「空飛ぶ便器」超絶ブサイク設計の“珍飛行機”なぜ誕生? だが“軍用機の革新”に功績も…その経緯
- 乗りものニュース |

見た目が酷評された実験機
1982年2月5日、アメリカで不思議な形をした飛行機が初飛行しました。その機体は見た目から、「空飛ぶ便器」「上下に重ねたバスタブ」「エイリアンのスクールバス」など、さまざまなヒドイあだ名を付けられました。同機の公的な通称は「タシット・ブルー(Tacit Blue)」。その技術は、昨今の軍用機を語るうえで欠かせない、レーダーに映りにくいステルス技術を実用レベルにまで高めたものでした。
タシット・ブルーの特徴的な機首部分(画像:アメリカ空軍)
ノースロップ(現ノースロップ・グラマン)によって生み出されたこの奇妙な航空機は、通称の「タシット・ブルー」を日本語に訳すと「沈黙の青」といった意味になります。その名の通り、“人知れず静かに”活動することを求められた、戦術偵察を想定した実験機だったのです。
1976年頃からアメリカ空軍は、国防高等研究計画局(DARPA)と協力し、前線で高い生存性を維持しつつ大胆な偵察を行える機体の開発を進めていました。そのために注目されたのが、防空用レーダーに発見されにくい、いわゆるステルス性です。タシット・ブルーはその研究の一環として開発された実験機で、正式採用はされなかったものの、YF-117Dという名称が与えられていました。
タシット・ブルーは、当時の一般的な航空機とは完全に異なる、きわめて奇抜な形状をしていました。胴体を上から見ると細長い四角形ですが、横から見ると、まるでバスタブをひとつ逆さにし、上下に組み合わせたような形に見えます。
胴体上部には巨大なエアインテークが取り付けられており、上から見ると男性用の小便器のようにも見えます。主翼は胴体のかなり後方に配置されたテーパー翼で、尾翼はV字尾翼のみが取り付けられており、垂直尾翼は存在しません。
全長は約17m、翼幅は約15m、全高は3.2mで、乗員は1名。最大速度は462km/hと決して高速ではありません。全高も驚くほど低く、全体的に上下に押しつぶされたような形状をしています。
ステルス機の元に!
このように非常に奇妙な形の実験機ですが、それこそが重要でした。通常、レーダーは電波を発信し、対象物に反射して戻ってきた信号から、機体の位置や速度を割り出します。つまりステルス性能を確保するには、レーダー波を反射させにくくする、あるいは吸収すればよいわけです。
B-2戦略爆撃機にも同機の技術は活かされている(画像:アメリカ空軍)
そこでノースロップ社は、機体表面の凹凸や鋭角部分を極力減らすことで、レーダーに映り込む要素を最小限に抑えようと考えました。その結果、この機体は期待通り高いステルス性を持つことが証明されました。真上や正面から見ると非常に奇妙な形状ですが、真横から見ると、後のステルス爆撃機B-2のボディラインと非常によく似ており、現在開発中のB-21にもその面影が残っています。まさにノースロップのステルス技術の原点ともいえる機体です。
前述のとおり、偵察機としての運用を想定して開発されたタシット・ブルーは、搭載されたレーダーも非常に高性能でした。その能力は、高高度から地上の車両の動きを追跡し、戦車やトラックなど大まかな種類の区別を行えるほどの高性能なレーダー技術の開発に貢献しました。このレーダー技術の成果は、後の地上監視機であるE-8「ジョイントスターズ」などに引き継がれています。
また、タシット・ブルーの飛行制御には、物理的な油圧の処理ではなく、コンピューターの電気信号として姿勢や速度を制御する、デジタル・フライ・バイ・ワイヤ・システムが採用されていました。
この技術も当時としては極めて先進的なもので、現代の航空機の多くに取り入れられています。2026年現在、B-2のような尾翼を持たない機体で安定した機体制御が可能なのは同技術のおかげでもあります。
数々の重要な成果を残したタシット・ブルーですが、運用期間は約3年と短く、早期に退役しています。しかしその間に135回もの飛行を行い、時には1日に数回飛行することも。引退までの総飛行時間は250時間に達しました。こうして短期間ながら多くの航空機に影響を与えたこの奇妙な実験機は、現在、アメリカ・オハイオ州にある国立アメリカ空軍博物館に展示されています。
ちなみに同機は、ネバダ州のエリア51で飛行試験が行われていました。この場所は2013年にアメリカ政府が存在を認めるまで、公式には存在しないとされていた実験施設で、その詳細を知るのは一部の関係者に限られていました。そのため情報公開以前には、周辺で実験機が原因と思われる多くのUFO目撃情報が報告され、現在でもUFOマニアの聖地となっています。
レーダーに映りにくいタシット・ブルーも、もしかすると「レーダーに映らない航空機…UFOだ!」といった具合に、UFO目撃例のひとつだったかもしれません。
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