タイへ渡った「北斗星」の機関車 トラブル連発の根っこに「整備方針の違い」も “チーム日本”の試練は続く
- 乗りものニュース |

JR北海道で活躍した寝台特急「北斗星」色のDD51形は室蘭港からタイへと渡り、インフラ工事会社が請け負うタイ国鉄の複線化工事に従事しています。日本の鉄道ファンのサポートで、幾度となくピンチを乗り越えてきました。
DD51を救った「チーム51」とは
ブルートレインの終焉まで活躍し、JR北海道で廃車となった「北斗星」色のDD51形ディーゼル機関車2両が、2018(平成30)年9月にタイへ輸出されました。1137号機と1142号機の2両です。現地では民間のインフラ工事会社A.S.Associated Engineering Co.,Ltd(AS社)へ納入され、ノンプラドック駅に隣接したデポを拠点に、タイ国鉄南本線ナコンパトム~フアヒン間の複線化工事に従事する予定でした。
タイへ渡り、民間のインフラ工事会社AS社へ納入された、元・JR北海道のDD51形ディーゼル機関車。寝台特急「北斗星」を牽引した(2023年2月、吉永陽一撮影)
この2両はタイ国鉄の機関車ではなくAS社の車両であり、日タイ両国の技術支援を伴う譲渡ではありません。簡単な運転マニュアルが渡されただけで、AS社は翻訳もままならないなか手探りの状態で扱い、まともに動かせる状況ではありませんでした。
あるとき、鉄道ファンの吉村元志さんは、タイ在住の鉄道ファン木村正人さんと知り合い、2人はDD51形を一目見ようと現地訪問したところ、2両は適切な操作が行われおらず、機関室も日本語表記のままという事実を知りました。木村さんが動画を撮影してSNSで公開したところ、たまたま辛嶋隆昭さんが「起動から停止まで基本動作ができておらず危険だ」とコメント。辛嶋さんはDD51整備経験者でした。
吉村、木村両氏の「なんとかDD51を手助けできないか」との思いに、出向でタイ在住であった小林涼太郎さん、技術者として辛嶋さんが賛同し、4名は「チーム51」プロジェクトチームを立ち上げ、クラウドファンティング(以下、CF)を開始します。瞬く間に支援者の輪は広がって技術支援の資金を確保でき、2両を手助けすることが叶ったのです。
チーム51は日本とタイを行き来しながら、コロナ禍を経て、時にはリモートワークで整備とメンテナンス、部品の輸送や製造などバックアップし、なんとか正常に走行できるところまで漕ぎ着けました。その模様は、2023年に取材・配信した記事で詳しくお伝えしています。また、支援者の中からも新たに整備経験者など数名が活動に合流しました。
トラブル連発… 1つひとつ潰していくしかない
それから2年。チーム51によるDD51のサポートは継続しており、両機は絶好調とはいえませんが、トラブルを乗り越えながら稼働しています。筆者(吉永陽一:写真作家)は2025年2月に再び現地へ赴き、DD51の今を見てきました。
断線によって破損を起こした始動モーター。同じDML61エンジン用のモーターを取り付けて問題は解決した。(2025年2月8日、吉永陽一撮影)
その前に、両機が直面した困難を振り返ってみます。1142号機はエンジンが始動できず、スターターモーターとエンジンクランク軸にある始動ギヤが破損しました。日本からメンバーが部品を届け、日本国有鉄道時代の図面を基にした新たな図面を作成し、ギヤ製作に役立てています。
また、配線がネズミにかじられたことで動作不良を起こし、エンジンをかけた際にスターターモーターの内部が破損したため、断線箇所は配線を取り替え対応しました。スターターモーターの交換では、幸いにもタイ国内の商社に同部品(DML61エンジン用)があるとCF出資者が聞きつけてAS社へ連絡し、AS社側が部品を購入して交換となりました。
1137号機はガスケット破損によって冷却水が漏れ、エンジン内に水が侵入。水密検査で予燃焼室より水漏れが発生しているのが判明したほか、さらに亀裂も入っていました。同機は工事輸送に従事しているため、当該エンジンをカットしていました。その後、日本からガスケットや予燃焼室の部品群を無償提供して修理を行い、図面も提供しました。
