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開業わずか半年で“失業” ありあわせで作った異色の「軌道線」が歩んだ数奇な運命

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わずか半年で失った「本来の役割」

 名古屋鉄道の路線網の中で少し変わった歴史を持つ路線があります。愛知県豊川市の国府駅と豊川稲荷駅を結ぶ7.2kmの豊川線です。ごく普通の鉄道路線に見えますが、法令上は「鉄道」ではなく「軌道」に分類され、2005(平成17)年に岐阜市内線などが廃止されて以降、名鉄に残る唯一の軌道線となっています。

Large figure1 gallery2名鉄豊川線(安藤昌季撮影)

 なぜこのような路線が生まれたのでしょうか。その背景には、太平洋戦争が深く関わっていました。

 豊川市には1939(昭和14)年、旧日本海軍の豊川海軍工廠が開庁しました。航空機や艦船などに搭載する機銃と弾薬を主力に生産し、戦争末期には5万人以上が働く巨大な兵器工場でした。この工廠の発展は人口増加をもたらし、1943(昭和18)年には豊川市が誕生する背景にもなっています。

 この大量の工員を名古屋・岡崎方面から輸送するため、1945(昭和20)年2月18日、国府~市役所前(現在の諏訪町)間4.4kmが「豊川市内線」として開業しました。

 しかし、時は太平洋戦争の末期。線路を新しく敷く資材にも事欠く時代でした。そこでレールは他線で撤去したものを流用し、変電設備は渥美線から、車両は瀬戸線や揖斐・谷汲線などから転用されました。まさに「使えるものをかき集めて造った」戦時急造路線でした。開業時の架線電圧は600Vで、名古屋本線を走るような大型車両ではなく、路面電車に近い小型車両が使われていました。

 ところが豊川市内線は、開業からわずか半年も経たないうちに、その建設目的を失うことになります。

 1945(昭和20)年8月7日、豊川海軍工廠は大規模な空襲により壊滅的な被害が生じ、2500人以上が死亡します。そしてわずか8日後の8月15日に終戦。同年2月に工員輸送のため開業した路線は、半年足らずで本来の存在理由を失ってしまいました。

 しかし豊川線は廃止されませんでした。戦後、豊川市街地を支える交通機関として残され、やがて「豊川稲荷への参詣輸送」という新しい役割を担うことになります。

豊川稲荷へ向かう参詣路線として“第二の人生”

 実は、名鉄の前身会社による豊川稲荷への輸送は、豊川線の開業よりもはるかに古い歴史がありました。1926(大正15)年には、愛知電気鉄道が小坂井から豊川鉄道線(現在のJR飯田線)へ乗り入れて豊川駅までの直通運転を開始。しかし、国鉄線への乗り入れでは輸送力の増強に限界がありました。

 そこで戦後、豊川市内線そのものを豊川稲荷の近くまで延伸する計画が進みます。1953(昭和28)年には架線電圧を名古屋本線と同じ1500Vに昇圧し、大型車両の乗り入れを可能にしました。そして1954(昭和29)年12月25日、稲荷口~新豊川(現在の豊川稲荷)間が開業して全線開通。同時に路線名も「豊川線」に変更されました。

 これにより、それまで豊川方面へのアクセスを担っていた古いルート(伊奈~小坂井間の小坂井支線)は同日廃止。軍需工場への通勤路線として生まれた豊川線は、名古屋方面から豊川稲荷へ向かう参詣路線として、本格的な第二の人生を歩み始めたのです。

 参詣路線への転身は、豊川線にもう一つの独特な性格を与えました。現在は短い単線のローカル線ですが、かつて正月になると大量の参詣客を運ぶため、普段とは全く違う高密度運転が行われました。

 1982(昭和57)年に自動閉塞化される以前は、通常時はほとんど使わない途中の列車交換設備を正月輸送の時だけフル活用。最繁忙期には最大で毎時6往復もの列車を走らせていました。

 1966(昭和41)年には豊川線内に特急が設定され、後には名古屋本線へ直通する急行や全車指定席特急も登場。正月期間には新名古屋(現在の名鉄名古屋)や新岐阜(現在の名鉄岐阜)など各方面から多数の臨時特急が運転されましたが、これも時代の変化とともに2005(平成17)年を最後に姿を消しています。

 路線そのものも時代に合わせて姿を変えてきました。1972(昭和47)年には途中の3駅を整理して八幡駅を新設。1996(平成8)年には同駅周辺が高架化され、最高速度が85km/hに引き上げられるなど、都市近郊鉄道としての改良が進んでいます。2011(平成23)年には、豊川線内でワンマン運転が始まりました。

 2026年7月の木曜午後、豊川稲荷14時4分発・国府行きに乗車しました。列車は2両編成で、1両目に5人、2両目に21人が乗車していました。稲荷口で6人、諏訪町で19人が乗車。八幡では2人下車・14人乗車でした。路線の出自は軌道ですが、現在も線路の両側に道路があり、路面電車の感じがあります。

 終点の国府でいったん下車して、再び豊川稲荷を目指します。1号車30人、2号車10人が乗車。八幡で7人下車・4人乗車、諏訪町で13人下車と途中駅でも人の動きがありました。一部時間帯は特急も運行される路線で、豊川稲荷という大きな観光資源もあることから、太い需要のある路線と感じられました。

 戦争によって生まれ、終戦によって役割を失いながらも、別の目的を見つけて80年以上を生き延びてきた豊川線。普通の郊外鉄道に見えるこの路線が、今なお法令上の「軌道」として走り続けているという事実は、その異色の歴史を静かに物語っています。

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