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「博物館に巨大な筒!?」飛行機コレクションと共に展示される“サダム・フセインの秘密兵器”の正体とは

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飛行機の横に置かれた「謎の巨大な筒」

 イギリス南東部、ケンブリッジ近郊にある「帝国戦争博物館ダックスフォード(IWM Duxford)」は、航空ファンにはよく知られた博物館です。かつてイギリス空軍の基地だった広大な敷地には、第二次世界大戦から冷戦期までのさまざまな航空機が展示されていますが、航空機に混じって奇妙なものを見つけました。

Large figure1 gallery2 帝国戦争博物館ダックスフォードに展示されているスーパーガンの砲身の一部。英国企業が製造したが、輸出前に政府によって押収された(布留川 司撮影)

 それは巨大な金属製の筒で、片側には人間がすっぽり入れそうな穴が開き、その周囲には多数のボルト穴が並んでいます。どう見ても航空機の部品には思えません。そして説明板には「SECTION OF THE PROJECTED IRAQI 1,000mm ‘SUPERGUN’」と書かれています。

実はこれ、イラクが建造しようとしていた口径1000mm「スーパーガン」の砲身の一部なのです。

 この巨大砲は、イラクのサダム・フセイン政権が1980年代末に進めていた「プロジェクト・バビロン(Project Babylon)」で計画されたものです。完成すれば全長150mを超える巨大な砲身だったといわれています。単純に口径だけを比較すると、旧日本海軍の戦艦「大和」が搭載した46cm砲の2倍以上になります。

 しかも、巨大すぎるため戦車や艦船に搭載することはできず、通常の大砲のように砲身を自由に動かして狙うような兵器でもありません。巨大な砲身を地上に据え付けて使用することを想定しており、その姿は、まるで中世の大砲のように、巨大な砲身を地面に据え付けたものだったのです。

 では、イラクはなぜそんな規格外の大砲を造ろうとしたのでしょうか。

「大砲で人工衛星を宇宙へ」という構想

 この奇妙な計画の中心にいたのが、カナダ出身の砲兵技術者ジェラルド・ブル博士です。ブルは以前から大型砲を使って物体を超高高度へ打ち上げる研究に携わっており、1960年代にはアメリカとカナダが進めたHARP(High Altitude Research Project)にも参加していました。

Large figure2 gallery3帝国戦争博物館ダックスフォードに展示されているスーパーガンの砲身の一部(布留川 司撮影)

 つまりブルにとって巨大砲は、単純に大きな砲弾を敵へ撃ち込むためだけの兵器ではなく、「大砲を使って物体を宇宙へ送り出す」という構想にもつながる技術だったのです。そして1988年3月、イラクはブルと口径1000mmのスーパーガン開発について契約し、「プロジェクト・バビロン」が本格的に動き始めます。

 もっとも、いきなり口径1000mmの巨大砲を造ったわけではありません。まず口径350mmの試作砲「ベイビー・バビロン」が開発されました。開発段階では砲身長30mまたは52mの仕様が検討され、約400kgの飛翔体を140~490km先まで飛ばすことが想定されていました。
 これを技術的な基礎として、その先に計画されていたのが口径1000mmの巨大砲を建造するという方針でした。イラク側は後に、この計画について人工衛星の打ち上げを目的としていたと説明する一方、軍事用途も存在していたことを認めています。また、UNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)の調査では、イラクが150km以上の射程を持つロケット補助弾をスーパーガンから発射する計画を進めていたことも明らかになっています。

完成しなかった巨大砲、なぜイギリスに?

 しかし、口径1mもの大砲を造るとなれば、その製造も簡単ではありません。巨大な砲身を一体で造ることはできないため、鋼鉄製のセクションを多数製造し、それらをつなぎ合わせて一本の砲身を構成する方式が採られました。その製造にはイラク国外の企業も関わっており、実はイギリスでも巨大な砲身部品が製造されていました。

Large figure3 gallery1博物館の外観(布留川 司撮影)

 現在ダックスフォードに展示されている砲身セクションも、そのひとつなのです。製造したのはイギリスの重工業メーカー「シェフィールド・フォージマスターズ」で、展示されたこの一部分だけでも重量は約45トンにも達します。

ところが1990年3月、この計画は大きな転機を迎えます。中心人物だったブル博士がベルギーのブリュッセルで何者かによって射殺されたのです。
さらに翌4月には、イギリスで製造されていた砲身部品が輸出前に政府によって押収されました。その後も各国で関連部品の押収が相次ぎ、計画の継続は困難になっていきました。

 イギリス以外で製造された部品に関してはイラクに渡ったものも多くありましたが、1991年に発生した湾岸戦争後には、すでにイラクへ渡っていた関連部品も国連査察の対象となります。UNSCOMの記録によると、イラクが保有していたスーパーガンの関連部品は、完成していた350mm砲1基のほか、350mm砲用チューブ6本、1000mm砲用チューブ44本、1000mm砲用の油圧反動シリンダー4本などがあり、これらはUNSCOMの監督下で破壊されました。

 一方、イラクへ渡る前にイギリスで押収された部品の一部は残されており、その一つがダックスフォードに展示されている、この巨大な筒になります。

 もし計画が予定通り進んでいれば、この約45トンの部品もほかのセクションと結合され、巨大なスーパーガンの一部分になっていたはずです。現在では航空機の横に置かれた巨大な鉄の筒にしか見えませんが、その来歴をたどっていくと、冷戦末期の宇宙開発技術とイラクの兵器開発、そして計画を主導した技術者の死までがつながってきます。

 完成することのなかった規格外の「スーパーガン」。その痕跡は30年以上が経過した現在も、英国の航空博物館に残されています。

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