F1撤退のホンダが「ありがとう」とライバルへ“感謝広告”、意図や専門家の見解は?
- オトナンサー |

2021年は日本のモーターレース界にとって、大きな節目の年となりました。半世紀以上にわたり、F1レースに参戦していたホンダが撤退したためです。12月12日の今季最終戦では、ホンダのエンジンを搭載した「レッドブル・ホンダ」のフェルスタッペン選手が見事優勝、年間王者にもなり、ホンダは有終の美を飾りました。
そのホンダが最終戦当日の日経新聞朝刊に掲載した広告が話題を呼びました。「ありがとうフェラーリ、ありがとうロータス、…」と歴戦のライバルの名前を挙げて感謝の気持ちを伝え、「じゃ、最後、行ってきます」とさらりとした言葉で締めくくる、余韻を感じさせる広告だったからです。
モータースポーツというスポーツの世界の話ではありますが、名前が挙がったライバルの中には、トヨタやルノーといった、本業の自動車販売におけるライバル企業もあります。ライバル企業の名を挙げて感謝の気持ちを示す広告は広報として、どのような効果があるのでしょうか。広告を出したホンダに話を聞くとともに、広報コンサルタントの見解を聞きました。
ライバルと競い合い成長
まず、ホンダ(東京都港区)広報部の担当者に聞きました。
Q.F1レースのライバルに感謝する広告を出した意図を教えてください。
担当者「ホンダは1964年以来、何度かのブランクはありましたが、世界最高峰の四輪レースであるF1に挑戦してきました。F1に挑戦する理由は、単にレースに勝利して名声を得ることだけではなく、世界の頂点を目指していく過程でヒトと技術を磨くことにあります。
実際にライバルメーカーたちと切磋琢磨(せっさたくま)する中で鍛えられたヒトと技術を製品開発に生かすことで、これまで、ホンダは成長してきました。競い合ってきた彼らの存在なくして、ホンダがお客さまの喜びの実現を目指す存在になることはできなかったと考えています。こうした背景から、今回、このような『感謝』を伝える内容の広告を発行することにいたしました」
Q.「じゃ、最後、行ってきます」に込めた思いは。
担当者「ホンダF1最終年の最終戦の決勝レースに臨んでいく意気込みを、その当日の朝に発信させていただきました」
Q.トヨタ、ルノーはレースだけでなく、日常の自動車販売でもライバルでもあります。そこは意識したのでしょうか。
担当者「今回はF1で競い合ってきたライバルとして、感謝のメッセージを送る対象とさせていただいております」
Q.広告への反響は。また、トヨタからはエールと思われるメッセージがSNS上でありました。
担当者「ファンの皆さまから大変、反響を頂き、うれしい限りです。また、同じ日本メーカーとして、世界のレースに挑戦されているトヨタさまから応援いただき、本当に感謝しております。今シーズンで、ホンダはF1から去りますが、われわれの挑戦は続きます。モータースポーツ活動だけでなく、全てのお客さまをワクワクさせることができる存在になれるよう、頑張ってまいりますので、引き続き、応援いただければ幸いです」
Q.今後、F1に復帰することはないのでしょうか。最後にフェルスタッペン選手が年間王者となり、コンストラクターズでも2位で、もったいない感じもするのですが。
担当者「今シーズンの結果を受けて、『やめてしまうのはもったいないのでは?』というお声も頂いておりますが、参戦終了は2050年カーボンニュートラル実現という、新たなチャレンジにリソースを振り向けることが目的ですので、その判断に変わりありません」
もっとポジティブであれば…
続いて、広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。
Q.今回のホンダの広告について、どのように思われますか。
山口さん「私はF1も含めたモータースポーツの大ファンです。この広告を通して、ホンダのF1最後の出場に対する切ない思い、ライバルへの感謝の気持ち、多くの人たちに最後のレースに注目してほしいと願う気持ちを強く感じました。モータースポーツという世界の中では、技術の極限を競い合い、ドライバーは命を懸けた戦いを繰り広げるので、ライバルへの感謝や『敵』との間に友情が生まれることはあるかと思います。
SNSでの反響も大きく、モータースポーツファンやホンダ車のファン、一部のネットユーザーにとっては心を揺さぶられる広告だったと思います。一方で、一般生活者、ホンダ車の潜在購買層、そして、F1運営組織やF1参戦を続けるライバルメーカーの人たちの中には『感傷的過ぎる広告だ』と感じた人もいたのではないでしょうか」
