独身=不幸は“呪いの言葉” 結婚が幸せの「絶対条件」と思い込んでいる人の“盲点”
- オトナンサー |
年末年始に実家に帰省する人は多いと思いますが、帰省が憂鬱(ゆううつ)だと感じたことはありませんか。例えば、独身の人の中には帰省時に両親から「そろそろ結婚しないと」「いい年なのにまだ独身だなんて…」などと言われ、プレッシャーを感じることがあるようです。
評論家の真鍋厚さんは、世間ではいまだに「独身でいるよりも結婚した方が幸せ」という考え方が根付いていると指摘します。こうした考え方の盲点について、真鍋さんが解説します。
夫婦関係に不満があるとかえって幸福度が低下
近年、「未婚者よりも既婚者の方が幸福度が高い」という内容の調査データがSNS上で話題になることがあります。
例えば、男女1万2000人を対象にした民間シンクタンクの調査では、現在幸せである割合が既婚者で男女ともに8割、未婚者/離別・死別者で男性5割、女性7割という結果でした(「2018年 人生100年時代の結婚に関する意識と実態」、明治安田総合研究所)。
こうした調査データが公表されると、「やっぱり結婚した方がいい」「独身は孤独で幸福度が低い」などというコメントがネット上に投稿され、それに対する反論のコメントが寄せられることがありますが、果たしてそんなに単純な話なのでしょうか。
普通に考えれば、結婚すれば必ず幸せになれるという保証はどこにもありません。芸能人のニュースを見るまでもなく、離婚は多いですし、夫婦仲が冷めきっている家庭内別居、あるいは幼い子どもがいるので別れられず、形だけの夫婦を続ける家庭内離婚もよく聞きます。
つまり、夫婦間で大きなトラブルを何も抱えておらず、お互いが普段の生活にそれなりに満足していなければ、主観的に「自分は幸福だ」とは思えないでしょう。これは彼氏や彼女の存在に置き換えてもまったく同じです。
この疑問を検証したある論文では、女性を対象とした分析の結果として、欧米の先行研究と同様に、未婚者と比較して既婚者ほど幸福度が高くなっていた一方で、未婚者と比較して、夫婦関係に不満がある既婚者ほど幸福度が低くなっていることが分かりました。
そのため、すべての結婚が女性の幸福度を高めているわけではなく、夫婦関係に満足している場合だけ結婚によるプラスの影響が観察されると結論付けました(佐藤一磨「夫婦関係満足度と幸福度―夫婦仲が悪い結婚と離婚、幸福度をより下げるのはどちらなのか―」慶應義塾大学経済研究所パネルデータ設計・解析センター)。
要するに、夫婦関係に不満がある既婚女性の幸福度は、未婚女性や離婚した女性よりも低い可能性が高いということです。当たり前のことのようにも思えますが、冒頭で取り上げたデータから抜け落ちている盲点が見事に浮き彫りにされています。
よくお盆や年末年始に社会人の子どもが帰省した際に、まるで判で押したように「結婚しないのか」「結婚しないと不幸になるぞ」「独身のままだと不幸」などと呪いの言葉を掛ける親がいます。恐らく心配や善意からなのでしょうが、幸せになれるかなれないかは、結婚という制度とほとんど関係がありません。一緒に暮らす相手との生活が満ち足りたものになっているかどうかでしかないのです。
逆にいえば、ここがクリアできていない結婚は、かえって悲惨なものになるでしょう。親からのプレッシャーや世間体、友人の結婚が相次いだことなどが原因で、結婚そのものが目的になってしまう場合は特に要注意です。相手との相性という最も大事なことを考える余裕がなくなりやすいからです。親はつい説教っぽいことを言いがちですが、このような本末転倒な事態を引き起こす原因になり得ることをもっと自覚すべきでしょう。
そうすると、結婚うんぬんといった形式的な事実よりも、本人にとって周囲の人々との関係などが良好であるかどうかが重要になってきます。
シングルでも孤独を感じない方法は?
社会政策やシングル研究などが専門のイスラエルの社会学者、エルヤキム・キスレフは、「『選択的シングル』の時代 30カ国以上のデータが示す『結婚神話』の真実と『新しい生き方』」(舩山むつみ訳、文響社)で、世界各国の既婚者・未婚者を比較した調査結果を突き合わせながら、「結婚している人たちと結婚していない人たちの間の孤独と幸福の差は驚くほど小さい」と指摘しました。
これは、そもそも長い人生においていくらパートナーがいても、孤独感と上手に付き合っていくことが不可欠であり、いずれ離別や死別などによってシングルにならざるを得ないことが大前提としてあります。キスレフは、「孤独感はパートナーがいるかどうかとは関係のない、独立した問題であり、その問題の解決策は自分自身の中に探すしかないことを結婚後にようやく理解するようになることが、さまざまな研究で明らかになっている」とまで述べています。
また、シングルの高齢者と話していると、「幸福な人たちは、寂しいとか、人との接触がないなどと感じているのではなく、単にひとりでいることを楽しんでいる」ということも強調しています。このような人々は「ひとりでいること」と「寂しさ」をはっきり区別していると表現しました。
また、さまざまな方法で地域社会とのつながりや趣味のつながりなど、多様なソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を持っており、社会的孤立に陥っていないことも分かりました。
このような知見を踏まえると、「結婚している人の方が幸福度が高い」という考え方は、未婚と既婚のそれぞれの実態を無視して、カテゴリーだけで比べていることも含めて、かなり無理があることに気が付きます。パートナーの有無を問わず、自分の価値観や感情を含めた孤独感との付き合い方や、ソーシャル・キャピタルの状況こそが幸福度を左右するとても重要なポイントになっているからです。
ですが、相変わらず多くの人々は、「結婚=幸福」というイメージや図式にいまだとらわれています。そのせいで「独身=結婚できなかった人」というレッテルを誰かに貼ったり、誰かに貼られたり、同世代の友人がみな結婚したことに引け目を感じたりします。
そして最悪の場合、自分に自信が持てず、自己肯定感が低くなる人も少なくありません。改めるべきは、「結婚して一人前」「結婚すればどうにかなる」といった古い結婚観や、「生涯独身の人は不幸」「子どもがいないのは不幸」といった幸せの本質とは無関係な偏見でしょう。
そして、先述のキスレフが述べているように、結婚、未婚といった立場に関係なく、幸福な人生を送るためには、前向きな心構えを持ち、いろいろなネットワークの力を借りて、お金や健康、人間関係などをやりくりするすべを身に付ける必要があるということなのです。
けれども、それはそれで別の意味で難易度の高いゲームのようにも思えてきます。育ちや環境などに恵まれていない人ほど、コミュニケーション能力や時間的余裕といった無形の資産が求められるようになるからです。ひょっとすると、私たちは特定の誰かと一生添い遂げるかどうかなどよりも、幸福になれる心理的なスキルの方が極めて重要となる時代の入り口にいるのかもしれません。
評論家、著述家 真鍋厚
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