「全線の半分10000kmを廃止せよ」 国鉄の末路を的確に予見した“過激勧告”の中身 「借金37兆円破綻」は防げたか?
- 乗りものニュース |

まだ間に合った? 約60年前の「国鉄改革案」
国鉄の37年の歴史の中で、黒字を計上したのは1950、1953、1957~1963年度の8年間だけでした。最終的に約37兆円の長期債務を背負って破綻しますが、経営が本格的に傾き始めたのは1960年代後半のことです。
美幸線の仁宇布駅に停車する気動車。美深と仁宇布を結ぶ美幸線は当時「日本一の赤字線」といわれ、1985年9月に廃止された(画像:写真AC)
赤字体質の国鉄を改革すべきとの議論は古くから存在しました。例えば、阪急電鉄の創始者・小林一三と東急グループの創始者・五島慶太は官による経営は非合理的として、1950年代に国鉄の分割民営化を主張しています。
また、戦後の電力事業の分割民営化を主導し「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門が設立したシンクタンク「産業計画会議」は、1958(昭和33)年の勧告で「国鉄は根本的整備が必要」として、国鉄を全国数個のブロックに分け、それぞれ独立した特殊会社とすることを提言しました。
そして今回、紹介したいのは、同じく産業計画会議が10年後の1968(昭和43)年に発表した勧告「国鉄は日本輸送公社に脱皮せよ 国鉄問題に関する第2次勧告」です。
1966(昭和41)年度の国鉄は7939億円の収入に対し、601億円の赤字でした。長期債務残高1兆3700億円、利子及び諸費は収入の1割以上にあたる約835億円という看過できない額になっていました。
一般企業であれば破産状態ですが、後の惨状を思えばまだ間に合うタイミングでした。しかし、だからこそ危機感を共有できない、そのような中で発表された産業計画会議の勧告を見ていきましょう。
勧告が前提とするのは「鉄道万能時代の終焉(しゅうえん)」です。日本の鉄道が発展、拡大した明治・大正期は鉄道が唯一の近代的交通機関でした。そのため赤字線区の維持や社会政策的な割引にも合理性がありました。
しかしバスやトラックなど商用車から自動車の普及が始まり、1960年代には自家用車の大衆化が本格化します。また、ジェット旅客機の登場による航空輸送の大量化、大衆化が進むなど、距離帯ごとに輸送機関の役割分担が明確化しました。勧告はこれを「輸送革命」と呼んでいます。
最初に影響が現れたのは貨物です。鉄道貨物のシェアは国鉄発足時に5割以上ありましたが、モータリゼーションの進展で1960年代後半には3割程度になっていました。貨物鉄道の輸送時間のうち走っているのは2割、平均速度にすると10km/h程度であり、トラックによる少量多頻度輸送にシェアを奪われていました。
新幹線に対しても冷静な見方
旅客輸送も厳しさを増していました。運行に必要な直接の費用も賄えない大赤字の路線の割合は、1957(昭和32)年度に40.2%でしたが、1966(昭和41)年度には75.4%まで増加しました。ローカル輸送の競争力は急激に低下しており、さらに高速道路の整備、ジェット機の大衆化で幹線輸送すらも脅かされていました。
しかし国鉄はこれを認識していない、と勧告はいいます。「このような最適輸送体系という考え方が確立しておらず、荷馬車と人力車しかなかった大正時代の、鉄道万能という考え方が依然として今日まで継続している」と厳しく指摘します。
この思い込みは、旧態依然たる「乗せてやる」「運んでやる」という態度につながるため、バスやトラック、航空機などの競争相手に勝てるはずがありません。これは後の国鉄改革で何度も指摘されたことですが、サービス意識の欠如は単に職員の怠慢や組合問題ではなく、国鉄のあり方そのものに由来する、というのは本質的です。
勧告は「輸送の技術革新に即応した、国家としての最適輸送体系を確立する」として、具体的には国鉄の役割を「幹線旅客輸送」「通勤通学輸送」「中・長距離大量の貨物輸送(直行系コンテナ輸送)」に集中するよう求めます。
国鉄最大の「商品」である新幹線に対しても冷静な見方をしています。新幹線の成功は東京~大阪間という世界随一のメガロポリス地帯を連絡したからこそです。より遠距離の九州、北海道までの旅客輸送を担おうとすれば、航空機に対抗できない可能性があるとの指摘は、山陽新幹線博多開業後を正確に予見しています。
一方、「ローカル旅客輸送」「近距離貨物輸送」はバス、トラックに委ねるとして、全線の50%(約1万km)にわたるローカル不採算路線を「勇断をもって廃止」する大胆な目標を掲げました。当然、ローカル線の建設を推進する日本鉄道建設公団への評価も辛辣です。
鉄道公団は「鉄道交通網の整備を図り、もって経済基盤の強化と地域格差の是正に寄与することを目的」に設立されましたが、実態は「ただでさえ赤字に悩んでいる国鉄に、一層の負荷を負わせる以外の何物でもなく、経済基盤の強化には少しも役立っていない」と指摘します。
さらに加えて「今日の輸送革命時代にあっては全く時代錯誤の存在であって、その業務は、今日の日本にあっては、ただ無益であるばかりでなく、むしろ有害であるといわねばならない」とまで切って捨てました。鉄道公団は勧告に激しく反発しましたが、産業計画会議は突っぱねています。
そして勧告は政府と国鉄に対し、以上の認識のもと「もし国鉄を国の基幹となる輸送企業体として存続させるのならばその役割を定め、国鉄はその目標に向かって、その経営の合理化とサービスの改善につとめること」として、経営の自主性確立を要望しました。
勧告の警鐘は、ほぼそのままの形で現実となり、国鉄は破綻します。前述のように分割論、民営化論、改組論はこの勧告に始まったことではなく、様々な機会で語られてきました。いつ、どの段階であれば軌道修正できたのか、問題意識はなぜ広く共有されなかったのか。国鉄なき今だからこそ、その視点を学ぶ必要があるのではないでしょうか。
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