「うーんカワサキ、ちょっとズレてる!」→結果的に一番のロングセラー「エストレヤ」の唯我独尊クラシック
- 乗りものニュース |

ネオクラブーム全盛期に登場した「エストレヤ」
1990年代初頭の日本のバイクシーンでは、ヤマハ「SR400」の大ヒットなどをきっかけとする、空前のネオクラシックブームに沸いていました。ホンダ「GB250クラブマン」などの中型単気筒モデルも同様にヒットしましたが、その最中にカワサキが発売したのが、「エストレヤ」という250ccの単気筒モデル。往年の名車「メグロジュニア」シリーズを彷彿とさせる、クラシカルな外観のバイクでした。
1992年に登場したカワサキ「エストレヤ」は、25年ものロングセラーを誇った(画像:カワサキ)
圧倒的な人気を誇ったSR400、そして2番人気だったGB250クラブマンは、ともにイギリスのカフェレーサー風のカスタムをして乗るのが当時大流行しました。この2台にぶつけるかのように、1992(平成4)年に登場したのがエストレヤだったわけですが、細部にはカワサキの本気度を感じることができました。
エンジンはイギリスの往年のロードモデルにならったロングストローク仕様で、定番のキャブトンマフラーも標準装備。同時代の250ccモデルと比較すれば、加速力などの性能面でアドバンテージは大きくないものの、単気筒エンジンならではのトコトコといく独特の乗り味を味わえるモデルでした。
他方、外観的なモチーフとなったのはサドルシートスタイルのメグロジュニアシリーズであり、イギリスの黄金期のカフェレーサーとはやや方向性が異なりました。こういった市場ニーズとの微妙なズレもあってか、初代エストレヤは話題を集めながらも販売では苦戦しました。
そして初代の発売から3年後となる1995(平成7)年には、「エストレヤRS」という派生モデルが加わります。RSは初代のサドルシートから、前後列一体型のロングシートに。どことなくカフェレーサーに寄った雰囲気の外観となっていました。エストレヤRSは初代を凌駕する大ヒットを記録し、ようやくカスタムベースとしても注目を浴びるようになったのです。
カラーの多さは日本のバイクで一番?
翌1996(平成8)年には、標準モデルとRSの両方に「カスタム」というグレードが追加されましたが、このモデルは驚くべきことに、前後ともディスクブレーキからドラムブレーキに変更されたモデルでした。
「心地良く、胸の奥を揺さぶるマテリアル。」のコピーの通り、各パーツの細部の仕上げも素晴らしかった(当時のカタログより)
これはクラシカルなイメージをより高めるための変更で、初期のSR400もかつて、販売での苦戦から同じような仕様変更を行ったことがあります。クラシックスタイルのバイクには「機能よりもスタイルを優先させる」というユーザー需要も根強く、こういった退化するかのような改良も、しばしば起こるように筆者(松田義人:ライター・編集者)は感じます。
ともあれ、これでエストレヤ(標準モデル)、エストレヤRS、エストレヤカスタム(標準モデルのカスタム)、エストレヤRSカスタムという、大きく4つのラインナップが確立されました。以降エストレヤシリーズは2007(平成19)年のフルモデルチェンジまで、この4モデル体制を維持しました。
この2代目エストレヤは、シリーズにとって大きな転機となったモデルでもあります。2007年施行の新たな排出ガス規制に適合させるため、燃料供給方式はキャブレターからフューエル・インジェクションに。また前輪にディスクブレーキ、後輪にドラムブレーキを装備したモデルへと統一されました。
ちなみに、初代エストレヤシリーズは10年強のモデルライフを通じて、毎年のように新色を発表して多くのカラーバリエーションを展開しました。これは2代目へ移行したあとも続いたので、エストレヤはもしかすると、歴代の日本製バイクで最もカラーバリエーションが多いシリーズではないかと思えるほど。
一説によるとエストレヤシリーズは、初代のデビューから2017(平成29)年の生産終了まで、25年間で50以上のカラーバリエーションが存在し、年式ごとの塗り分け変更なども含めると、その数は100パターン前後にのぼるとも言われています。
忘れられない兄弟モデル「250TR」
なお余談ですが、実はエストレヤには兄弟といえるモデルが存在しました。それが2002(平成14)年に発売されたデュアルパーパスモデル「250TR」です。元々は1970(昭和45)年発売の同名車種をモチーフとしたバイクですが、エンジンはエストレヤと同系統のものを採用しており、コアな人気を集めました。
2024年から販売がスタートしたカワサキ・W230。ただし、エストレヤとは関係がないモデル(画像:カワサキ)
おそらくカワサキはエストレヤの成功と、1990年代後半に巻き起こったホンダ「FTR」やヤマハ「TW200」などをダートトラッカー・スタイルへとカスタムするブームにぶつけるつもりで、250TRをリリースしたものと思われます。
しかし発売当初こそヒットしたものの、以降は急速にブームが落ち着き、250TRの影も次第に薄くなっていきました。それでも2013(平成25)年の生産終了まで、約11年間にわたるロングセラーとなったのは、やはりエストレヤ譲りの優れたエンジン、そしてカワサキが得意とするトラッカースタイルのバイクだったからだと思います。
カワサキ車で一番のロングセラーに
さて当のエストレヤは、2014(平成26)年にフルモデルチェンジ。とはいえ、シートの変更やヒートガードの装備、オプションパーツが多数用意されたくらいで、抜本的なアップデートではありませんでした。筆者は当時、カワサキがエストレヤに対して、1990年代の発売当初ほどの熱量を注いでいないように感じました。時代を経て、ユーザーが安定したことを悟ったかのような印象でした。
結果的にエストレヤは2017(平成29)年、排出ガス規制の強化にともない「ファイナルエディション」をもって生産終了に。初代から25年間にわたって販売されたエストレヤは、カワサキ車のなかで一番のロングセラーとなりました。
また、エストレヤの日本での生産終了と同時期には、東南アジア市場で「W250」と車名を変えて販売がスタート。2021年までタイやインドネシアで販売されました。
他方、2024年に日本向けに発売された「W230」は、「KLX230」譲りの単気筒エンジンを搭載したモデルです。開発時にはエストレヤのエンジンを採用する案もあったものの、見送られたと言われています。エストレヤ由来のW250と、現行車のW230は、このように出自がまったく違うモデルなのです。
カワサキのバイクは硬派なイメージが強いだけに、長らくヤワな印象を持たれることも多かったエストレヤですが、長い歴史のなかで、多くの初心者や女性ライダーをバイクの世界に導いた功績を思えば、その素晴らしさが実感できると思います。
また速さよりも、バイクの鼓動の心地良さや、ゆっくり流れる景色の楽しさを改めて感じさせてくれたのもエストレヤでした。入門ライダーでも手を出しやすく、そしてバイクの本質的な魅力も教えてくれる1台だったからこそ、エストレヤはロングセラーになったのでしょう。
長く売られていただけに、当然エストレヤは中古車も相対的に多く流通しているはずですが、それでも相場では走行距離1万kmオーバーの個体が50万円台からと、比較的高値となっています。エストレヤのように乗りやすくてシンプルなバイクは、実はほかのモデルでは代えが効かず、また今も多くの人が求める1台なのかもしれません。
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