意地だけじゃない!? 実績十分の米国製ロケット砲をなぜ選ばず? フランスが“国産ロケット砲”にこだわった本当の理由とは
- 乗りものニュース |

実績あるHIMARSではなく、なぜ国産だったのか
2026年9月10日、フランス国防装備庁(DGA)は、欧州のミサイルメーカーMBDAとフランスの防衛・航空宇宙関連企業サフランが共同開発する長距離ロケットシステム「サンダート(THUNDART)」について、開発・供給契約を正式に通知しました。
ユーロサトリに展示されたサンダートの発射車両(布留川 司撮影)
サンダートは、フランス陸軍が運用するアメリカ製M270 MLRSを改修した「LRU」の後継となる兵器です。2026年4月にはロケット弾の発射試験に成功し、6月にパリ郊外で開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ」で、フランス政府が同システムを優先案として選定したことが発表されました。
サンダートは、スカニア製の8輪駆動トラックをベースにした発射車両から、最大150km先の目標を精密攻撃することを目指すシステムです。発射装置には8発の誘導ロケット弾を搭載できます。
車両を供給するスカニアはスウェーデン系のメーカーですが、車台の生産はフランス国内で行う計画です。また、MBDAとサフランは、ロケット弾や誘導・射撃管制技術を含めたシステムの開発・生産をフランス主導で進めます。
興味深いのは、フランスには国産品開発のほかにも選択肢があったことです。
その代表がアメリカ製の「HIMARS」です。ウクライナ軍も運用するHIMARSは、装輪式の車両から誘導ロケット弾や地対地ミサイルを発射できる兵器で、すでに豊富な実戦経験があります。
メーカーのロッキード・マーチンは、フランスに対して契約から18か月でHIMARSを納入するという提案も行っていました。実績があり、短期間で導入できる兵器は、軍にとって大きな魅力です。
それでもフランスは、新たな国産システムの開発を選びました。
その理由を単なる「国産兵器へのこだわり」と考えるのは正確ではありません。フランスが重視したのは、兵器を保有するだけでなく、その開発や生産、改良を自国の判断で進められることでした。
欲しかったのは「ロケット砲」ではなく「長距離火力の主権」
そもそも外国製兵器を導入すると、どのような問題があるのでしょうか?
ユーロサトリに展示されたサンダートの発射車両(布留川 司撮影)
例えば、フランスが現在運用するLRUは、アメリカ製の誘導ロケット弾「GMLRS」を使用しています。HIMARSも同じ系列の弾薬を使用するため、アメリカが開発・生産する弾薬体系への依存が続きます。
こうした兵器は、自国で保有していれば何でも自由にできるわけではありません。弾薬を追加購入する際には輸出国の承認が必要になるほか、兵器の改良や、別の発射システムとの組み合わせにも技術情報や輸出規制の問題が関わります。
実際、ドイツではこの問題が表面化しています。ドイツ軍は、アメリカ製M270系列のロケット砲を運用する一方、新たにイスラエルとドイツの企業が関わる「EuroPULS」の導入を進めています。
しかし、ドイツが保有するアメリカ製GMLRSをEuroPULSから発射できるようにするには、米国側の承認が必要です。2025年12月には、ドイツが繰り返し承認を求めたものの、米国側から認められていないと報じられました。ドイツ国防省は当時、米国側の判断が最終的なものではないと説明していましたが、すでに保有する弾薬であっても、新しい兵器との組み合わせを自由に決められるとは限らないことを示す事例といえるでしょう。
外国製兵器を使用する場合、その性能だけでなく、輸出国との政治的な関係が運用に影響する可能性があるのです。
フランスが国産品にこだわる理由のひとつは、こうした外国への依存を減らし、兵器の運用や改良について自国の判断で決められる範囲を広げるためだといえるでしょう。
サンダートを開発するMBDAとサフランは、2027年1月に折半出資の合弁会社を設立し、開発から生産、運用開始後の支援、将来の改良まで担当する計画です。こうした体制があれば、将来的に射程を延ばしたり、新しい弾薬に対応させたりする際にも、外国政府の承認や技術提供に依存する部分を少なくできます。また、輸出先についても自国の判断で決めやすくなります。
もちろん、国産兵器の開発にはリスクもあります。フランスが現在運用するLRUは老朽化が進んでおり、後継装備の開発が遅れれば、長距離火力に一時的な空白が生じる可能性も指摘されています。それでもフランスは、長期的に見れば、自国で技術や生産体制を維持する価値が大きいと判断したのでしょう。
サンダートの採用は、単なるロケット砲の更新ではありません。兵器の性能だけでなく、生産や改良、輸出まで含めた自由度を確保するための選択でもあります。
フランスが欲しかったのは、単に遠くまで撃てるロケット砲ではなく、その能力を自国の判断で使い続けられる「長距離火力の主権」だったといえるでしょう。
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