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海の仕事「ここまで注目されたのは記憶にない」 日本の海事行政トップが語る「激動の1年」山積する課題の“今後”を聞いた

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日本の造船業が抱える課題

「激動かつ慌ただしい1年だった。これだけ産業政策として海事行政、特に造船が取り上げられたのは記憶にない。それぐらい“追い風”ならぬ“追い波”をいただいていることを、つくづく感じている」――就任から1年を振り返り、国土交通省の新垣慶太海事局長はこう話します。

Large figure1 gallery5新垣慶太海事局長(2026年7月、関口拓真撮影)

 政府が7月に閣議決定した“日本成長戦略”では、重点的に投資を進める戦略17分野の一つとして造船分野があげられており、国をあげて海事産業の再生に取り組む方針が示されました。

 新垣局長は「造船界を強くしようという流れの中にあり、海事局長としてありがたい環境だった」と振り返ります。

 島国・日本は海外貿易で輸出入のほぼ100%、国内貨物も約40%が海上輸送によって運ばれています。しかし、造船世界一を誇った日本は、中国・韓国の大規模造船所に押され、建造量は大きく落ち込みました。2024年に日本で竣工した新造船は約900万総トン、世界シェアは13%。これに対してトップの中国で約3900万総トン、世界シェアは54%と圧倒的な開きがあります。

 これに危機感を抱いた政府は2025年末、10年間で官民合わせて1兆円規模の投資実現を目指す“造船業再生ロードマップ”を策定。2035年に日本船主の船舶建造需要を満たす1800万総トンの建造能力を確保することが掲げられました。

「造船支援の必要性は、海事に関係する議員の間でしっかり認識されていた。政府が前のめりになりすぎて、民間の設備投資が本当に伴うのかを気にする声もあったが、日本船主協会や日本造船工業会など船主や造船所、舶用メーカーが加盟する業界4団体が先に決断して意思を示したことが、政府による支援を後押ししたと考えている」

 日本は造船所の規模が相対的に小さく、船価に関係するコスト競争力や連続建造で求められるロット受注力で負けている面があります。品質や技術力についても、中国・韓国が力を付けてきており、LNG(液化天然ガス)船やメガコンテナ船の受注で船主からの信頼を積み重ねてきました。

 新垣局長も「品質が良く価格が手頃であることが競争力の基本だ」と認めます。その上で「それは簡単には実現しないため、どう補うかが課題。初期費用が高くても、ライフサイクルコストまで含めれば優位性がある可能性がある。価値を“見える化”するとともに、人件費など必要なコストは確保しつつ、無駄や非効率を減らす工夫が重要だと感じている」と述べました。

 海事局では労働集約型の産業である造船業について機械化できる余地があると捉えており、AI(人工知能)を活用した次世代型造船ロボットの導入や情報整理による生産効率の向上に向けた支援を行おうとしています。

カギは「ゼロエミ船」 ただ投資は停滞気味

 造船日本の再生に向けた取り組みで、大きく注目されているのが環境に優しい船舶の開発です。国際海運におけるGHG(温室効果ガス)の排出量を全体としてゼロにする目標は、政府から外航船を運航する大手船社までそろって掲げており、CO2(二酸化炭素)を排出しない“ゼロエミッション船”の需要が世界的に高まっています。

Large figure2 gallery6建造量は上昇基調にある。写真はJMUの呉事業所(深水千翔撮影)

 新垣局長はアンモニアや水素、メタノールなど多種多様な選択肢がある次世代燃料について「実用化の順番に差はあるかもしれないが、すべての可能性がある」と話します。

「海事局としては研究・技術開発のところに、財政的な支援をすることが、まずスタートだ。次のステップは、エンジンや推進システムの部品を作る生産設備を整えることを支援する。これらは政府のGX経済移行債で手当てした」

 次世代燃料を使用する外航船としては、2026年11月に日本郵船と日本シップヤード(NSY)などが開発を進めていた4万立方メートル型アンモニア燃料アンモニア輸送船(AFMGC)がジャパンマリンユナイテッド(JMU)有明事業所で竣工する予定です。

「次世代燃料を使用する推進システムは、重油焚きのエンジンに比べると割高になる。こうした新しい推進システムを搭載した船が実用化されたら、価格差で競争力に負けないよう購入する場合の導入支援というのも、今年度から始めている。量産して一般化していけば、コストが下がっていくので、まずは軌道に乗せていくことが大事だ」

 一方で次世代燃料船の受発注は停滞気味です。国際海事機関(IMO)では2050年までの国際海運カーボンニュートラルを実現するため、燃料規制とゼロエミ船などへの経済的インセンティブを柱とした海洋汚染防止(MARPOL)条約の改正案、いわゆる「ネットゼロ・フレームワーク(NZF)」の議論が行われていますが、米国などの反対で採択の見通しが不透明な状況となりました。

 これに対して新垣局長は「地球環境の問題を考えた場合、環境に優しい船の導入を進めていかなければならないという世界的な潮流は変わらない」と強調します。

「課題としては船が少ないと燃料供給設備への投資が進まず、燃料供給体制が整っていないと船も増えないという“鶏が先か卵が先か”の構造がある。この最初の回転を始める部分こそ、公的支援の出番」と、ゼロエミ船の普及を推進していくための必要性を語っていました。

船員も造船も「人手不足がかなり深刻」課題認識は?

