次期戦闘機、搭載ミサイルは「日本独自で作ります」なぜ? 何でも国際開発がいいわけじゃない!
- 乗りものニュース |
日英伊の3国協同開発となる「次期戦闘機」、それへの搭載を想定した新型空対空ミサイルの開発に防衛省が予算を計上しました。従来からイギリスと研究を進めている空対空ミサイルを実用化すると思いきや、全く別物になるようです。
独自開発に乗り出す新型空対空ミサイル
防衛省は2023年8月31日に発表した令和6(2024)年度予算の概算要求に航空自衛隊が運用しているF-2戦闘機を後継する「次期戦闘機」への搭載を想定した「次期中距離空対空誘導弾」の開発費として184億円を計上しました。新型の空対空ミサイル開発に乗り出します。
次期戦闘機で置き換えられるF-2戦闘機とその兵装。右から2番目が中射程空対空ミサイルの99式空対空誘導弾(画像:航空自衛隊)。
日本政府は2022年12月9日にイギリス、イタリア両国政府と、「次世代戦闘機」を2035年までに共同で開発する「GCAP」(Grobal Combat Air Programme/グローバル戦闘航空プログラム) を推進していくと発表しており、現在3か国はGCAPの開発体制の構築に向けた作業を進めています。
他方、イギリスとの間で防衛省は、2014年度から空対空ミサイル「JNAAM」(Joint-New-Air-To-Air-Missile/統合新型空対空ミサイル)の研究を行っています。
JNAAMはイギリスの主導によりヨーロッパの6か国が共同開発した長射程空対空ミサイル「ミーティア」に、日本が開発・製造したミサイルを誘導するための「シーカー」を組み合わせたものです。
ユーロファイター・タイフーンなどへの搭載を想定して開発されたミーティアは、航空自衛隊も含めた自由主義陣営諸国で空海軍に広く採用されている中射程空対空ミサイル「アムラーム」などに比べて最大射程が長く、飛翔速度も高いのですが、大柄なためそのままではF-35のウェポンベイには収容できません。このためF-35に搭載する場合はF-35のセールスポイントの一つであるステルス性能を損ねてしまいます。
JNAAMはミーティアの制御翼を小型化し、エア・インテイク(空気取り入れ口)の形状を変更することで、F-35のウェポンベイに4発搭載できるようにしています。
JNAAMの実用版ではない!?
航空自衛隊はF-35A/Bを将来的に147機にまで増備する予定で、数の上でも航空自衛隊の主力戦闘機となる見込みです。JNAAMは、このF-35の戦闘力を大きく向上させるものと考えられていました。
このため筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はJNAAMを実用化するものが、今回の次期中距離空対空誘導弾だと思っていました。しかし防衛省関係者に問い合わせてみたところ、実はまったくの別物だそうです。
次期中距離空対空誘導弾は、現在F-15J/DJ戦闘機とF-2戦闘機に搭載されている中射程空対空ミサイル「99式空対空誘導弾」(AAM-4)と、その改良型「99式空対空誘導弾(B)」(AAM-4(B))を後継するものであるとの回答を得ました。
ではなぜ、日本はJNAAMの実用化ではなく、次期中距離空対空誘導弾の独自開発に舵を切ったのか。その最大の理由は、いま独自開発に乗り出さないと、日本が空対空ミサイルの開発能力や生産基盤を喪失してしまう可能性によるものだと考えられます。
右がJNAAMのベースとなった「ミーティア」の実大モックアップ(竹内 修撮影)。
将来的に数の上で航空自衛隊の主力戦闘機となるF-35もまた、国際共同開発機です。このため前に述べた「アムラーム」や航空自衛隊も導入するノルウェー製の対艦ミサイル「JSM」(Joint-Strike-Missile)など、F-35には共同開発に参加した国々で開発・製造された兵装だけが搭載可能となっています。
日本はF-35の共同開発プロジェクトに参加しておらず、このため航空自衛隊のF-35Aも99式空対空誘導弾などの国産兵装を搭載することはできないのです。
輸出前提か? それで得られる国民の利益とは
防衛省は有事の際の継戦能力を高めるため、外国製戦闘機用弾薬の大量調達も進めており、その一環として導入が進められているアムラームはF-35A/Bだけでなく、能力向上改修を受けるF-15Jへの搭載も予定されています。
現在のF-15J/DJは主力中射程空対空ミサイルとして99式空対空誘導弾(B)を搭載していますが、F-15Jに搭載するアムラームの調達が増加し、JNAAMがそのまま実用化されていれば、前に述べたように日本は空対空ミサイルの開発と生産の基盤を喪失してしまう可能性が高いと考えられます。
日本政府が一度は次期戦闘機を「外国との協力を視野に、我が国主導で開発」するという方針を定めた理由の一つは、必要に応じて自由に国産兵装の統合を可能とすることにありました。
国産兵装の開発と生産能力を維持することは防衛産業の雇用を守るだけでなく、自国の安全保障の外国への過度な依存を防ぐという効果があります。
次期戦闘機のイメージ(画像:防衛省)。
これまで開発された国産兵装は自衛隊のためだけに開発と生産が行われてきました。このため輸出ができる欧米の同等の製品に比べて、調達コストが高くならざるを得ませんでしたが、次期戦闘機、すなわちGCAPで開発される戦闘機に搭載する兵装は、イギリスとイタリアの両空軍などにも採用される可能性があります。そうなれば調達コスト、すなわち私たちの税負担が少なくなります。
日本で開発された防衛装備品が外国に輸出されることには賛否両論があるものと思いますが、その可能性を秘めた次期中距離空対空誘導弾の開発は、私たちの安全保障に対する税負担、さらに言えば日本の産業競争力をも左右するプロジェクトであると思いますし、それゆえに注視していく必要があるとも思います。
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