「宮廷ホーム」なぜ原宿に? 表玄関より便利な“裏口” 必然だった「日本初の完全バリアフリー駅」の構造
- 乗りものニュース |

宮廷ホームは、いわば「裏口」
山手線原宿駅(東京都渋谷区)から渋谷方面に向かうと、右手にぽつんとホームが置かれています。2001(平成13)年以来、使われていないこのホームは正式名称を「原宿駅側部乗降場」、通称「宮廷ホーム」といいます。ここは天皇が使うために造られた駅でした。
山手線ホームから見た原宿駅側部乗降場、通称「宮廷ホーム」(画像:Ryuji / PIXTA)
東京には「天皇のために造られた駅」がもう一つあります。それが皇居に正対する「表玄関」である東京駅です。東京駅の中央口には皇室・貴賓用の休憩室「松の間」があり、赤じゅうたんの特別通路でホームに出て、日本全国に行幸しました。
これに対して皇居の西側に設けられた宮廷ホームは「裏口」といえるでしょう。東京駅は1914(大正3)年の開業、宮廷ホームは1926(大正15)年の開設です。なぜ12年後に「裏口」を設けたのでしょうか。
宮廷ホームは皇室というより、大正天皇のために造られた設備でした。大正天皇は病弱で、1921(大正10)年から皇太子(後の昭和天皇)を摂政として公務を譲り、葉山や田母沢の御用邸で療養することが多くなりました。
しかし体調は悪化する一方で、ついには車いすでの移動を余儀なくされます。東京駅を移動すれば天皇の弱った姿を衆目に晒してしまうため、宮内省(当時)は人目に付きにくい専用駅の設置を鉄道省に依頼。こうして宮廷ホームが誕生しました。ちなみに改札からホームはスロープ構造としており、日本初の完全バリアフリー駅でもありました。
とはいえ、その存在が秘密だったわけではありません。例えば1925(大正14)年8月14日の朝日新聞は宮廷ホーム新設を報じており、設置理由を「両陛下を初め各宮様方の行幸啓の際はおおむね東京駅または上野駅から御発着遊ばされているが御通過の前後には御道筋の交通をさえぎる事が多く、かつ臨時列車発着の場合には普通列車の発着時間にも変更を及ぼす事が多い」ためと説明しています。
「大正デモクラシー」の時代とはいえ、戦前の天皇の地位を思えば、道筋の交通を遮ることや、普通列車への影響を理由に挙げているのは違和感があり、「人目を避けた裏口」という本音をうまく包み隠しているように見えます。
一方で、東京の郊外化が急速に進み、列車本数が激増していたのも事実でした。そこで注目されたのが「山手貨物線」です。山手線は1914年以降、電車と貨物列車のみ走行していましたが、旅客・貨物需要の増大に対応するため、電車専用線の増設(複々線化)を決定。品川方面から段階的に整備していきました。
電車専用線は1922(大正11)年に原宿まで到達し、1924(大正13)年12月に原宿~新大久保間が開通。最終的に1925年3月に品川~田端間が全通し、旧線は貨物専用線(山手貨物線)となりました。なお、複々線化に伴い原宿駅は、1924年6月に駅を現在の位置に移設しています。
明治神宮の建設にも関連
この頃、原宿周辺ではもう一つの国家的プロジェクトが進んでいました。明治天皇を祀る神社、明治神宮の建設です。1915(大正4)年に整備が決定すると、原宿駅構内から分岐する資材線が建設され、1920(大正9)年11月に創建されました。
前掲記事は「同駅改造の主なる点は、明治神宮造営の際、同駅内に設けた引き込み線を利用してここにプラットホームを設け」たと記しています。資材線の配線は不明ながら、新宿方(東北線・中央線方面)に発着する列車を原宿で折り返すための引き込み線だったのでしょう。
全国貨物鉄道ネットワークの中核である山手貨物線は、東北線、東海道線、中央線に接続しており、宮廷ホームは葉山・沼津・日光・那須など各地の御用邸に直通できる、非常に使い勝手の良い「裏口」となりました。
1926年8月10日、大正天皇と貞明皇后を乗せたお召列車は宮廷ホームから葉山御用邸に出発しましたが、結果的に大正天皇にとって最初で最後の利用となりました。同年12月25日、大正天皇は葉山で崩御し、霊柩列車として帰京しました。
こうして「裏口」としての役割を終えたかに思われた宮廷ホームですが、最も使用頻度が高かったのが昭和天皇です。戦時中の伊勢神宮への「戦勝祈願」や戦後の巡幸は宮廷ホームを拠点に行われました。
1950年代後半に皇族の航空機移動が始まってからも、昭和天皇は鉄道での移動を好んだといわれています。この他、1950年代は新型車両や歴史的車両を宮廷ホームで一般公開することがしばしばあったそうです。
しかし世が平成に変わると、現・上皇は「特別扱い」を嫌い、お召列車の運行頻度は減少。宮廷ホームも2001年を最後に使用されていません。1996(平成8)年に埼京線が渋谷まで延伸し、2001(平成13)年に湘南新宿ラインの運行が始まると、山手貨物線の運行本数が急増し、お召列車の設定が難しくなったという事情もあるでしょう。現在、ホームは閉鎖されて事実上の廃止状態にあります。
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