「こ、これが“陸蒸気”ってやつか…!」 令和に乗れる“150年前そのままの鉄道”を体験! 歴史の沼が深すぎる!?
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明治時代そのままで運転される、明治村のSL列車
愛知県犬山市の「博物館明治村」で夏季のあいだ運休していた「SL乗車体験」が2026年9月20日から再開しました。日本各地には、かつて活躍していた車両を動く状態(動態)で走らせる施設や路線が点在していますが、明治村もその施設の一つ。ここは明治時代の建物を移築保存して1965(昭和40)年に開業した屋外博物館です。
SL名古屋駅付近の撮影ポイントでパシャリ。沿線は外から撮影できる場所は少ないが、5丁目の「菊の世酒蔵」そばからここに上がることができ、案内もある(遠藤イヅル撮影)
SLとは蒸気機関車(Steam Locomotive)を指しますが、「ホンモノの明治時代の建物」が並ぶ明治村だけに、SL列車に使用されている蒸気機関車はなんと明治生まれ。乗客が乗る客車も明治期の車両が使用されているだけでなく、国内ではたいへん珍しい連結器が未だに残り、しかも当時そのままの連結作業を行なっているというのですから、驚きは増すばかりです。
明治村は約100万平方メートル(東京ドーム換算で約21個分)という広大な敷地面積を誇ります。エリアは「1丁目」から「5丁目」に分かれており、SL列車は明治村の北端・5丁目に建つ「SL東京(とうきゃう)駅」と、ほぼセンターの「4丁目」にある「SL名古屋(なごや)駅」の間を約800mで結んでいます。
SL東京駅は明治村の公式な駐車場のある北口のその至近に位置。そして名古屋駅から歩いて数分で、もうひとつの動態保存鉄道「京都市電」が明治村の南東部、「3丁目」まで走っています。さらに村内を走る「村内バス」を利用すれば広い村内を効率的に回ることができます。
北口のお土産売り場も兼ねるSL東京駅は、名鉄広見線の日本ライン今渡(いまわたり)駅の初代駅舎を再利用しています。ここでSLの乗車券を購入。1回あたりの運賃は大人700円・小人500円ですが、大人1000円・小人700円の「SL・市電一日乗車券」なら一日中乗り放題なので、往復乗車だけで元が取れます。筆者のように何度も乗車する人には購入必至です。
客車は「ギリギリ明治製」
まずは、SL東京駅の始発となる10時40分名古屋行きに乗車します。屋根のないホームにはすでに3両の小さな茶色の客車が停まっています。
保存鉄道の機関車牽引列車の客車は、運転開始時に新たに改造や新製によって用意することがあり、機関車の客車の製造年代が合っていないケースも散見されます。しかし明治村では、前述のように機関車と客車の時代を揃えているのは特筆に値します。また今なお乗車できる古典的な2軸客車としても、たいへん貴重な存在です。
客車は手前からハフ14、ハフ11、ハフ13の順に並んでいました。「ハフ」のハは3等車(イ=1等、ロ=2等、ハ=3等)、フは「手ブレーキ付き(フ=ブレーキ)」を示します。
両端に連結されていたハフ13と14は、それぞれ新宮鉄道の「ハ14」「ハ13」として1912年に同鉄道の工場で製造されました。明治村のHPによれば「明治45年(1912)製造」とありますが、実際には1912年でも、明治時代が同年7月に終わった直後の1912年秋……つまり大正元年に完成したとのことです。とはいえ、明治期の車両であることに変わりはありません。
新宮鉄道が国有化されたのちも鉄道省の車両として使用され、1942(昭和17)年に雄勝(おがち)鉄道(のちの羽後交通雄勝線)に譲渡されています。
ハフ11は1908(明治41)年に天野工場で製造された木造客車で、明治村では最古の客車です。当初は青梅鉄道の「メ4」として使用されていましたが、のちに高畠鉄道(のちの山形交通高畠線)、さらにこちらも雄勝鉄道(羽後交通雄勝線)へと渡っています。つまり3両とも、最終的には羽後交通雄勝線からやってきたことになります。
なおハフ11は、ハフ13・14の「明かり取り窓」付きのダブルルーフ(二重屋根)とは異なり、通風のために二重窓となっています。車体もデッキがなく、片開きドアを備えています。
ちなみに青梅鉄道は現在のJR青梅線、新宮鉄道はJR紀勢本線の一部(新宮〜紀伊勝浦)の前身です。
新橋〜横浜間を走った「陸蒸気」が現役という驚き
やがてSL東京駅の奥にある機関庫から、日本国内で最古の動態保存鉄道車両となるSL「蒸気機関車12号」が走ってきました。12号は1874(明治7)年にイギリスのシャープ・スチュアート(Sharp Stewart & Co.)で製造された機関車です。
SL名古屋駅で発車を待つハフ14から見た12号(遠藤イヅル撮影)
明治7年といえば、新橋〜横浜間に日本で初めて鉄道が開業してわずか2年後のこと。いかにこのSLが古いかがわかります。それにしても江戸時代が終わってわずか5年で鉄道が開業したことと、12号が明治維新からわずか7年後に日本にいた事実にも改めて驚かされます。
しかも12号は、新橋〜横浜間の輸送力増強のために輸入された機関車です。つまり日本初の鉄道路線を実際に走っていた「陸蒸気(おかじょうき)」の一両なのです。そんな貴重な機関車が、製造から152年を経た今なお現役で走っているとなれば、その歴史の重さに感動するばかりです。