2025年の技術支援点検では、両機ともブレーキ配管の腐食によるエアー漏れが発見されました。このことはブレーキ性能にも影響を及ぼすため、早急に配管取り換え修理を施しています。1137号機は作用シリンダー管、1142号機は締切弁から圧力調整弁に至る配管の腐食でした。修理では技術指導を行い、直ちに実施しています。
メンテナンスに対する考え方の違い
細かい点ではフィルターの隙間、各所のオイル滲み、清掃不足、配線の汚れなどが確認でき、チ-ム51は補修やレクチャーを繰り返してきました。エンジンそのものは苗穂工場最後の全般検査から10年経過していましたが、両機とも良好です。継続的な支援は2025年も変わらずに実施されており、クラウドファンティングの継続出資者を中心に現地見学会も開催されました。
DD51形の心臓はDML61Zエンジンを2基搭載。1137号機はエンジン不調のため1基のみで運転した(2025年2月8日、吉永陽一撮影)
AS社の責任者によると、エンジンについてはオーバーホールするほどの状況ではなく、このまま使用できるとのこと。「しかし……」とチーム51のエンジニアは補足します。
「日本は予防的に部品オイルを替えるが、こちらでは状態が悪くなって交換します」
DD51に限らず、日本で整備するおおかたの乗り物は決められた期間に検査し、消耗品やオイルを定期的に交換することで故障を未然に防ぐ、いわゆる予防保守が取られています。AS社では、日本のように時期が来たら交換するのではなく、機械の調子が悪くなってから、あるいは壊れてから部品やオイルなどを交換してきました。
チーム51は経過日数と時間をもとにしたメンテナンスチェックシートを作成。一方、AS社は走行距離に応じてのチェックが欲しいとのことです。これは機械メンテナンスに対する考え方の違いであり、どちらが正しいという二元論ではありません。技術支援では予防保守への理解を促しながら、最適な整備環境を構築する段階にきています。
喜ばしい南本線の竣工 しかし新たな懸念も?
ベストな策は、図面をもとに現地で交換部品を製造して蓄え、的確に保守をしておくことです。チーム51ではAS社のスタッフを育成していこうと、ときには交換部品の図面を起こし、国鉄時代のDD51マニュアルなどは英語へ翻訳したうえでスタッフへ手渡しました。同時にチーム51の各メンバーの対応では限界があるため、AS社へ予備部品の一括提供も提案しています。
AS社スタッフの皆さん。チーム51の的確なアドバイスとトレーニングによって、スタッフの技術も向上している(2025年2月8日、吉永陽一撮影)
「DD51のエンジニアの方が指摘し、我々の知らないところを教えてもらいました。トレーニングもできるので大変良いプロジェクトです」とAS社スタッフは感謝しています。
ただし、これから懸念とされる事柄もあります。DD51は現在、ノンプラドックのデポ常駐ですが、南線の複線化工事は終わりに近づいてきており、次の拠点は東北部へ移ります。
タイ国鉄とAS社との契約では、南本線の工事完了後しばらくはノンプラドックに常駐しますが、同時に東北部も管轄しなければなりません。DD51はバラバラに配置されると、それぞれの地点に整備デポが必要となります。2両離れた地点でのトラブル対処は、相当の困難が予想されるため、現地スタッフが的確な整備と保守をマスターして実施することが大切です。
AS社はトレーニングを受け、機関室内の錆び取り、適切な配管処理など、作業がアップデートされてきました。チーム51は今後も2両のDD51をサポートし、なるべく今のうちに整備して、不良個所を整えていきたいと考えています。
2025年も、海を越えた整備の手が休まることはなさそうです。
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