バードストライク発生数「1日4.6件」! 対策はハイテクとアナログの合わせ技 “エンジンに鶏肉撃ち込む試験”まで
- 乗りものニュース |

衝撃は「10m上から力士が落下」するのと一緒
航空需要の回復とともに、飛行機に鳥が衝突する「バードストライク」が急増しています。
2009年1月15日、バードストライクによってエンジン2機とも停止し、ニューヨークのハドソン川に不時着したUSエアウェイズのエアバス320型旅客機と、その救助に当たる消防艇(画像:時事通信フォト)
2023年の日本国内における発生件数は1687件に達し、過去最多を更新しました。これは単純計算で1日当たり4.62件になります。
特に羽田空港での発生が圧倒的に多く、渡り鳥が移動する7月から11月にかけてがピークとなります。
たかが重さ数kgの鳥がぶつかった程度で、巨大な飛行機が危険な状態になるのかと疑問に思うかもしれません。しかし、物理の法則は残酷です。
離陸時の飛行機は約300km/h(約83m/秒)のスピードで前進しています。ここに重さ1kgの鳥が衝突したと仮定すると、その衝撃力は数tにも達します。衝撃力は「速度の二乗」の計算になります。
これを人間に置き換えると「体重150kgの大型の力士が、ビルの4階(約10m)から落ちてきて激突する衝撃」に匹敵します。
あるいは「速度50km/hで走る原付バイクが壁に激突するエネルギー」と同じと言えます。これだと、その破壊力が想像できるでしょう。
飛行機のエンジンは、このような凄まじい衝撃に耐えられるよう設計されています。その頑丈さを証明するために行われるのが、通称「チキン・ガン」と呼ばれる試験です。
これは文字通り、圧縮空気を使った大砲で鳥を弾丸のように発射し、回転しているジェットエンジンに撃ち込むというものです。標準的なサイズとして重さ4ポンド(約1.8kg)の物体が、300km/hから最高670km/hもの猛スピードで発射されます。
かつてはスーパーマーケットで売られているような食用の鶏をそのまま使用していましたが、現在は規格を統一するため、ゼラチンの塊で作られた「人工鳥」を使うことが増えています。
この試験でエンジンの羽根が欠けても、外側に飛び散ったり火災を起こしたりせず、安全に停止できれば合格となります。「ひどく汚い試験」とも呼ばれるこのテストをクリアして初めて、エンジンは空を飛ぶのに使えるのです。
結局はアナログが最強! 空港を走り回る「黄色い車」
このように飛行機自体も対策を講じていますが、そもそも鳥が空港にいなければ衝突は起きません。そこで空港では、ハイテクとアナログを融合させた、終わりのない戦いが地上で繰り広げられています。
航空自衛隊松島基地が公式Xで公開した画像。バードストライクを未然に防ぐため、空砲音や煙火で鳥を追い払っている(画像:航空自衛隊松島基地)
すなわち、空港から鳥を遠ざけるための対策です。日本を例にとると、関西国際空港や伊丹空港などで導入されているのが「バードソニック」です。これは単なる爆音ではなく、鳥が不快に感じる高周波を計算して照射し、鳥を遠ざけるハイテク装置です。
しかし、こうした最新技術を駆使してもなお、最も確実で効果的とされるのは、実はアナログな方法です。
それが、羽田や成田などの主要空港で24時間体制で活躍する「バードパトロール」です。
彼らは専用のパトロールカーで滑走路周辺を巡回し、鳥の姿を見つけると空砲やサイレンを使って威嚇し、追い払います。
地道な作業ですが、この対策を行っている空港では、未実施の空港に比べてバードストライク率が半減するというデータもあり、現在でも「最強の対策」とされています。
空港の展望デッキから滑走路を見渡すと、時折走り回っている派手な黄色い車を見かけることがあります。あれこそが、私たちの空の安全を地道に守り続けているバードパトロールなのです。
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