動態保存にあたっては、明治村の公式HPでは「未来へ残す、動態展示への挑戦」と題し「村内での点検・修理を実施するとともに、約6年に一度の周期でオーバーホールを行うことで、この唯一無二の貴重な車両を未来へ残すための活動を続けている」と記しており、並々ならぬ決意と情熱、努力が注ぎ込まれていることが伺えます。明治村のSL保存運転は、まさに偉業と言って差し支えないでしょう。
なお12号は、上陸当初「23号」を名乗りましたが、1909(明治42)年に160形「165号」へ改番。1911(明治44)年に名古屋鉄道尾西線の前身である尾西鉄道へと譲渡された際に、現番号の「12」を得ています。
いまや失われた「ねじ式連結器の連結作業」
12号は客車の横を抜けて前へ進み、ポイントを過ぎると後退して客車のいる線路へ入線。客車と連結します。いわゆる「機回し」と呼ばれる作業です。客車の脇には連結を担当する「連結手」が待機しています。
ねじ式連結器の連結作業。まずは機関車側の螺旋連結器を客車側のフックに引っ掛け、次に客車側の連環連結器を機関車側に掛けて作業が終了する(遠藤イヅル撮影)
ホーム上の係員の手旗と声の指示に従って12号機がバックしながらゆっくりと客車に接近。やがて車両から2本飛び出た緩衝器(バッファ)同士が接触しました。
すると連結手は客車と12号の間に入り、12号側に備わる両端がリング状の金具(螺旋連結器)を客車側のフックに引っ掛けます。続いて連結手は、バッファが密着するように金具を締め上げます。最後に、客車側の鎖状金具(連環連結器)を機関車のフックに掛けて連結作業が終了です。
このようにバッファと鎖状の金具を用いる連結器は「ねじ式連結器」と呼ばれており、金具が引っ張る力を、バッファが押す力を伝えるようになっています。
ねじ式連結器は、現在でも欧州の鉄道では主流の連結装置として使用されています。イギリスの鉄道を見本にした日本でも、アメリカ式の「自動連結器」を導入した北海道以外では明治〜大正時代に採用されていました。しかし欧州よりも車両が小さな日本では、バッファの間隔も狭く逃げ場がないために、連結作業時に連結手がバッファに挟まれる死傷事故が続発しました。
また連結器の強度が低く列車の輸送力アップに限界があったこと、螺旋連結器と連環連結器の向きが合わないと連結できないなど、デメリットも少なくありませんでした。そこで国(鉄道院)は1925(大正14)年、5年もの準備期間を経て自動連結器への「一斉取り替え工事」を実施。約6万両もの車両の連結器を1日でほぼ交換した、というエピソードが残っています。
そのため現代の日本では、ねじ式連結器が使用されていること自体がまれ。さらに連結作業まで見ることができるとなれば、かつての鉄道の日常風景を目の当たりにできるたいへん希少な機会といえるのです。
明治時代の列車は、こんな感じだったに違いない
10時40分、SL名古屋駅に向かってSL列車が出発しました。軽快な汽笛を吹いた12号は、大きな衝動もなく発車して、ゆっくりと加速していきます。
速度は10km/hほどで実にのんびりしていますが、開け放った窓からはさわやかな風とともに煙のにおいが流れ込み、2軸客車のゴトゴトとした揺れと合わせて「きっと明治時代の列車はこんな感じだったに違いない」という思いを強くさせてくれます。何よりも150年以上前の機関車、100年以上前の客車がこのように「ごく当たり前に」運転されていることに感動を覚えました。
5分ほど走ると終点のSL名古屋駅に到着。切り離された12号は奥まで進み、SL東京駅のように機回しを行ってSL東京駅側に再び連結されました。そのため機関車の後部が前方を向く「逆機連結」となります。
SL名古屋駅の奥には転車台(ターンテーブル)もあり、かつてはここでSLの向きを変えて連結していました。しかし現在は、転車台の不具合などから方向転換はしていないようです。
筆者はこのあと京都市電、SL列車を何度も乗って堪能。どちらもおおむね35分おきに運転されており、村内の保存鉄道とはいえ日常で乗る鉄道路線のように、移動手段として気軽に使えるのも大きな魅力といえます。
なお明治村にはもう1両のSL「蒸気機関車9号」が在籍します。2023年7月よりオーバーホールのため搬出されていましたが、2026年8月、約3年ぶりに明治村に戻りました。調整が必要なため、9号の営業運転開始には時間を要するとのこと。なお12号も2019年からオーバーホールが実施され、2023年に運転を再開しています。
なお明治村にはこのほか鉄道に関連する保存展示が数多くあります。今回取り上げたSLに関しては、12号が1985(昭和60)年まで使っていたオリジナルボイラーが5丁目の「帝国ホテル中央玄関」付近に保存されているほか、4丁目に「尾西鉄道蒸気機関車1号」が「六郷川鉄橋」の上に静態保存されています。1号は1896(明治29)年に尾西鉄道が開業するにあたり導入された蒸気機関車で、アメリカのブルックス社で1897(明治30)年に製造されました。
※ ※ ※
明治村のSLは土日祝の運転がメイン。通常はSL名古屋駅発16時45分が最終列車ですが、冬季には15時50分に早まるようです。冒頭のとおり、暑い真夏には運転されないこともあるため、運行情報や時刻については、事前に公式HPをしっかりチェックしてください。
貴重な建築物を見られる明治村はたいへん魅力ある施設です。さらに村内を走るSL列車も、想像以上に濃厚で貴重な保存鉄道でした。鉄道ファンならずとも、「ホンモノの明治生まれ」という重厚な歴史のオーラをまとう車両たちは、きっと多くの人を魅了することでしょう。
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