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ブームから早10年 「卵かけご飯イベント」に老若男女が押し寄せたワケ

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たった1メニューで客を集める、恐るべき求心力

「卵かけご飯」、好きですか? 「T.K.G」という略称ができたのはすでに早10年以上前。子どものころからよく食べているという人もきっと多いと思います。もはやすっかり庶民飯として定着している卵かけご飯ですが、その名を冠したイベントが2019年11月5日(火)に池袋駅近くで開かれました。その名も「第一回たまごかけごはん祭り」。なぜこのタイミングで初開催となったのでしょうか。そして平日昼間のイベントに、果たしてどれだけの参加者があるのでしょうか。

池袋で開かれた「第一回たまごかけごはん祭り」。会場に詰め掛けた老若男女が、思い思いの卵かけご飯を楽しんでいた(2019年11月5日、遠藤綾乃撮影

 11月5日(火)。会場となったJR池袋東口の商業施設には、平日の昼間にもかかわらず数百人以上が訪れていました。お目当ては、500円で食べ放題の卵かけご飯です。

 会場に用意されたのは、茨城、福島、島根、鹿児島など全国津々浦々の名品卵約20種類。卵かけご飯専用の醤油も全国から約20種類。白米は関西のコシヒカリと称される広島県産「あきさかり」です。参加者は好きな卵、醤油、さらには焼き海苔などのトッピングと合わせて卵かけご飯が何杯でも食べられるというおいしいイベントです。

 集まったのは、年代も所属もばらばらな老若男女たち。主催者が事前に予測した500人を大きく上回る人数が集まり、会場内ではご飯を求める長蛇の列ができるほどでした。いったい卵かけご飯の何が、これほどに日本人を惹きつけるのでしょうか。

 新宿の会社で前日17時から翌9時まで働いていたという、夜勤明けの20代男性ふたり組に話を聞きました。

「実家が鹿児島で小さな農家をやっているんですよ。子どもの頃からずっと食べていた味です。子どもの頃は祖母と毎朝、家のニワトリが生む卵を取りに行っていました。朝に卵を食べると元気が出ますよね。まあ今日は夜勤明けなんで、これから寝ますけど(笑)」と鮫島さん(29歳)は笑います。友人の伊藤さん(28歳)は、「卵かけご飯は誰にでも簡単に作れてサッと食べられるところがいいんですよ。家ではお茶漬けのもととかを掛けることもあります」とオリジナルアレンジを教えてくれました。

 子ども連れの母親が多いのも印象的でした。3歳の長女と参加した地元・東池袋に住む内田綾さん(36歳)は「子どもも卵かけご飯が大好き。栄養価が高いから、親としてもうれしいです」と話していました。

卵かけご飯は、世界を救う?

卵かけご飯は、世界を救う?

 今回のイベントを企画したのは、2019年4月に設立したばかりの「日本たまごかけごはん研究所」。代表を務める上野貴史さんはイタリアンやフレンチのシェフとして修業を積んだ料理人です。現在は料理教室などを運営する会社を経営していますが「日本の食文化を次世代や世界へ伝えたい」との思いから、卵かけご飯という日本独自のメニューに着目したと言います。

 しかし、卵かけご飯が大きく注目されたのは10年以上前からのことです。ブームの火付け役ともいわれた書籍『365日たまごかけごはんの本』(読売連合広告社、2007年)では、すでに「T.K.G」という略称も使われていたほど。なぜ今、卵かけご飯のイベントを始めたのでしょうか?

「卵かけご飯は日本人にとってあまりにもスタンダードなメニューです。だから、ときどき大きなブームがあって盛り上がっても、そのあと廃れるということはまずあり得ません。いろいろなイベントがばらばらに開かれているので、『それならひとつにまとめてしまおう』と立ち上げたのが社団法人(日本たまごかけごはん研究所)でした。……そういう団体はすでにあるのではと思いきや、なかった。日本人にとって卵かけご飯は、それだけ当たり前過ぎる存在なのだということを、あらためて認識させられましたよ(笑)」

 料理人の上野さんにとって、卵は極めて魅力的な食材だと言います。卵焼きにもオムライスにもケーキにもなれる、さまざまな表情を持った万能な食材だからだそうです。

 食物繊維とビタミンC以外のあらゆる栄養素を含んでいる卵と、食物繊維を補えるご飯の組み合わせは「まさに完全食」だそう。「卵かけご飯の魅力を発信していくことで、日本の生産者さんたちの支援だけでなく海外の人にも知ってもらいたいという思いもあります。卵は世界中どこにもありますが、卵かけご飯は食べられていない。足りないのは卵を生のまま食べるための衛生管理技術です。私たちたちの活動が、将来的には海外への技術輸出にもつながればと考えています。卵は世界を救いますよ!」

そう壮大な夢を語ってくれました。

「第一回たまごかけごはん祭り」の会場には、事前の予想以上の参加者が集まり、長い行列もできた(2019年11月5日、遠藤綾乃撮影)

 上野さんたちは現在、月1回のペースで「利き卵」などを行う研究会を開いているそうです。まったく同じ米、醤油で何種類かの卵を食べ比べて、卵ごとの「味マップ」を作る計画なのだとか。

「卵ごとの味の違いを相対的に示すことで、消費者が食べたい味わいの卵を見つけやすくすることが目的です。ニーズと結びつけやすくすることで、卵同士がむやみに戦わずにすんで、生産者さんにとっても販路拡大のヒントになればと思っています」(上野さん)

10人いれば10通りの卵かけご飯がある楽しさ

10人いれば10通りの卵かけご飯がある楽しさ

 さて、超満員の会場では参加者たちが思い思いの卵かけご飯を楽しんでいました。

 卵とご飯を先に混ぜてから醤油を垂らす人。ご飯と醤油を混ぜた後で卵を割り入れる人。あえて卵を溶かずに食べる人。海苔、ワサビ、柚子胡椒などのトッピングをふんだんにのせる人。ご飯の真ん中にくぼみを作ってそこに慎重に卵を割り入れる人……。

「あなたの卵かけご飯、見せてください」と声をかけると、10者10様、皆違った器の中身を見せてくれたことがとても印象的でした。

 ただし卵をパカッと割る瞬間、つい笑顔になってしまうのは万人共通。

卵かけご飯の食べ方はいろいろだけど、卵を割る瞬間の笑顔は皆すばらしい(2019年11月5日、遠藤綾乃撮影)

 石川県からわざわざ駆け付けた女子大学院生(23歳)は、「高校2年生の頃、全然ものが食べられなくなってしまった時期がありました。でも、卵かけご飯に出会って、たくさんご飯が食べられるようになりました。卵かけご飯の、優しいところ、まろやかに包み込んでくれるところが大好きです」と話していました。華奢な体で、この日はご飯3杯、おいしくいただいたそうです。

 上野さんたちは今後も年1回のペースでこうしたイベントを開催する計画だといいます。

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