 しかし、海事産業全体として重くのしかかっているのが人手不足です。船員は1974年をピークに減少を続け、かつて5万人以上いた外航日本人船員は約2000人に、7万人を数えた内航日本人船員も半分以下の約2万9000人にまで減りました。造船業についても現場で働く技能者の減少傾向が続いています。

 こうした現状について新垣局長は「新卒層には、海事産業が将来のキャリアになり得ると認識してもらうことが出発点。他産業と比較して魅力的な産業でなければならない」と語ります。

「もちろん福利厚生や処遇、働き方改革もあるが、まず中学生や高校生に技術的な素養と興味を持ってもらうことが必要だろう。より小さい子供であれば、海を身近に感じてもらうことから始めたい。また、技術者の育成は、大学と連携してそこで得たノウハウを造船分野で活躍できるような取り組みをやっている」

 国内の人材確保と並行して行われているのが、外国人材の確保です。2025年時点の造船業の就労者数は7万6807人。このうち外国人材は1万4527人と約2割を占めています。

 新垣局長は「競争は二重構造で、まず日本に来てもらえるかという競争がある」と厳しい現状を明かします。

「来日候補者は自国で働く選択肢や、より賃金の高い他国との比較もしている。日本のように人件費が安い国じゃなくても、もっと高い国がある。国内のいろんな産業でも取り合いになる」。このようにと述べ、「外国人の方に選んでもらえる産業になる」ことが重要だということを強調しました。

内航海運はより厳しい状況に

 造船業は外国人材も入れつつ、工場設備の自動化も進めることができますが、全て日本人で担う必要がある内航海運は人手不足が顕在化し、より厳しい状況に置かれています。

Large figure3 gallery77月20日に東京で行われた海の日記念行事。子どもの来場者も多かった(乗りものニュース編集部撮影)

「内航海運業は事業承継を中心に今後、どういう体制にしていくかというのが大事な問題だ」と新垣局長。

「離島航路はなくなったら本当に困るため、優先順位を高く考えている。維持のためには経費確保が必要だが、船員確保が難題だ」

 実際、内航の旅客航路では燃料価格の高騰や人手不足を理由とした、減便が相次いでおり、離島住民の生活に影響を及ぼしているのが現状です。内航貨物船も同様の課題を抱えており、“船があっても人がいない”状態が恒常化しています。

昔ながらの商習慣は「見直さなくては」

 新垣局長は「船員不足で動かせない船が出てきている」と危機感を募らせます。

「内航海運においては船員不足が深刻化しており、各事業者が必要な船員を確保できる環境の整備が求められている。また、商慣習を見直す必要がある。そのためには、船員の確保・育成に必要なコストが適切に運賃・用船料へ反映されることが重要であり、運賃・用船料等を構成する標準的な費目とその計算方法を整理した『標準的な考え方』を2026年3月に策定し、適正取引の推進に取り組んでいる」と説明しました。

 また、離島航路に関しては「その地域、その航路で働きたいと思ってもらうことが必要。仕事だけでなく、住むことも含めた魅力づくりが求められる」という考えを述べています。

ホルムズ海峡危機でも注目は集まった

 さらに現在、頭を悩ませているのがホルムズ海峡の問題です。米国とイスラエルが2026年2月28日にイランへの大規模な軍事攻撃を始めて以来、同海峡では船舶が安全に航行できない状態が続いています。

Large figure4 gallery8海事関連がかつてないほど注目されていると新垣局長(関口拓真撮影)

 原油の9割を中東諸国から輸入している日本にとってホルムズ海峡の封鎖は死活問題。新垣局長も現在の状況を「憂慮している」と話し、「船の乗組員や、船そのものの安全を確保して、いかに早く、留め置かれているペルシャ湾内から出てもらうことを優先した」と海事局としての対応を説明しました。

「次のステップは、今回のような紛争が起こる前の、通常通りの貿易ができるかということだ。そこに持っていかないと、日本の経済そのものであるエネルギーを中心とした物流に影響が出てくる」

 その上でイランなどが主張するホルムズ海峡の通航料に関しては「国際海峡において通航料を取ることは認められないというのが従来からのルール」と述べ、IMO(国際海事機関)が採択したように航行の自由の確保を求めていく考えを示しました。

※ ※ ※

 このように良くも悪くも、2025年から2026年にかけて、造船再生やホルムズ海峡危機といった海事産業に関するニュースが大きく扱われました。注目が集まっていることを新垣局長は歓迎します。

「産業政策が一般紙の1面を飾り、世間の皆さんの認知度が上がった。造船会社などでは新規採用の応募者が増えているという声も聞いた。引き続き離島の生活と経済を支える政策運営をしっかりと進めると共に、まだ途上の造船再生を軌道に乗せていきたい」

 新垣局長は8月7日付の人事で退職し、大臣官房審議官の足立基成氏が後任として海事局長に就きます。造船や海運へますますの注目が集まる中、海事行政は新たなステージへと踏み出します。

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