ通りに調理できず、失敗したと感じてしまう人もいらっしゃいます。
しかし、小麦粉同様、米粉にも多くの種類が存在するので、イメージ通りにうまく作るために、まずは、自分が作りたいパンに適した米粉を選ぶことから始め、米粉を繰り返し扱うことによって経験値や知識を増やし、慣れていくことが必要になります。
【不足している栄養価を補う必要がある】
小麦粉パンと違い、ビタミンBやミネラル、食物繊維が不足しているため、一緒に食べる物や、製パン時に加えるフィリング(混ぜこむ具材)に工夫が必要です。
【製品によっては、米粉100%ではない場合も】
メーカーによっては『国産米粉使用』とうたい、米粉と小麦粉を混ぜて販売している場合があります。また、メーカーによっては、小麦の加工と同じラインで米粉を加工していることがあり、混入などの可能性があるので、小麦アレルギーやグルテン不耐症、セリアックの人は、しっかりと調べてから購入する必要があります」
Q.米粉を使ってパンを作る場合と、小麦粉を使ってパンを作る場合とでは、味や食感にどのような違いが出るのでしょうか。
山崎さん「ふわふわ感やモチモチ感、しっとり感、弾力、口当たりの継続時間に違いが出てきます。米粉にはグルテンによる『網状の粘着』がないため、ふわふわ感やモチモチ感などの長時間の維持が困難と言えます。また、吸油率の違いから米粉パンの方が小麦粉パンよりも乾燥に弱く、焼き上げてから時間が経過するにつれ、ちぎるとボロボロと砕けてしまったり、ボソボソと感じたりすることもあります。
しかし、こうした弱点を補う材料(パーム油、バター、タピオカ粉など)を加えることで、小麦粉パンにはない食感や味わいを作り出すこともできます。また、最近では米粉パン用に開発された『ミズホチカラ』などの『低アミロース米粉』があり、膨らみやすく、『しっとり』『もっちり』した食感を楽しむことも可能です。
先述のように、自分が作りたいパンに合わせた米粉を選ぶことが大切です。うまくいかないときは『米粉の選択を間違えているだけ』というケースが多いです」
米粉は小麦粉よりも安い?
Q.米粉で作るのに向いているパン、向いていないパンについて、教えてください。例えば、フランスパンのような硬いパンの製造時に米粉を使った場合、おいしく作れるのでしょうか。
山崎さん「米粉で作るのに向いているのは、食パンや丸パンなどのソフト系のパンだと思います。なぜなら、型に流し込み、比較的簡単に『しっとり』『軽い食感』でおいしく仕上げられるからです。
ロールパンやフランスパンも作ろうと思えば作れますが、成形するためにサイリウムやタピオカ粉、片栗粉などの食材を加える必要があるのと、先述のように、乾燥を防ぐパーム油などを多用しなければならず、手間がかかります」
Q.「国内のコメの自給率はほぼ100%なので、米粉は小麦粉よりも価格が安い」といった印象があります。実際に、米粉は小麦粉よりも安いのでしょうか。
山崎さん「現時点では、米粉の方が小麦粉よりも製粉コストがかかるので、その分、価格も高いです。日本における小麦の主要輸入国は、アメリカ、カナダ、オーストラリアですが、昨今の北米産の不作などの影響から、政府は『輸入小麦の政府売り渡し価格(政府から製粉会社などに売り渡す価格)』を4月から17%余り引き上げました。それでも、小麦粉の方が米粉よりも安いのが現状です。現在の小麦粉と米粉の価格は次の通りです。
薄力粉(一般的な天ぷら用小麦粉)1キログラム当たり290円前後
強力粉(一般的な製パン用小麦粉)1キログラム当たり360円前後
米粉(一般的な天ぷら用米粉)1キログラム当たり390円前後
ミズホチカラ(一般的な製パン用米粉)1キログラム当たり800円前後」
Q.今後、パン店の間で米粉を使う動きは広まるのでしょうか。
山崎さん「個人的な意見としては、既存のパン店が米粉を100%使ったパンを取り扱うことは、あまり期待できないかと思います。なぜなら、先述の通り、米粉パンと小麦粉パンとでは、工程や扱い方などが全く違うからです。
ただ、小麦粉パンの製パン中に米粉を配合して『しっとり』『もっちり』という食感を加える職人さんは増えるかもしれません。また、ウクライナ危機が長期化し、小麦粉が高騰し続けた場合、パンの中に米粉を配合して材料費を抑えていく職人さんも登場するかもしれません。
一方、米粉を主原料に使う新たなパン店が増えていく可能性は考えられます。農林水産省によると、米粉の本年度の需要量は4万3000トンと過去最多を更新する見通しで、米粉の利用拡大を図る法律が施行された2009年からの第1次ブームのピークと比べ、1.7倍に伸びており、『しっとり感』や『もっちり感』で徐々に人気を集め、第2次ブームが起きているとも言われます。
また、米粉の活用を後押しするため、東京都は、生産者団体や他地域などと連携し、米粉を使った商品の開発や販売に関する支援事業を開始しました。都の6月補正予算で8000万円を計上し、2023年3月末まで実施する方針です。
こうした状況には、『食料自給率の向上』のほか、先進国同様、日本国内においても『SDGsへの取り組み』や『輸入小麦の残留農薬問題』『高グルテン問題』『グルテン不耐症』『小麦アレルギー』『セリアック病』などの対策として、『グルテンフリー食への関心』が高まっていることが背景にあると言えます。
セリアック病の世界的有病率は、世界人口の1.4%との報告があります。実際に日本でも、グルテンの摂取によるアレルギーなどで困っている人たちが多く存在しているので、今後、米粉パンの学校給食や米粉パンの専門店などの需要は増えていき、それに伴い、この問題に長期にわたり、本気で立ち向かい続けているわれわれのような料理人やパン職人、パティシエが増えていくことが考えられます」
オトナンサー編集部
実は損している?
ニュースを読んでポイントが貯まるサービスがあるのを知っていますか?ポイントサイトのECナビでは好きなニュースを読んでポイントを貯めることができるのです。(※ECナビはPeXの姉妹サイトです。)今日読んだニュースが実はお小遣いになるとしたら、ちょっと嬉しいですよね。
ポイントの貯め方はニュースを読む以外にも、アンケート回答や日々のネットショッピングなど多数あるので、好きな貯め方でOK!無料で登録できてすぐに利用できます。貯まったポイントはPeXを通じて現金やAmazonギフトカードなどに交換できます。
運営実績も15年以上!700万人以上の方がポイントを貯めています。毎日好きなニュースを読んでお小遣いを貯めてみませんか?
簡単無料登録はこちらYOUの気持ち聞かせてよ!
いいね | ![]() |
|
---|---|---|
ムカムカ | ![]() |
|
悲しい | ![]() |
|
ふ〜ん | ![]() |
