都営大江戸線なぜ「うるさい」? 建設後押しの“2大特徴”が騒音の原因に ただし改善も進行中
- 乗りものニュース |
都営大江戸線は、ほかの地下鉄路線と比べても比較的騒音の大きい路線といわれていますが、なぜ「うるさい」のでしょうか。そこには、大江戸線の誕生に至るまでの経緯が関係していました。
騒音の遠因はオイルショック?
東京の地下鉄で唯一、リニア駆動を採用している都営地下鉄大江戸線には、「一番うるさい地下鉄」という残念な評価があります。実際、SNSで「大江戸線」と「うるさい」「騒音」で検索すると毎日、誰かしらが不満をつぶやいています。
都営大江戸線(画像:PIXTA)。
大江戸線の騒音に注目が集まったのは、コロナ対策の換気で電車やバスの窓開けが広まったことが契機のようです。2020年8月27日の東京新聞(電子版)は、約15cm窓を開けた車内で同紙記者が騒音計で測定したところ、「停車時に70デシベルだった数値は、パチンコ店内の目安とされる90デシベルどころか、100デシベルを何度も超えた」として、一部の区間では最大120デシベルに達したと記しています。
もっとも窓開けが行われなくなっても騒音への苦情が続いていることも示すように、大江戸線の騒音は今に始まったことではありません。大江戸線はその誕生の経緯から、騒音が大きくなる宿命にありました。
大江戸線こと「地下鉄12号線」は元々1960年代末に構想され、1974(昭和49)年に東京都が免許を取得した路線です。当初は、東京の地下鉄だと東京メトロ東西線や都営新宿線のような20m車両10両編成の標準的な規格を想定していましたが、計画と前後して発生したオイルショックで都の財政は大きく悪化し、計画は凍結されてしまいました。
都は建設費を削減することで12号線を実現しようと模索します。地下鉄建設費の7割は土木工事費が占めます。トンネルの内径を従来の6.2mから約4.3mに縮小すると断面積は半分になり、建設費を2割削減できることが分かりました。
日本最古の地下鉄である銀座線の車両規格は、東京メトロでは最も小さい全長16m、全幅2600mm、全高3465mmですが、大江戸線は全長16.5m、全幅2490mm、全高3145mmなので、幅と高さは一回り小さいのです。
こうして12号線計画は1980年代に再始動し、1986(昭和61)年に光が丘~練馬間の建設に着手しますが、着工直後に実用化され、急遽採用が決まったのが「リニア地下鉄」です。
リニア地下鉄も「騒音」の遠因に
リニア地下鉄はモーターで車輪を回転させるのではなく、軌間に設置したリアクションプレートと車体の電磁石を反応させて推進力を生むため、鉄輪では難しい急勾配に対応可能です。また、モーターを搭載しないため台車の自由度が高く、半径100mの急曲線も走行可能です。
この結果、既存の地下施設の間を縫うようなルートが取れるようになり、新宿、飯田橋、六本木、汐留などに駅を設置することで、需要喚起にもつながりました。つまり大江戸線は小型地下鉄・リニア地下鉄を採用したからこそ実現した路線です。
「リニア地下鉄」の大江戸線は、車両搭載の電磁石と、線路のリアクションプレートを反応させて走る(乗りものニュース編集部撮影)。
しかしトンネル断面が小さくなれば、シールドトンネルと車体の間隔も小さくなり、音は反響するようになります。また、鉄道の台車は車輪の向きが固定されているため、カーブでは曲線のレールと車輪の摩擦できしみ音が発生し、急曲線ほど騒音が大きくなります。つまり大江戸線の特徴は、そのまま騒音の発生要因になるのです。
そこで東京都交通局は2020年度から2022年度にかけて、曲線走行時にレールに合わせて輪軸を動かすことで騒音を低減する「試験用操舵台車」の効果や耐久性を検証。良好な結果が確認できたことから営業運転を想定した操舵台車の製造に着手し、2024年度から一部の車両に試験導入し、営業線での営業評価を行う予定です。
大江戸線には開業時から、輪軸を支持するゴムの前後支持剛性を下げることで、カーブに沿って輪軸が自動的に曲がる「自己操舵台車」が導入されていますが、構造上、可動範囲が限られます。そこでカーブ通過時に車体と台車の間に働く力を、てこの原理を用いたリンク機構で輪軸に伝え、カーブ内側の車軸を短く、外側を長くすることで線路と車輪の角度を減らす「リンク式操舵台車」が開発されました。
2015(平成27)年に開業した、大江戸線と同じリニア地下鉄の仙台市地下鉄東西線は2000系電車にリンク式操舵台車を導入しており、大江戸線の試験もこの技術をベースにしています。
また、リニア地下鉄以外でも、東京メトロは2011(平成23)年登場の銀座線1000系、2016(平成28)年登場の日比谷線13000系、2019(平成31)年登場の丸ノ内線2000系に、輪軸の片方をモーターに接続し、片方をリンク機構で動かすリンク式操舵台車を導入しています。
この3路線は建設年次が古いため、大江戸線ほどではないものの急曲線が多く存在しますが、操舵台車の導入で騒音はかなり改善した印象です。大江戸線でも騒音問題の救世主となるのか、間もなく始まる実地試験に注目です。
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