“100万円で新車が買える”時代はなぜ終わった? 昔は「クラウン」も160万円台だった! 装備なくすと逆に高くなる驚きのパラドックス
- 乗りものニュース |

装備を外すと逆に高い「引き算」のパラドックス
かつて、新車のグレード選びには、今では考えられないほどの“自由”がありました。その象徴ともいえるのが、1991年に登場したトヨタ「クラウン」です。
日産“トラッド”サニー 1985年型(画像:日産)
当時のラインナップを見ると、最上級グレードの「ロイヤルサルーンG」は約400万円でしたが、一方で「スタンダード」というグレードは、なんと約161万円で購入できました。
また、トヨタ「カローラ」や日産「サニー」をはじめとした大衆車の廉価グレードでは、100万円を切るモデルもありました。
同じクラウンでありながら、その価格差は2倍以上。これほど安かった理由は、徹底的に装備を削ぎ落としていたからです。フェンダーミラーに手回し式の窓、バンパーは無塗装など、走る機能以外を極限までカットした、いわば「素うどん」のような仕様でした。
では、なぜ現代のクルマには、こうした激安グレードがないのでしょうか。「装備を外せば、その分安くなるはず」と考えるのが自然ですが、実は現代の工場では、そう簡単なハナシではありません。
昨今の自動車工場は、パワーウインドウや安全センサーなどの高度な装備が「付いていること」を前提に、ロボットによる自動化が進められています。
もしここで、あえて「手回し窓」や「キーレスなし」のクルマを作ろうとすると、標準化されたラインに乗せることができず、「特注品」のような扱いになってしまいます。その結果、別の手作業工程が必要になり、かえって手間とコストがかさんでしまうのです。
つまり、現代においては“安くするために装備を削る”ことが、逆にコストを増やしてしまうというパラドックスが起きています。結果として、最初から「全部入り」を標準にするのが、最も安く作る方法になったと言えるでしょう。
納期遅れを防げ! “モノグレード”戦略の秘密
また、激安グレードが消えた理由は、工場の都合だけではありません。クルマを販売する側の納期の問題も大きく関わっています。
スズキ「フロンクス」(画像:スズキ)
たとえば、スズキが発売した新型SUV「フロンクス」は、インドで生産されています。もし仕様を細かく分けてしまうと、日本への輸送管理が複雑になり、納期が伸びてしまう恐れがあります。これを防ぐため、グレードをほぼ1つに絞り込む戦略をとりました。
また、トヨタの人気ミニバン「アルファード」も、現行モデルの発売当初はグレードを「Executive Lounge」と「Z」の2種類に絞り込んでいました。これも部品点数を減らしてラインが停止するリスクを下げ、生産効率を最大化して納期遅延を防ぐ狙いがあったとされています。
こうして見ると、かつてのように「100万円で新車が買える」時代が終わってしまったのは寂しいことかもしれません。しかし、それは単なる値上げではありません。
現代の車両価格には、進化した安全性能に加え、複雑な仕様を廃止して効率よく車を届けるための時間(納期短縮)的な価値も含まれています。
私たちは安く買う権利を手放した代わりに、高度な安全と時間を標準装備として手に入れたといえるのではないでしょうか。
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