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もはや無用の長物「日本最後のトロリーバスの遺産」どうするの? 現場責任者に今後を直撃!「売ります」明言

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「日本最後」だった鉄道、いやバスの廃止から2年

 長野県と富山県を結ぶ世界級山岳ルート、立山黒部アルペンルートが2026年6月1日、全線開業55周年を迎えました。その記念イベントで、今も残るトロリーバス時代の“遺産”の今後が明かされました。

Large figure1 gallery12立山トンネルの電気自動車(EV)バスが、反対方向のバスと行き違いをする様子。トンネル上部には「架線」が残る(大塚圭一郎撮影)

 立山黒部アルペンルートの大部分の交通機関を運行する立山黒部貫光(富山市)は8月29日、「2026 のりものデイズ」アルペンルート全線開通55周年特別企画イベントとしてトークイベント「乗り物がつなぐ絶景~乗り物有識者が語るアルペンルートの魅力~」を富山県立立山自然保護センター(富山県立山町)で開催。鉄道博物館の石田 亨館長とともに、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)もお話をさせていただきました。

 アルペンルートの大観峰(標高2316m)と室堂(標高2450m)を結ぶ「立山トンネル」(3.7km)では、2025年のシーズン(4月15日~11月30日)から電気自動車(EV)バスが走っています。前年のシーズンまでは日本最後となったトロリーバスが29年間にわたって活躍し、最終日の2024年11月30日には別れを惜しむ“胸熱”の光景が見られました。

 トークイベントでは、立山トンネルトロリーバスを懐かしむセッションが設けられました。「トロリーバスの運転や、整備をしたいという思いを持って入社した」と話す立山黒部貫光の整備現場の責任者がサプライズゲストとして登壇しました。

実はバスよりも電車に近い構造

「トロバス」の愛称で親しまれたトロリーバスは、車両の屋根には棒状の集電装置「トロリーポール」が付いており、これを使って上空に張ったトロリー線(架線)から電気を取り込んでモーターで走ります。

 ハンドルや足元のペダルを操作し、タイヤで走るのはバスのようですが、構造はむしろ電車に似ています。日本の鉄道事業法では鉄道の一種である「無軌条電車」に分類し、運転手はバス運行に必要な大型二種免許に加え、動力車操縦者運転免許証の取得も必要です。

 鉄道博物館の石田館長は、所蔵写真をスライドに投影しながらトロリーバスの歴史を説明しました。日本で営業運転が始まったのは1928年の兵庫県の温泉施設「新花屋敷温泉」への輸送用でしたが、わずか4年弱で運行を終了。一方、京都市で1932年、名古屋市で1943年にそれぞれ誕生し、第2次世界大戦後には川崎市、東京都、大阪市、横浜市でも運行が始まりました。

だから「戦後はトロリーバス」だった

 石田館長は「戦後は資材不足もあって路面電車だと線路を敷くのが大変だった一方、性能が良いディーゼルエンジンを積んだ大型バスもなかった。このため線路を敷く必要がなく、ある程度の輸送力もあるトロリーバスがけっこう流行ったと聞いた」とし、自身の幼稚園時代には「(東京都内の)明治通りをトロリーバスが走っていたのを覚えている」と明かしました。

Large figure2 gallery13立山黒部貫光が立山トンネルで1996~2024年に走らせていたトロリーバス(大塚圭一郎撮影)

 トロリーバスは、都市部では1972年に廃止された横浜市を最後に一掃されました。モータリゼーションで悪化した道路渋滞に巻き込まれて定時運行が難しくなったことや、車両の製造費用が割高なことなどがネックになりました。

 これに対し、走行中に排ガスや二酸化炭素(CO2)を排出しないトロリーバスの環境性能が重宝されたのが、中部山岳国立公園が大部分を占める立山黒部アルペンルートです。

 扇沢~黒部ダム間の6.1kmある「関電トンネル」では、関西電力が最初の東京オリンピックが開かれた1964年にトロリーバスの運行を開始。1971年の開通当初はディーゼルバスを使っていた立山トンネルも、1996年にトロリーバスへ切り替えました。

 トロリーバスの現役時代を知るエキスパートとして登場した立山黒部貫光運輸事業部運輸課自動車運転区の早川忍技術長は、トロリーバスに変わったことの衝撃をこう振り返りました。

