収入の4割を失い大ピンチ! 「貨物頼み」だった三セク鉄道、乗って分かった“生き残り戦略”
- 乗りものニュース |

そもそも「貨物」があったから生き残れた
かつて貨物輸送が経営の柱でしたが、それが無くなり、旅客輸送だけで懸命に存続を図っているローカル線があります。岐阜県の大垣駅と樽見駅を結ぶ第三セクターの樽見鉄道です。収入の約4割を占めた貨物輸送を失うという最大の危機を、どのように乗り越えようとしているのでしょうか。
岐阜県の大垣と樽見を結ぶ樽見鉄道(安藤昌季撮影)
樽見鉄道は、大垣~樽見間34.5kmを結ぶ全線非電化・単線のローカル鉄道です。そのルーツは国鉄樽見線で、1956(昭和31)年に大垣~谷汲口間が開業、1958(昭和33)年には神海まで延伸されました。しかし、計画上の終点である樽見には届かないまま、工事は中断してしまいます。
この路線を支えたのが、沿線の本巣にあった住友セメント(現・住友大阪セメント岐阜工場)の存在でした。本巣駅から工場への専用線が延び、セメントを輸送する貨物列車が運行されるなど、樽見線は国鉄時代から産業鉄道としての性格が強かったのです。
しかし、旅客利用の少なさから、1981(昭和56)年に第1次特定地方交通線として廃止対象路線となってしまいます。通常であればバス転換となるところですが、樽見線にはセメント貨物という大きな収入源がありました。
そこで、地元自治体や住友セメント、貨物輸送の西濃鉄道などが中心となり、第三セクター方式で鉄路を存続させることになりました。1984(昭和59)年、樽見鉄道として再スタートを切ります。これは「赤字国鉄線を旅客輸送で残した」というより、明確な貨物輸送の収益源があったからこそ実現した鉄道の存続だったといえるでしょう。
第三セクター化にあたり、「西濃鉄道、自治体、住友セメントなどで1億円を出資」「国鉄施設の無償貸付・譲渡」「固定資産税軽減など自治体支援」といった枠組みが組まれました。当時の運輸白書でも、神岡鉄道と並び「貨物輸送が主体」の第三セクターとして紹介されるほどでした。
実際、貨物輸送は樽見鉄道の営業収入の約4割を占め、開業当初は黒字を計上する「優等生」とまでいわれました。
その勢いは、国鉄時代に頓挫していた路線延伸をも実現させます。第三セクター化時点の終点は神海でしたが、神海~樽見間10.9kmの工事を再開。そして1989(平成元)年、ついに樽見駅まで路線が到達しました。これは国鉄樽見線の開業から33年後のことで、「国鉄が廃止を決めた路線を第三セクターが引き継ぎ、さらに延伸させた」という珍しい歴史を刻みました。
生命線だった貨物輸送が廃止…最大の危機
しかし、開業から順調に見えた樽見鉄道に最大の危機が訪れます。2006(平成18)年、経営の柱であった貨物輸送が廃止されたのです。貨物輸送で成立した鉄道が、今度は旅客輸送だけで生き残らなければならないという窮地に立たされました。
樽見鉄道もただ手をこまねいていたわけではありません。貨物廃止の前から、需要を見越した新駅の開設を進めていました。2002(平成14)年に織部駅を、そして2006(平成18)年に大型商業施設「モレラ岐阜」の開業に合わせ、モレラ岐阜駅を開設しています。
さらに、観光鉄道としての魅力向上にも力を入れます。終点・樽見駅の近くには、樹齢1500年を誇る日本三大桜の一つ「根尾谷淡墨桜」があり、開花期には臨時列車を含む「桜ダイヤ」を編成。近年では「しし鍋列車」や「薬草列車」といったイベント列車も運行しています。過去には、普通列車をそのまま観光列車として運行する意欲的な試みもありました。
そして2025年11月からはJAぎふと共同で、樽見発の普通列車で農産物を運ぶ取り組みを開始。小規模ながら「貨物」の復活ともいえる挑戦を続けています。
※ ※ ※
2026年7月の木曜、大垣9時11分発の樽見行き列車を利用しました。単行のディーゼルカーには31人が乗車しており、なかなかのにぎわいです。
東大垣、横屋、十九条といった駅ではそれぞれ数人の乗降があり、地域の足として機能している様子がうかがえます。そして、新設されたモレラ岐阜駅では14人が下車。大型商業施設へのアクセス路線として、大きな役割を担っていることが分かります。車両基地のある本巣駅を過ぎると、車窓は根尾川に沿った風光明媚な景色へと変わっていきました。
谷汲口や、長年終着駅だった神海などで数人が下車し、神海から先の新線区間へ。高科、鍋原、日当と景色の良い区間を進みますが、乗降客はなく、終点の樽見駅まで乗り通したのは筆者(安藤昌季:乗りものライター)を含め2人だけでした。
折り返しの10時33分発大垣行きは3人で出発しましたが、谷汲口や本巣、糸貫などで乗客を増やし、モレラ岐阜駅でも乗車がありました。車内は再びにぎわいを見せ、終点の大垣まで乗降が続きました。
かつての生命線だった貨物輸送を失った樽見鉄道ですが、新たな需要を掘り起こす努力を続け、今もなお地域にとって貴重な足であり続けている姿を確認することができました。
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