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「圧倒的な射程」なぜ必要? F-35用“新ミサイル”取得へ 自衛隊どう使うのか

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  • 乗りものニュース
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防衛省は令和7年度予算で、F-35A用の新型対艦ミサイルの取得予算を計上しました。「JSM」と呼ばれるこのミサイルは、従来のものとどのように性能が違うのでしょうか。

「スタンド・オフ防衛能力」の一環として購入されるミサイル

 防衛省は令和7(2025)年度予算案に、航空自衛隊のF-35A戦闘機に搭載する対艦ミサイル「JSM」(Joint-Strike-Missile)の取得費として、159億円を計上しました。

Large figure1 gallery4 「JSM」対艦ミサイルを発射するF-35Aのイメージ(画像:レイセオン)。

 JSMの取得は、いわゆる「スタンド・オフ防衛能力」の一環です。これは、敵性勢力が持っているレーダーや対空、対艦など各種ミサイルの脅威の射程外から攻撃できる能力を指し、JSMは従来のミサイルよりも長射程であることが特徴です。

 日本は四方を海に囲まれています。このため万が一外国から侵攻を受けた場合、侵攻部隊とその装備、補給品などを搭載した艦艇と、それを護衛する戦闘艦を海上でどれだけ撃沈もしくは航行に問題のあるダメージを与えられるかが、日本の防衛のカギを握っています。

 このため航空自衛隊は戦闘機に搭載する対艦ミサイル、海上自衛隊は護衛艦などに搭載する艦艇発射型対艦ミサイル、陸上自衛隊は陸上から発射する地対艦誘導弾(ミサイル)の整備を進めてきました。

 ただ、21世紀初頭までのこれらのミサイルは「長射程ミサイルは日本国憲法第9条で保有が禁止されている『戦力』にあたる」という法解釈や、周辺諸国への配慮などから、射程に関しては150km程度と、それほど長く設定されていませんでした。

 しかし2000年代後半から、日本の本土から離れた島嶼部への侵攻を受ける可能性が懸念されるようになり、当時保有していた陸海空三自衛隊の保有するミサイルでは対処が困難になりつつあることが明らかになり始めました。

 このため政府は令和4(2022)年12月に発表した防衛関連三文書で、「スタンド・オフ防衛能力」という概念を打ち出しました。従来のものより射程の長いミサイルの保有し、有事の際には日本に侵攻しようとする国家の脅威の範囲外から攻撃を加えて、島嶼部を含めた日本の領土を守り抜き、平時には保有することで抑止力を高めるというもの。その方針に則って、陸海空三自衛隊で長射程ミサイルが整備されてきました。

JSMは射程距離「約3倍以上」にも?

 JSMはノルウェー政府がオーナーを務めるコングスベルグ・グルッペン(グループ)の防衛航空宇宙事業部門、コングスベルグディフェンス&エアロスペース(以下コングスべルグ)が、同社の艦船搭載型対艦ミサイル「NSM」(Naval Strike Missile)をベースに開発した長射程対艦ミサイルです。

Large figure2 gallery5「JSM」の搭載実験を行うF-16(画像:アメリカ空軍)。

 F-35は高い対レーダーステルス性能を備えた戦闘機ですが、F-2戦闘機のように機体外部にミサイルを搭載すると、当然の事ながらRCS(レーダー反射断面積)が増大して、レーダーに捉えられ易くなってしまいます。

 このためJSMは航空自衛隊も使用するF-35のA型と、米海軍艦載機用であるC型の胴体下部両側面のウェポンベイに各1発を搭載できるよう、NSMから胴体が設計変更されており、主翼も展張式に変更されています。

 詳細は不明ですが、NSMからは主動力であるターボジェット・エンジンの変更と、それに伴うエアインテークの形状の設計変更も行われています。これらの変更によってJSMは高高度を飛翔した場合の最大射程が500kmに達するとも言われています。

 ただ、敵の艦船に搭載されたレーダーでの探知を避けるため、海面すれすれ(5~15m)を飛翔する「シー・スキミング」という方法をとる場合は射程が短くなりますので、500kmという最大射程は、自衛隊が導入した場合の実際の射程を示すものではありません。

 なおJSMのほか、令和7年度予算案にはスタンド・オフ防衛能力構築のため、航空自衛隊のF-15JSI(能力向上改修を受けるF-15J)に搭載する対艦ミサイル「JASSM」(Joint Air-to-Surface Standoff Missile)の取得費として28億円、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾能力向上型地発(地上発射)型の発射装置の取得費として169億円、海上自衛隊の12式地対艦誘導弾能力向上型艦発(艦艇発射)型の取得費として168億円なども計上されています。

果たしてこられの防衛装備は役にたつのか?

 少なからぬ経費を投じて、複数の長射程対艦ミサイルを多数整備するのはムダなのではないかという意見もあるかと思いますが、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は必ずしもそうは思いません。

Large figure3 gallery6ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を撃沈したといわれるウクライナ製の「ネプチューン」地対艦ミサイル(画像:ウクライナ国防省)。

 1982年のフォークランド紛争でアルゼンチン軍が使用した「エグゾゼ」がイギリス海軍の駆逐艦「シェフィールド」を撃沈するという大戦果を挙げたことなどから、対艦ミサイルは急速に普及していきました。しかし、いついかなる時でも100%命中し、攻撃目標を撃破できるとは限りません。もちろん予算の兼ね合いの許す範囲内での話ですが、対艦ミサイルは多数保有しておくべきなのではないかと筆者は思います。

 艦船に搭載されている、対艦ミサイルを迎撃するための自衛兵器や、対艦ミサイルの誘導を妨害する誘導装置も、フォークランド紛争の頃とは比べものにならないほど進化しています。ただ、2022年4月にはウクライナ軍が「ネプチューン」地対艦ミサイルを使用し、ロシア黒海艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦「モスクワ」を撃沈した事例もあり、依然として対艦ミサイルが強力な兵器であることは間違いありません。

 対艦ミサイルに限らず、自衛隊のすべての防衛装備品は実戦で使われることのないまま退役することが望ましいのですが、誘導方法や射程の異なる対艦ミサイルを多数保有することは、日本に侵略することを困難にする「抑止力」の向上をもたらしますので、決してムダな支出にはならないと筆者は思います。

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