「タイヤは黒いゴム」ではない――ブリヂストンが描く“タイヤからタイヤへ”の未来 モータースポーツは「走る実験室」だった
- 乗りものニュース |

3種のゴムサンプルを引っ張り耐久性を実感
クルマに乗る人でも、タイヤについて深く考える機会は意外と少ないかもしれません。「黒いゴムの塊」というイメージを持つ人もきっと多いはず。しかし、そのタイヤには数十年にわたる材料研究や環境技術、そして世界中の研究者やエンジニアの挑戦が詰まっていることをご存じでしょうか。
ブリヂストンのタイヤ(画像:乗りものニュース編集部撮影)
このたび、ブリヂストンが報道陣向けに都内で開催した勉強会「あなたの知らない、世界のブリヂストン タイヤ原材料と走る実験室の世界」では、普段あまり語られることのないタイヤの原材料やリサイクル技術、さらにはモータースポーツを活用した研究開発の最前線が紹介されました。
ブリヂストンは現在、2024~2026年の中期経営計画「24MBP」を推進しています。そこで掲げるのは「質を伴った成長」と、創業100周年となる2031年までに「世界ナンバーワンを奪回する」という目標です。
その実現の土台となるのが、「安全」「環境」「品質」の三宣言と、経営の中心に据えられたサステナビリティです。つまり単に「いいタイヤを作って、販売を頑張ります」というレベルの話ではないということです。
タイヤをできるだけ長く使うためのソリューションを提供し、役目を終えたタイヤは再び原材料へ戻す。そんな循環型のビジネスモデルを構築しようとしているのです。
勉強会に参加した報道陣には、3種類のゴムサンプルが配られました。一つは天然ゴム。もう一つは合成ゴム。そして最後は、合成ゴムにカーボンブラックを混ぜたものです。見た目は全く同じ、ただの黒いゴムです。
実際に引っ張ってみると、天然ゴムは驚くほど切れにくい一方、合成ゴムだけのサンプルは比較的簡単に切れてしまいます。しかし、その合成ゴムにカーボンブラックを加えると再び切れにくくなるというものです。
天然ゴムも「環境」と向き合う時代へ
ブリヂストンによれば、天然ゴムは引っ張られると分子がきれいに並び、結晶化する性質があるといいます。この「最後の踏ん張り」が、高い耐久性につながっているそうです。
新しい天然ゴム資源として開発中の植物「グアユール」(画像:乗りものニュース編集部撮影)
一方で合成ゴムは、燃費性能やグリップ性能など、目的に応じて自由に機能を設計できることが強みだそうです。
つまり、天然ゴムは「強さ」 、合成ゴムは「性能設計」 、カーボンブラックは「補強」 というように、それぞれが異なる役割を担い、初めて一本のタイヤが完成するのです。
質疑応答では、「天然ゴムは将来すべて合成ゴムへ置き換えられるのか」という質問も出ました。
これに対し、ブリヂストンの回答は「現時点では完全な代替はできない」というものでした。天然ゴムではゴム以外の天然成分も耐久性に寄与していることが分かっており、その仕組みを人工的に完全再現するには、まだ研究が必要だといいます。
さて、そんな天然ゴム(パラゴムノキ)は主に東南アジアで生産されています。しかしゴム農園を拡大すれば森林破壊につながる可能性もあります。
そこでブリヂストンは、農園を無制限に広げるのではなく、同じ面積でより多く収穫できる栽培技術を研究。自社農園だけでなく、周辺農家へも技術提供を進めているとのことです。
さらに、気候変動や病害リスクを分散するため、アメリカのアリゾナ州では乾燥地帯でも育つ新しい天然ゴム資源「グアユール」の実用化へ向けた研究も進めているそうです。
つまり「資源を使う企業」から「資源を育てる企業」へ、という姿勢を持っているのです。
また、ブリヂストンが特に注力しているのが、「タイヤtoタイヤ」と呼ばれる水平リサイクルです。
これは使用済みタイヤを細かく砕き、酸素をほとんど入れない状態で加熱する「熱分解」によって、オイルと再生カーボンブラックを回収し、新しいタイヤの原材料として再利用する取り組みです。
現在は東京都小平市で実証実験を進めていると同時に、岐阜工場隣接地では年間7500t規模のパイロットプラントを建設しています。これは日本で発生する使用済みタイヤのおよそ1%を処理できる規模といいます。
実は、これには大きな壁が存在するといいます。熱分解によって取り出した再生カーボンブラックには、不純物が付着し、粒子同士が固まってしまい、そのままタイヤへ使うと耐久性が大きく低下してしまうのです。
タイヤは、昔も今も未来もモビリティを支える「黒子」的存在
そこでブリヂストンは、粒子を均一に砕く分散技術や、不純物を除去する純化技術を開発しており、その結果、再生材料を使用したタイヤでスーパー耐久レースを完走し、ドライバーからも良好な評価が得られたといいます。
2025年ブルネル・ソーラーチーム約600km走行タイヤ(画像:ブリヂストン)
さらに、2026年末から供給が始まる予定のフォーミュラEでも、再生可能材料を多く使用したタイヤを投入する計画とのこと。過酷なレースで認められた技術は、将来的に私たちが普段履く市販タイヤへも還元される予定なのだそうです。
モータースポーツはタイヤ開発において非常に重要な場であるといい、そのためブリヂストンはモータースポーツを「走る実験室」と呼んでいるといいます。
レースは、単なるエンターテインメントやスポンサー活動だけのために行われているわけではありません。ブリヂストンは、レースという極限状態の場でタイヤを酷使することで、人も技術も鍛え、その成果を市販タイヤへ素早く反映させる研究開発の場であるとしています。
タイヤが違うだけで、レースでは1周あたり数秒もの差が生まれることもあります。50周のレースなら、最終的には数周分の差になることさえあるそうで、それほどタイヤは、クルマの性能を左右する重要な部品なのです。
モータースポーツ用のタイヤは、市販タイヤに求められる性能や設計思想とはまったく異なる、極限の世界で戦うための性能やデータを求められます。しかし、その結果を乗用車のタイヤへ応用することで、安全で快適なドライブにつながっているそうです。
普段の生活でタイヤを意識するのは、交換やパンクのときくらいかもしれません。ですが、その一本には、世界中から集められた天然資源、最先端の化学技術、環境への配慮、そしてモータースポーツで鍛えられた技術が凝縮されています。
地球資源を循環させながら、安全性や性能を維持し続けるという難題に真正面から挑む研究者や技術者が世界中にいるからこそ、私たちは安心してクルマを走らせることができます。
クルマの主役はボディーやエンジンなどいろいろありますが、実は路面と唯一接しているのは、わずか4本のタイヤのみ。その当たり前を支える、ある意味主張しない努力と存在こそが、これからのモビリティ、そして地球環境の未来を静かに支えているのです。
「タイヤは消耗品」――勉強会を終えて、その見方が少し変わりました。
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