「ディーゼルバスだった時は立山トンネルの壁は真っ黒で、一日働くと鼻の中も真っ黒になったのが、トロリーバスに転換したとたんに空気がすごくきれいになりました。運転していても前がすっきりと見えるようになり、静かに走ります。(ディーゼルバスのときに)エンジン音がうるさいと言われていたのとは大違いでした」

 筆者はアメリカ西部カリフォルニア州サンフランシスコ市交通局のトロリーバスに乗車した際の経験を「走行中にトロリーポールがトロリー線から外れてしまったため停車し、女性運転手がチッと舌打ちをしながら棒のような器具を持って外に出て、ポール線に戻すまで大変そうでした」と紹介し、早川技術長に「運転中にポール線から外れてしまって大変なことはなかったですか」と質問しました。

 早川技術長は自身が運転中に外れたことはないと前置きしつつ、外れた場合には「復旧に5分ぐらいはかかった」と話しました。

 トロリーポールが外れた場合には、車体後部に2つ取り付けられていた丸いドラム状の部品「トロリーレトリーバー」がポールとつながったロープを巻き取り、ポールを車体側へ引き戻します。このときに「ロックがかかってしまい、解除するのにすごく力をかけなくてはいけなくなる」と解説しました。

立山トンネルにまだ施設が残っていますが…

 続いて筆者は、EVバスに移行した今も立山トンネルに残っているトロリー線について、撤去する計画があるのかどうかを尋ねました。すると、早川技術長は「2027年から28年にかけての冬(27年12月~28年4月中旬の運休期間)に撤去を予定している」と明らかにしました。

Large figure3 gallery14室堂に停車中の立山トンネルの電気自動車(EV)バス(大塚圭一郎撮影)

 費用は「何千万円もかかるのではないか」と見積もり、26年12月から27年4月中旬までの運休期間に撤去しないのは「他の冬の工事もあり、トンネル内をなかなか封鎖できないためです」と説明しました。

 立山トンネルトロリーバスは29年間にわたって無事故で走り続けただけに、筆者は「撤去したトロリー線を、安全運行を支えた『落ちないお守り』として受験生に売ったり、ファンにトロリーバスの部品を販売したりできないでしょうか」と提案しました。

 早川技術長は「トロリーバスの部品の一部は保管している」とした上で、「それらの一部を売る機会を設けられると思います」と部品販売を今後検討していることを明らかにしました。

 トロリーバスの後継となる立山トンネルのEVバスでは、55周年記念の一環として、立山黒部アルペンルートが全線開業した1971年に流行した「懐メロ」を大観峰、室堂の発車メロディーとして流しています。

 第1弾として2026年6月1日から7月24日まで尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」を流したのに続き、1971年に放送が始まった「帰ってきたウルトラマン」のテーマソングが7月25日から響いています。期間は2026年のシーズン終了の11月30日までとなります。

 筆者が「今後はどのような発車メロディーを予定していますか」と質問したところ、司会を務めた立山黒部貫光営業推進部プロモーションセンターの亀島栄介副所長は「2027年以降の対応は未定ですが、2023年まで発車時に数秒鳴らしていた『ジリリリ』という発車ベルを復活させることを検討するかもしれません」と明らかにしました。ただし、「今後の社内協議により、別のメロディーや音楽を使用する場合もあります」と説明します。

 トークイベントは立山トンネルトロリーバスを運行中のエピソードに加え、トロリー線の撤去計画といった未発表の内容も飛び出して盛り上がりました。早川技術長は終了後も、トロリーバスについての参加者の熱心な質問に答えました。全線開業55周年という大きな節目を迎えたことをあらためてお祝い申し上げます。安全輸送に尽力するとともに、来訪者が楽しく過ごせるように粉骨砕身してきたスタッフの皆様に深く敬意を表します。

 立山黒部アルペンルートを巡っては、途中の黒部ダムと黒部峡谷鉄道のトロッコ電車の欅平駅(黒部市)をつなぐ「黒部宇奈月キャニオンルート」の一般開放が2026年10月2日に始まることも追い風になります。キャニオンルートは「売り出された26年11月末までの約2700人分の団体旅行がほぼ完売した」(地元観光企業)という大反響ぶりで、注目度が高まる立山黒部エリアへの観光機運が高まるのは請け合いです。

 インバウンド(訪日客)の地方分散でも大きな役割を発揮してきた立山黒部アルペンルートが、国際競争力のある山岳ルートとして「さらなる伸びしろ」を発揮することを強く期待しています。

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