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「欧州勢が有力」の高速鉄道計画になぜか「JR東海」が呼ばれたワケ 1000kmの一大プロジェクト “どんでん返し”はあるか?

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「欧州の影響力が強い」カナダの高速鉄道計画

 カナダ政府は2025年、最高速度が300km/hの電車で結ぶ同国初の高速鉄道「ALTO(アルト)」でつなぐ計画を発表しました。最大都市のオンタリオ州トロント、首都オタワ、主要都市のケベック州モントリオール、歴史的な都市ケベックシティーの約1000kmを結ぶ専用軌道を建設する計画で、先行してオタワ~モントリオール間を2029年に着工することを目指しています。

Large figure1 gallery9冬の米原駅を通過する東海道新幹線N700S(画像:PIXTA)

 整備する主体は国営企業アルト(ALTO)で、コンソーシアム(共同企業体)「ケイデンス」が設計や建設、運用、保守などで支援します。ケイデンスには6社が参加しており、カナダの航空最大手エア・カナダ、公共事業受注企業CPDQインフラ、エンジニアリング企業のアトキンスレアリス、フランスの公共交通機関運行受託企業ケオリスのカナダ法人、エンジニアリング企業シストラのカナダ法人、フランス国鉄(SNCF)の高速列車「TGVイヌイ」を運行するSNCF子会社のSNCFボイジャーで構成しています。

 ケイデンスの構成企業が物語る通り、カナダの鉄道は「欧州の影響力が強く、日本にとっては参入障壁が高い市場」(日本の鉄道会社幹部)とされています。このため、アルトでも「欧州の高速鉄道規格が採用され、車両は(TGVイヌイなどを手がけてきたフランスの鉄道車両大手)アルストムの受注が有力だ」(日本の運輸関係者)とみられています。

 ところが意外なことに、アルトがJR東海幹部を招いて会談したことが判明しました。

 JR東海はオーストラリア東海岸の高速鉄道建設計画に参画することを目指しており、事実上頓挫しているもののアメリカ南部テキサス州のダラス~ヒューストン間の新幹線方式での建設も目指してきました。果たしてアルトにも加わる可能性があるのでしょうか。

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社編集局経済部次長)が関係筋を取材したところ、アルトがJR東海から話を聞いた「納得の理由」が判明しました。

高速鉄道の競争力 「費用対効果が高い」と首相も太鼓判

 アルトが手始めに整備を目指すオタワ~モントリオール間は約200km離れており、国営鉄道のVIA鉄道カナダで2時間前後かかります。

Large figure2 gallery10カナダ東部を走るVIA鉄道カナダの列車(大塚圭一郎撮影)

 これは上越新幹線の営業キロならば東京~越後湯沢(新潟県湯沢町)に匹敵し、最短1時間6分で結んでいます。もしもアルトが開業すれば1時間程度に短縮されるのは確実で、マイカー利用者に移行を促し、二酸化炭素(CO2)排出量を削減する脱炭素化に貢献します。

 アルトの主要区間になると見込まれているのが、約540km離れた二大都市のトロント~モントリオール間です。VIA鉄道は5時間半前後を要しているうえ、使う線路は貨物鉄道が所有しており「貨物列車を優先して走らせる権利を持ち、旅客列車は後回しにされている」(VIA鉄道)ため遅れることもしばしばです。

 このため現在は旅客機で移動するのが主力ですが、空港への移動や手荷物検査などの時間を含めると中心部間の移動に最短でも約3時間半かかっています。

 これに対し、アルトは3時間7分で結ぶ計画のため、旅客機に対抗できる競争力を持ち、脱炭素化にも寄与します。

 アルトを建設する予定のオンタリオ、ケベック両州の沿線地域は1800万人規模の住民を抱え、カナダの国内総生産(GDP)の約4割を稼ぎ出す屋台骨となっています。

 カナダ政府は、アルトができれば主要経済圏を短時間で移動できるようになることで経済が活発化し、観光を促進することで年間GDPを最大で350億カナダドル(1カナダドル=112円で3兆9200億円)押し上げると試算。建設中には5万1000人の雇用を創出すると見込んでいます。

