事故で電車が止まった朝、なぜか古い記憶がよみがえった【連載】散歩下手の東京散歩(2)
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バス停には、人の列が長く延びていた
2019年の春先のこと、朝いつもより少しゆっくりと家を出て会社へ向かおうと学芸大学駅(目黒区鷹番)まで来てみると、人身事故が起きた直後のようで、電車はしばらく動きませんと繰り返し駅員がアナウンスしていました。
そう言われてみれば、駅へと向かう商店街で今日は人とよくすれ違うな、時間が少し遅いからかななどと考えていました。けれど、そうだとしてもまさかそれが電車が止まっているからだとは考えなかったのです。

もし知っていたら駅へは向かわずに、目黒通りを渡るときに、そこからひょいっとバスに乗ってしまったに違いありません。
駅に来てしまったけれど、駅に電車は来ません。では、目黒通りまで引き返してバスに乗るべきでしょうか。それはまたずいぶんと歩きます。
ふと顔を上げると、駅まで来た人が向こうの方に大勢歩いていくではありませんか。すぐ先には駒沢通りがあるのでした。けれど、考えることはみな同じで、通りに出てバス停を探すまでもなく、バス停とおぼしき場所にはすでに長蛇の列ができていました。おまけに、駒沢通りを走るバスは本数が少ないのです。これではしばらくバスにありつけそうもありません。
そこで私は思い立ちました。中目黒駅まで歩いて行こう。中目黒まで歩いてしまえば東横線が止まっていても大丈夫。地下鉄に乗れるのです。しかし、いったい目黒通りまで引き返すのもためらっていた私はどこへ行ってしまったのでしょうか。
駒沢通りを中目黒の方まで歩いたのは初めてでした。歩いたことのない道を都心に向かって歩いていく。もちろん幹線道路ですから、迷うことはありません。通りの向かい側には、反対方向のバスを待つ人がぽつぽつといます。
ずっと前にも、こんなふうに驚いたことがある
歩いていくとこちら側のバス停のたびに人が大勢並んでいて、手前のバス停よりも人が増えています。けれど、さっきから1度もバスは通りません。歩いたのが正解だったなと考えながら、ぐんぐんと歩いていきます。
私と同じ方向に歩く人もいます。向かい側には店を開ける準備をする人、ゴミを出す人、日常が見えます。こんなことでもなかったら、朝のこの時間の駒沢通りの風景を眺めることもなかったなと、少し得した気分になりました。そして、しばらく歩いたところで、通りの向かい側にあるものを見つけたのです。
「わっ、こんなところにブルーボトルコーヒーが!」

そして、こんなところにできてるんだなあと思いながら、中目黒まで歩いて行ったのですが、そのことを今になって思い出しながら書いていると、ずっと前にもどこかでこんなところにブルーボトルコーヒーが、と驚いた記憶がよみがえってきたのです。
あれは海外出張からの帰りでした。私は早朝に成田空港に降り立ちました。ちょうど数日前にブルーボトルコーヒーの日本1号店が開店していたのですが、ネットでは連日満員で入れないほどの盛況ぶりだという話でした。
そこで私はちょうどいい、帰りに立ち寄ってみようと思い立ったのです。平日の早朝ならすっと入れるのではないかと考えたのでした。
京成電鉄と地下鉄を乗り継ぎ、清澄白河駅(江東区白河)に着きました。スーツケースをロッカーに預けたかったのですが、あいにく大きなスーツケースの入るロッカーはいっぱいです。私はゴロゴロとスーツケースを引きずりながら、不慣れな街をスマホの地図アプリを頼りに、ブルーボトルコーヒーを目指します。
スマホの充電はあえなく切れてしまった
まるで遠方からブルーボトルコーヒーを目指してきた観光客のようだったに違いありません。ところが、タイミングの悪いことに前日から充電していなかったスマホの電池が近くまで来たところで切れてしまいます。おそらくこのあたりの区画にあるはずだが、と思うものの、一向にブルーボトルコーヒー1号店は見当たりません。
目星をつけたあたりの通りを1本ずつ歩いていきます。まるで校庭に徒競走用のレーンの白線を引くように、スーツケースを引きずりながら、脳裏に焼き付けた地図の通りを順に塗りつぶしていきます。通り過ぎたのか、見つかりません。さっきもこの通りを歩いたような気さえします。

と、そこに細い道を向こうから手にカップを手に持った女性が歩いてきました。クラフト紙でできたペーパーカップ。私は呼び止めて、ひょっとしてそれはブルーボトルコーヒーではありませんか? と聞いてみたくもなります。この日はまだ2月でとても寒く、そのうちみぞれ交じりの雨が降り出しました。
時刻はすでに10時近くになり、店も混んできているに違いありません。残念だけど、もうあと何回か歩いて見つからなかったら諦めて帰ろう。そう思ったちょうどそのときです。
角を曲がるとそこにマンションがあり、マンションの入り口をひとりのおじいさんが箒(ほうき)で掃除しているではありませんか。ためらいながらも私はそのおじいさんに声をかけ、
「最近、このあたりにブルーボトルコーヒーの1号店がオープンしたのですが、場所をご存じではありませんか?」
と尋ねたのです。すると、そのおじいさんはニコニコと笑い、こう答えてくれたのでした。
「ああ、あのオープンしたお店ですか?」
すぐそこの角を曲がると、ありますよ
「はい」
「あれね、テレビでやってましたね。私も気になってます。ちょっと場所はわからないんですけれど」
長旅の疲労から険しい表情をしていた私もつい笑ってしまいました。私と同じく、このあたりにあることは知っているけれど、正確な場所は知らないのだと言います。
「あっちのほうだと思いますけどね」
と今私が来たあたりを指さします。
「近くに行って、コンビニで聞かれたら?」
なるほどその手があったか。でも、コンビニなんてこの辺りにあったでしょうか。礼を言って歩いていくと、しかしそこにはちゃんとコンビニがありました。私はいったいどこを歩いていたのか? コンビニに入って、店員さんに、
「このあたりにブルーボトルコーヒーが」
と尋ねると、きっと何度も同じことを聞かれていたのでしょう、すぐそこの角を曲がるとありますよと教えてくれました。角を曲がって歩いていくと、確かにブルーボトルコーヒーがありました。
さっきまで繰り返しこのあたりを歩いたはずなのに、たどり着けなかったブルーボトルコーヒーが倉庫と民家が並ぶ道に突如として現れたのです。
「こんなところにブルーボトルコーヒーが!」

幸い中に入ると、席はまだ空いていて、1杯ずつハンドドリップしてもらったコーヒーを飲むことができました。
歩くことは、忘れていたことを思い出すこと
店内やコーヒーを写真に撮りたかったのですが、あいにくスマホはバッテリー切れ。あのオープン直後のブルーボトルコーヒーは記憶の中だけにあります。しばらくすると、外にはまだ午前中だというのに長い列ができていました。
中目黒に向かう道でそのことを思い出したのだったか? それとも、その歩いたことを思い出す中で、思い出したのか。
歩く、それだけでも楽しいものですが、歩くと、あるいは歩いたことを思い出すと、そこからまた多くのことを思い出すことができる。場合によっては覚えていないことまで思い出すことができるのです。
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