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埼玉県内だけを13時間以上走る「狂気の夜行列車」に乗った! 約34kmだけで7時間以上!?

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牽引するのは古希と還暦手前のEL

 夕方16時台に出発し、解散まで13時間余りという長丁場の夜行客車列車が2026年10月3日土曜日から4日日曜日にかけて、埼玉県の私鉄、秩父鉄道で運行されました。電気機関車と客車もレトロ風で、参加者は昭和時代にタイムスリップして夜汽車に乗り込んだような郷愁に浸りました。

Large figure1 gallery17熊谷駅で出発前の「三峰51号」(熊谷市で大塚圭一郎撮影)

 このツアーは秩父鉄道と日本旅行メディア・アライアンス・トラベル(MAT)営業部の共同企画です。MAT営業部は鉄道ファンもうならせる通好みの旅行商品を手がけてきただけに、行程中は参加者を興奮させるさまざまな工夫を凝らしていました。

 参加した筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が担当者に直撃したところ、電気機関車の運用でも「アレもそうか!」と感心するような演出が秘められていました。

 ツアーは「重連電機牽引 長時間運行客車夜行急行『三峰51号』」。運用した2両の電気機関車(EL)は、105号機が1956年製と今年で「古希」を迎え、303号機も1967年製という「還暦」手前という大ベテランのそろい踏みです。客車は、蒸気機関車(SL)が牽引する列車「SLパレオエクスプレス」に使われている12系4両です。

 ELには、郷愁をかき立てる特注のヘッドマークを装着。国鉄とJRが運行していた寝台特急の「富士」と「はくつる」のデザインを活用し、それぞれ列車名の「三峰 MITSUMINE」と記載しています。列車名の「三峰51号」は、国鉄の臨時列車の列車番号に50番台が付けられていたことに着想を得ています。12系は茶色のため「ともに茶色に塗ったELを使うことで統一感を持たせました」(日本旅行)

 熊谷を3日16時40分に出発し、戻るのは13時間余り経過した翌4日5時45分です。といっても、秩父鉄道が旅客営業をしている羽生(羽生市)~三峰口(秩父市)間は71.7kmで、最高速度は50km/hです。かくも長時間の旅路になった背景には、複雑に組まれた旅程がありました。

熊谷から「まず逆方向」へ

 熊谷を出発した列車は、手始めに秩父鉄道の始点である羽生へ向かいます。303号機が牽引し、12系客車4両を挟んで後尾に105号機をつないだ「プッシュプル」と呼ばれる運転体系です。前後にELを連結しているのにはワケがありました。

 後に羽生を出発する際には列車の進行方向が変わり、熊谷へ戻るのですが、羽生ではELの位置を入れ替える「機回し」が運転上の理由で難しいため、制御車として使うことができる105号を熊谷側につないでいたのです。

狂気の夜が始まる…いきなり儀式が!

 熊谷から最初の停車駅の行田市で11分停車し、懐かしい“儀式”が待ち受けていました。先頭の303号機の運転席脇の窓を開けてのタブレット(通票)交換で、機関士と秩父鉄道社員がタブレットホルダーを交換しました。

 ただし、これは“なんちゃってタブレット交換”です。単線の秩父鉄道では信号方式の一つであるタブレット閉塞式をかつて用いていましたが、既に廃止されています。秩父鉄道社員は「参加者に懐かしさを味わってもらうための模擬タブレット交換です」と解説しました。

 羽生の5番線に滑り込んだのは17時23分で、折り返す19時まで1時間半余りも停車します。これはダイヤの都合上ですが、夕食時間帯のため参加者は食事に出かけたり、写真撮影に興じたりしていました。

再び熊谷を通過後は「酒」の応酬

 方向転換して105号機を先頭にした列車は、20時24分に到着する武川(深谷市)まで1時間半近く扉が開きません。そこで、車内には参加者が楽しめる三つの出し物が用意されました。

Large figure2 gallery18「三峰51号」の特設カウンター(羽生市で大塚圭一郎撮影)

 一つは係員が商品を積んだワゴンを押して車内を巡回するカート販売で、秩父鉄道のグッズや菓子などが用意されていました。筆者は特製コースターなどとともに、後刻のイベント用のチケットを買い求めました。

 続いて、SLパレオエクスプレスでも営業している特設カウンターに足を運びました。夜汽車とあって目を引くのが、充実した地酒のレパートリーです。

 矢尾本店(秩父市)の日本酒「秩父錦」、秩父蒸留所(同市)のウイスキー「イチローズモルト」などが並んでおり、イチローズモルトの中には「なかなか手に入らないのを特別に分けてもらった」(販売していた秩父鉄道社員)という酒も用意されていました。ウイスキーはストレートだけではなく、ハイボールや水割りなども作ってくれます。

 筆者は迷った末、1杯500円の秩父錦を注文。おちょこ1杯分ぐらいが出てくると想像していると、プラスチック製のコップになみなみと注いでくれる大サービスでした。

グッズを選んでいたら「貨物ホーム」に到着

 車内販売は扉が開かない「運転停車」の秩父まででしたが、代わりに特設カウンターで始まったのが硬券きっぷと車内補充券の販売会です。ソシオ流通センター~武州荒木間のきっぷ(大人200円、子ども100円)や、ひろせ野鳥の森駅の大人普通入場券(200円)などが用意され、車内補充券は希望の区間を買えます。

 売っていた制帽姿の男性は、行田市駅で機関士とともにタブレット交換をしていた社員でした。停車駅で参加者に発車時刻が近づいていることを伝えるのも含め、一人三役の大車輪の活躍です。

 武川駅に滑り込んだのは、貨物線用のホームです。普段は立ち入ることができないホームに降り立つと、ローカル線の駅を思い起こさせる砂利敷きでした。

謎の「乗り換え案内」後、また熊谷へ戻る!?