 カナダのマーク・カーニー首相もアルトについて「高速鉄道は費用対効果が高く、持続可能性を高め、地域社会を結びつけ、より迅速な移動につながる」と評価しています。

 駐カナダ日本大使館は2026年3月28日、モントリオールにあるアルトの本部でアルト、ケイデンス、JR東海とともに協議したことを交流サイト(SNS)に投稿しました。その上で「日本の高速鉄道技術がカナダのさらなる改善に貢献できることを望んでいます」とのメッセージを寄せています。

 その協議にJR東海から出席したのは、奇しくも新幹線を売り込むのに象徴的な幹部でした。

「ご先祖もスゴい幹部」からカナダ側が特に真剣に聞いた話題とは?

 筆者が関係筋に当たったところ、JR東海から出席したのは加賀山慶一執行役員です。加賀山氏は総合技術本部副本部長・技術企画部海外高速鉄道プロジェクトC&C(コンサルティング&コーディネーション)事業室長の要職を務めています。

 複数のJR東海関係者によると、加賀山氏は鉄道一家の家系で、親族には東海道新幹線の開業に尽力して「新幹線の父」と呼ばれる故・十河信二元国鉄総裁(第4代)や、十河氏の娘婿の故・加賀山之雄元国鉄総裁(第2代)らがいます。

 関係筋によると、JR東海は1964年の東海道新幹線開業から「乗車中のお客様が死傷する列車事故ゼロ」という実績や、ピーク時には約3分おきの高頻度で運行していること、2025年度に列車の平均遅延時分が1.0分だったように高い定時運行率を続けていることをアピールしました。

 さらに欧州勢の対抗軸として持ち出したのが、新幹線が採用している動力分散方式のメリットでした。TGVイヌイは動力集中方式を採用しているのに対し、東海道新幹線は動力分散方式を用いることで1両当たりの車両重量を軽くしており、軌道建設のコスト低減にも役立つと訴えました。

 一方、アルトおよびケイデンスが特に関心を示したのは、東海道新幹線が厳冬や積雪といった気象条件にどのように対応しているのかという点でした。アルトの整備が計画されている沿線地域は、冬に気温がマイナス20度に達することがあり、雪が積もる日も多くあります。

 JR東海は東海道新幹線の岐阜羽島(岐阜県羽島市)~京都間に位置する関ケ原・米原地区を中心とする雪対策を説明しました。この雪対策には、降雪の際に天候がみぞれであるのか雪であるのかを判別し、温度計の情報と合わせておおむね平常運転できる雪なのかどうかを確認する「降雪情報装置」の設置や、スプリンクラーによる散水などが含まれます。

 東海道新幹線がこうした雪対策にも力を入れ、高い定時運行率を確保していることをカナダ側は「真剣に話を聞いた」そうです。

どんでん返しはあるの?

 しかしながら、アルトおよびケイデンスは、JR東海や日本企業が入札に参加することを期待するような発言も、そぶりも全くなかったとされます。

Large figure3 gallery11モントリオールのビル群(大塚圭一郎撮影)

 このため、日本政府およびJR東海は交渉の進展に期待を示しつつも、「受注は難しいのではないかと受け止めている」(関係筋)そうです。

 加えて、アルトの投資額は最大1200億カナダドルと巨額のため反対意見も根強く、実現性を疑問視する向きもあります。筆者が質問したケベック州在住のカナダ人は「わが国の高速鉄道計画はこれまでも浮上しては消えており、今回も絵に描いた餅になるのではないか」との見方を示しました。

 新幹線がカナダの首都や二大都市を駆ける姿はロマンがありますが、アルトが実現して日本企業が受注する可能性はカナダの冬のように厳しいのは否めません。

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