Q.「感傷的過ぎる広告」というのは、広報としての視点からも感じますか。
山口さん「広報の視点からはそのようにも感じます。広告出稿にあたって、広報的に検討すべき事柄として、F1運営組織や今後も参戦するライバルメーカーに対する配慮、ホンダのF1撤退に対する国民の関心度、将来に向けて展開したい企業イメージの3点があるというか、あったと思います。
まずはライバルに対する配慮ですが、ホンダはF1の主要参加者であり、F1の運営組織やF1に参戦を続けるメーカーにとって、ホンダの撤退はボディーブローを受けたようなダメージがあると思います。そのホンダから、広告を通して感謝を示され、素直に受け取れるか疑問に感じました。
トヨタや日産に比べると、ホンダは後発の自動車メーカーですが、F1にはいち早く、1964年に参戦し、日本メーカーの中で最も優秀な成績を収めています。その活躍がホンダの世界的イメージアップに大きく貢献したと思います。ライバルメーカーに心から感謝の気持ちを伝えたいだけなら、F1に関心のない一般国民も巻き込む広告という媒体を使わなくても、直接、伝える方法はいくらでもあったでしょう。
次にホンダのF1撤退に対する国民の関心度ですが、高いとは言えないと思います。そんな中で最終戦を前にして、ライバルに対する感謝の気持ちを感傷的な広告で伝えることは、F1撤退を国民にネガティブな形で再認識させることにもつながると思います。個人的にはとても感動した広告だったので、少し残念でした。もう一工夫あってもよかったと思います」
Q.どのような広告がよかったのでしょうか。
山口さん「感傷的、懐古的なものでなく、企業の未来と責任とをポジティブな形で強く訴求する広告です。これは先ほど3点目として挙げた『ホンダが将来に向けて展開したい企業イメージ』に関係します。広報的視点とモータースポーツファンの一人としての視点から見ると、広告は最終戦に臨む当日の朝ではなく、勝敗にかかわらず、結果が出た直後の掲載の方がよかったと思います。
私はこの記事の取材とは関係なく、最終戦後の12月17日に東京・青山のホンダショールームを訪れました。レッドブル・ホンダのマシンをはじめ、何台ものマシンに囲まれて、感激に浸りました。そこで感じたのは懐古的な感傷ではなく、ホンダが苦難を克服して歩んできた道程と、今後もこれまで同様、挑戦を続けるであろうと思わせる力強いイメージでした。
レースはフェルスタッペン選手が勝利したのですから、彼の写真と共に、広告のど真ん中にF1マシンの写真をドーンと置き、青山の展示場にあった『いっしょに、やったぜ! レッドブル・ホンダF1 2021年ドライバーズ・チャンピオン獲得!』を掲げ、それに『ありがとうフェラーリ、ありがとうロータス、…』とコピーが続く広告であれば、F1に残るライバルに敬意を払いつつ、今後も続くであろう力強い挑戦が垣間見える広告になったと思います。
結果次第では『いっしょに、やったぜ!…』の部分を外しても、そうした広告であれば、ホンダがF1撤退後も挑戦を続け、将来、電気自動車レース『フォーミュラE』への参戦もあるかもしれないというポジティブなイメージを醸成したのではないでしょうか」
Q.トヨタがエールと思われるメッセージを返しました。
山口さん「感謝には丁寧に答えるのが大人の礼儀です。ポジティブに返答した方が、広報的な効果が見込めるのは明らかです。ただ、返答とされるコメントはトヨタのスポーツブランドの公式ツイッターに掲載されたもので、あくまで、モータースポーツの世界の中でのエール交換だと思います」
Q.今回はモータースポーツの世界での話ということですが、とはいえ、ライバル企業同士が感謝を述べ合ったり、エールを交換したりするのは珍しいように思います。
山口さん「競合相手の会社を褒めたたえ、利点を洗い出して、参考にしようという活動は日常茶飯事です。しかし、公に競合相手をたたえたり、エールを送ったりする行為は一般生活者に『裏に何か隠されているのではないか』との疑念を抱かせる場合もあると思います。ライバルに感謝する気持ちは、よいことだと思います。
しかし、その気持ちを広告として出す場合は、ライバルや消費者・生活者に与えるかもしれないさまざまな影響を十分に検討することが必要だと思います」
オトナンサー編集部
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