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世界初の軍用飛行機はライト兄弟が作った!?「歴史上の偉人」が生んだ知られざる「初めて」(前編)

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カナード(先尾翼)形式を採用したライトフライヤー

 世界で初めて「制御された動力飛行」に成功したことで知られるのが、アメリカのライト兄弟です。これだけでも歴史に名を残したといえるのですが、それ以外にもさまざまな航空分野での「初めて」を記録しています。その1つがカタパルト射出です。

Large figure1 gallery13世界最高水準の高性能戦闘機であるF-35A「ライトニングII」(画像:ロッキード・マーチン)。

 ライト兄弟が世界初の「制御された動力飛行」を成功させたのは、今から120年以上前の1903年12月17日のこと。場所はノースカロライナ州キティホークでした。このとき進空した「ライトフライヤー」をよく見てみると、2枚重ねられた複葉形式の主翼を中心に、前方に上下(ピッチ)方向の動きを制御する水平安定板、後方に左右(ヨー)方向の動きを制御する垂直安定板が配置されています。

 これは現代の戦闘機、ユーロファイター「タイフーン」やダッソー「ラファール」、サーブ「グリペン」などが採用しているカナード(先尾翼)のはしりといえます。ライト兄弟はライトフライヤーの前段階となるグライダーの設計に際し、1901年から自作の風洞で実験を繰り返して、この形態を採用しました。

 最初は前方に水平安定板1枚という形でしたが、より安定した操縦を実現するため、後方に垂直安定板を1枚設置し、最終的には2枚ずつの配置となりました。前後に割り振ったのは、主翼だけで胴体と呼べる部分を持たない形状のため、重心が片寄らないようバランスをとったものと考えられます。

 もちろん、この当時は昇降舵や方向舵という概念がなく、水平安定板、垂直安定板全体を動かして操縦するようになっていたので、現代の超音速戦闘機が採用する「オールフライングテール」も先取りしていたといえるかもしれません。

カタパルト発進も「ライトフライヤー」が世界初!

 ライトフライヤーは搭載したエンジン(重量低減のためアルミ合金製のエンジンブロックを採用したのも先駆的)の出力が小さかったこともあり、グライダーから大きく設計変更することなく、極限まで重量を絞った設計となっています。降着装置も車輪ではなく、フレームと一体となったヘリコプターのような「そり」を採用しました。

Large figure2 gallery14原子力空母「エイブラハム・リンカーン」の飛行甲板からカタパルト射出される直前のF/A-18E戦闘機(画像:アメリカ海軍)。

 この形式では、自力で滑走して離陸することは困難です。そこで地面にレールを設置し、その上を台車に乗って加速する方式となりました。ライト兄弟が初飛行を果たしたキティホークの海岸は、年間を通して一定方向に強い風が吹く砂浜だったので、風上に向いたレール上を滑走し、離陸に必要な対気速度を得て、ライトフライヤーは飛行に成功しています。

 初飛行に成功した翌1904年から、ライト兄弟は地元であるオハイオ州デイトンのハフマン・プレーリーという牧場(現在のライト・パターソン空軍基地の一部)に飛行テストの地を移します。ライトフライヤーの1号機は、4回目の飛行後に突風を受けて横転し、すぐには修理できないほどの損傷を受けたため、いったん保存することとし、ほぼ同じ形状でややエンジン出力の上がった2号機(ライトフライヤーII)を作って飛行を試みました。

 ただ、ハフマン・プレーリーはキティホークと違い、風はあまり強くなく、風向きも一定しません。2号機は対気速度38km/h前後で離陸可能になることがわかっていましたが、気象条件の整ったときには距離400m以上に達する飛行に成功したものの、風が穏やかな条件では離陸することも困難でした。

世界初のカタパルト発進は「重力」頼み!?

 そこでライト兄弟は、やぐらから重りを落とし、その力を利用して飛行機を加速させる、いわば「重力カタパルト」を離陸に利用することを思い付きます。このカタパルトは、高さ約5mのやぐらと1個200ポンド(約91kg)のドーナツ形の重りを複数組み合わせるタイプの駆動装置と、飛行機の主翼前縁に取り付ける牽引バー、そして機体を載せる台車とレールで構成されていました。重りを持ち上げるのは人力で、数人がかりで引き上げられました。

Large figure3 gallery15風洞実験を行うライトフライヤーのレプリカ(画像:NASA)

 1904年夏からカタパルト発進の試験を重ね、最終的に重りを7つ(合計約635kg)使用して安定した離陸に成功したのは、9月7日のことでした。9月15日には、さらに重りを1つ加えて1600ポンド(約726kg)に。この力でカタパルトから発進した2号機は半マイル(約800m)の距離を旋回する飛行に成功し、さらに20日には4000フィート(約1200m)あまりの周回飛行も成功させました。この年に実施された飛行テストでは、最大で飛行時間5分あまり、飛行高度40フィート(約12m)、飛行距離3マイル(約4.8km)にまで記録を伸ばしています。

 アメリカ国立公文書館に保存されている、1909年にバージニア州フォートマイヤーで実施されたライト兄弟の「ライト・ミリタリーフライヤー」(のちのライト・モデルA)の公式テスト飛行を撮影した記録フィルムには、アメリカ陸軍の中尉を同乗させた飛行機が、オービル・ライトの操縦でカタパルト発進する様子が映っています。

 このカタパルトにより、どんな場所でも離陸する方法が確立され、ライト兄弟は各地でデモンストレーション飛行が可能となりました。1909年8月にはアメリカ陸軍が「ライト・ミリタリーフライヤー」を購入し、世界初の固定翼軍用機(偵察機)が誕生しています。

 なお、日本国内で初めて日本人の手によって飛行機が飛んだのは1910年12月19日のことであり、その1年前にアメリカでは軍用機が誕生していたことになります。

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