住宅街に出現「走行距離52mのモノレール」なぜ造られた? 実は“世界レベル”の技術を導入…型破り極めし全容とは 韓国
- 乗りものニュース |

住宅街の隙間を「モノレール」が走る!?
韓国・釜山の住宅街には、家々の間を縫うように急斜面を登る小さなモノレールがあります。走行距離はわずか52mですが、最大40度という急勾配を登る珍しい乗りものです。なぜ、こんな場所にモノレールが造られたのでしょうか。現地を訪ねてみました。
釜山の住宅地を走る「草梁168階段モノレール」(布留川 司撮影)。
住宅が密集する急斜面に沿って細いレールが延び、その上を、まるで建物の隙間を縫うようにして、小さな車両がゆっくりと上っていく――。これは韓国第2の都市・釜山(プサン)の住宅街にあるモノレールです。玄関口となる釜山駅から歩いて10分ほどの場所にあり、先述のとおりその走行距離はわずか52mしかありません。
階段に沿って設置されたレールの上を走る小部屋のような1両の車両は、一般的な鉄道やモノレールとはまったく違う光景で、まるで住宅街に遊園地の乗りものが入り込んだかのようです。
この乗りものは「草梁168階段モノレール」と呼ばれています。現地の日本語案内板には「草梁168階段モノレール(傾斜型エレベーター)」と表記されており、設備としては傾斜型エレベーターに分類されます。定員12人という小さな車両が、丘の下と上を結んでいます。
実際に乗ってみると、車内に運転員はおらず、代わりにあるのはエレベーターのような操作ボタンです。乗客が自分で行き先を選ぶ方式で、利用方法も一般的なエレベーターとほとんど変わりません。
距離は短いものの、その走行環境はかなり特殊です。レールは一般的な鉄道では上れないような急斜面に設置されており、勾配は下部で40度、上部でも32度あります。しかも、途中でレールの傾斜角度が変わるため、車両には客室の角度を自動調整し、床を水平に保つ仕組みが備わっています。
乗り場は丘の下と上だけでなく、中間付近にも設けられており、乗客はエレベーターと同じ感覚で3か所の乗り場を行き来できるようになっています。
わずか52mでも必要だった「歴史的な理由」
早朝から夜間まで運行するこのモノレールですが、そもそも、なぜ住宅街のこんな場所に、わずか52mしかない路線が造られたのでしょうか。実は、その理由はすぐ隣にある急階段にありました。
モノレールの横には、「168階段」と呼ばれる急階段があります。その名のとおり168段もの階段が続き、下から見上げると、まるで壁のような急坂が目の前に立ちはだかります。全長は約40m、傾斜は約45度。現在では釜山の観光名所のひとつですが、もともとは丘の上と下の住宅街を結ぶ生活道路でした。
この急階段が造られた背景には、釜山という街の歴史があります。1950年に朝鮮戦争が始まると、韓国各地から大量の避難民が釜山に流入しました。しかし、釜山は港の背後まで山が迫る地形で平地が限られていたため、人々は山の斜面にも住宅を建てるようになり、急な坂道や階段に沿って家々が密集する独特の街並みが形成されたのです。
168階段がある草梁洞(チョリャンドン)も、そうした歴史を持つ地域のひとつです。当時は水道も十分に整備されておらず、住民たちは階段の下にある井戸から生活用水をくみ、重い水を抱えて168段もの階段を登っていました。現在も階段の下には井戸の遺構が残されています。
観光名所になったとはいえ、そこに暮らす住民、特に高齢者にとって、この急階段の上り下りは大きな負担となっていました。このモノレールは、そうした住民の移動を支援するために設置されたのです。
観光名所と生活の足“二つの顔”を持つ乗りもの
住民の移動を支援するため、2016年に最初のモノレール(8人乗り)が設置されました。ところが、この初代モノレールは故障が相次ぎ、乗客が車内に閉じ込められる事故も発生。2023年には安全検査で運行不適合と判定され、運行を停止しました。
釜山の草梁洞にある「168階段」。左側には、かつて住民が生活用水をくんでいた井戸の遺構が残されている(布留川 司撮影)。
そこで設備を全面的に更新し、2025年3月に登場したのが現在のモノレールです。新しい設備では、従来の車輪とレールを使った走行方式から、ワイヤーで車両を動かす傾斜型エレベーター方式を採用。定員も8人から12人に増え、騒音や振動の低減も図られています。設備を製造したのは韓国のKUMHO ELEVATORで、その特殊な構造と設計は、アメリカの昇降機専門誌『Elevator World』が選ぶ2026年の「Project of the Year」を受賞するほど高く評価されています。
現在、この一帯は「草梁イバグ道」と呼ばれる観光エリアとして整備され、168階段も釜山の歴史を感じられる観光スポットになっています。モノレールや階段の周囲にはカフェや商店なども見られ、観光地としての賑わいを感じます。
一方で、周辺には今も人々が暮らす普通の住宅が数多く残っています。現地には、住民への配慮から観光客に対して集団で騒がないよう呼びかける注意書きもありました。観光客にとっては珍しい乗りものがある名所ですが、住民にとっては普段の生活を営む日常の空間でもあるのです。
このモノレール自体も、観光客向けのアトラクションというだけでなく、地域住民の移動を支える交通インフラとして利用されています。わずか52mという短い路線ですが、そこには急斜面に広がる釜山の住宅街ならではの事情と、人々の生活を支えるという重要な役割があるのでした。
なお、2026年10月時点の案内板によると、運行時間は朝6時から夜11時まで。毎月第2・第4木曜日の午前9時から午後6時までは定期点検のため運休し、強風や豪雨などの悪天候でも運行が中止される場合があるとのことでした。
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