 続いて21時5分に寄居(寄居町)に到着。車掌は車内放送で「まもなく寄居に到着いたします。3番線到着、お出口は右側です。JR八高線、東武東上線はお乗り換えです」と語りかけると、実際の乗り換え列車を案内しました。まだ9時間近くの行程が残されている団体臨時列車にもかかわらず、どうして通常の列車のような放送をするのでしょうか。

Large figure3 gallery19武川駅の貨物用ホーム(深谷市で大塚圭一郎撮影)

 日本旅行MAT営業部鉄道・バス企画デスクの山中章雄課長は「かつて走っていた夜行列車のリアリティーを追求しており、いかに日常感を出すかということにこだわっています」とし、乗り換え列車の案内も旅情を高めるための演出だと説明しました。なお、万が一途中駅で降りて離団した場合には「前途放棄の扱いとなって乗車票は無効となり、旅行代金も返金されません」ということです。

 寄居駅で47分間停車した後、再び方向を変えてEL303号機が先頭になりました。23時33分に到着したのは、出発時と通過時を含めて3回目の熊谷です。ここで303号機を12系客車から切り離して自走させ、EL105号機の前に連結する機回しがありました。

 途中に熊谷がある羽生~寄居間(約34km)の中だけで7時間以上を過ごしましたが、いよいよ日をまたいだ4日0時、303号機と105号機の重連が12系をひいた編成が熊谷を発車。0時15分ごろに車内の照明を少し暗くする「減光」があり、1時20分に島式プラットホームの秩父駅1番線に滑り込みました。ここでも2回目の模擬タブレット交換が繰り広げられ、深夜ながら大勢の参加者が撮影しました。

力強いELなのに2両必要? 衝撃の答えは…

 2番線には1968年に登場した元東京都営地下鉄三田線のステンレス製電車6000形(現・5000系)が停車していました。正面装飾がなく、側面に赤帯を入れた登場初期の姿を再現した5002号です。この編成は秩父を5時22分に出る羽生行き始発電車に充当されます。

Large figure4 gallery20熊谷駅で機回しをするEL303号機(熊谷市で大塚圭一郎撮影)

「三峰51号」は影森から浦山口にかけての上りの急勾配も力強く進み、三峰口の「関東の駅百選」に選ばれた木造平屋に隣接した1番線に入線しました。記念撮影後、先導してきたEL303号機、続いて105号機が2番線に移り、熊谷方面に連結されました。

 このようにELの構成は、熊谷出発時はプッシュプル、3回目の熊谷で三峰口側の重連、三峰口で熊谷側の重連と姿を変えてきました。プッシュプルのまま三峰口まで運転すれば機回しは三峰口での1回で済むのに、どうしてこのように複雑な行程をたどったのでしょうか。

 山中さんは「種明かしをしますと」と前置きし、「ELのファンの間で機回しが人気なので、見せ場をつくっています」と機回しを意図的に組み込んでいると打ち明けました。

 関連で筆者がもう一つ疑問に思っていたのは、12系客車4両のために2両のELが果たして必要なのかという点です。秩父鉄道のELは沿線の武甲山などで採掘されるセメント原料の石灰石を太平洋セメント熊谷工場(熊谷市)へ運ぶのが本業で、今回のように旅客用に使われるのは異例です。

 筆者はELが多くの貨車をけん引している様子を眺めていたため、山中さんに「運転上、機回しができない熊谷~羽生間はプッシュプルで運行しても、残りの区間は1両のELだけで客車をひけるということはないですか」と尋ねました。

 山中さんは「秩父鉄道のELは速度があまり出ませんが、低速域にすごくパワーがあって力持ちです」と認めた上で、衝撃の事実を明かしました。

「演出のために2両のELを連結していますが、実際にモーター(主電動機)を動かしているのは1両だけです。もう1両はパンタグラフが上がっていても、モーターは動かしていないトレーラー状態なのです」

 つまり、ELを2両出動したのも、模擬タブレット交換と同じように往年の夜行列車の雰囲気を醸し出すための演出だったのです。三峰口駅舎の脇にある駅そば店「三峰口駅そば店」の深夜の特別営業もその一コマで、筆者もカート販売で買っておいた700円のチケットと交換して「夜鳴きそば」をすすりました。

 13時間余りで4回目となる熊谷のホームに5時45分に降り立つと、夜行列車に乗ってきた感覚で満たされていました。それは、「アレもそうか!」と膝を打つ演出の数々のたまものでした。

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