安心の「国産EVバス」その心臓は中国製 「どこまで国産なのか問題」純国産なんてあり得ない!?
- 乗りものニュース |

日本のEVバスの始まりはBYD
大阪・関西万博で中国製造のEVバスの多くで不具合が発生したり、欧州では中国製のEVバスを他国から遠隔操作できるリスクが判明したりしています。そのたびに、「日本製が安心」という議論が起こりますが、筆者(井原雄人:早稲田大学スマート社会技術融合研究機構研究院客員准教授)は“中身”をよく見極める必要があるといいます。
「国産EVバス」といえるいすゞ「エルガEV」(乗りものニュース編集部撮影)
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国内の電気バスは、中国BYD社による2015年のプリンセスライン(当時は京都急行バス)に始まり、2023年までに149台が導入されてきました。当初は海外製の車両がほとんどであり、日本製は既存ディーゼルバスを電動化改造したものに限られていました。そして2024年には待望の国産電気バスであるエルガEVが発売され、導入台数は580台に達し、本格的な普及が始まったといえるでしょう。
一方で、導入台数が増えるにつれ、信頼性への懸念も指摘されています。六価クロムの使用問題(BYD)や、制動装置のリコール(EVモーターズ・ジャパン)などが記憶に新しいところです。これらの中では、車両が日本製なのか、海外製なのかという話が取りざたされています。
バス事業者にとって最優先事項は安心・安全な輸送です。そのため、海外製に比べて高額であっても信頼性の高い日本製を求める声は根強くあります。しかし、ここで問題になるのは、何をもって「日本製」とするかという定義です。
「国産牛」「和牛」問題と似たようなもの?
EVバスには、「どこで製造され、どこで組み立てられたか」という議論があります。これは、「国産牛」の「どこで生まれて、どこで育てられたか」という議論に似ています。
国産牛とは、実は純粋に日本で生まれ育った牛のことだけを指すのではなく、日本国内での飼育期間が最も長い牛のことをいいます。つまり、海外で生まれた牛でも、日本国内で飼育した期間の方が長ければ国産牛となるのです。一方で、日本の在来種である黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種で、かつ日本国内において生育された牛は「和牛」と呼ばれます。この「和牛」の方が、一般的にイメージする「国産」に近いのではないでしょうか。
日本人が設計し、日本製の部品を使用し、国内の工場で製造し、日本で販売する――これは確かに日本製と呼べるでしょう。しかし、乗用車は自動車メーカーが一貫して製造するのとは異なり、バス車両の製造は「シャーシメーカー」が走行するための土台となる駆動部分を製造し、「ボディメーカー」がその上に車体部分を載せることで一台のバスとして製造します。電動化に関わるモーター、インバーター、バッテリーなどは駆動部分にあたります。
心臓部「バッテリー」はどこ製か?
エルガEVのように、シャーシもボディも国内の会社であれば日本製と理解できます。BYDのように、製造は海外で行われ、日本法人が販売したとしても海外製と認識されれば、日本製といわれることはないでしょう。逆に、EVモーターズ・ジャパンの車両のように海外でボディまで仕立てられた車両を輸入して、国内の会社が販売したものを日本製と呼ぶには違和感があります。
エルガEVを製造するジェイ・バス宇都宮工場がエリアの関東自動車は、エルガEVを「メイドイン宇都宮」とアピール(乗りものニュース編集部撮影)
さらに、シャーシの中を細かく見るとモーター、インバーター、バッテリーなどの電動化に関わる主要部品が、どこで製造されたものかも考える必要が出てきます。
前述で日本製としたエルガEVに搭載されているバッテリーはLGエナジーソリューション(韓国)による海外製となります。逆に、アルファバス(江蘇常隆客車有限公司)の車両にはAECS社による日本製のバッテリーが使われているという事例もあります。
信頼性を求めて日本製を求めるのであれば、電気バスの心臓部となるバッテリーこそ日本製を求めるという考えもできるかもしれません。アルファバスの商品紹介でも真っ先に「高い信頼性の日本製バッテリーを採用」を謳っています。
さらに、故障時の原因を早急に把握するため、車両には各種センサー・ロガーが搭載されており、通信機器を通じてモニタリングする機能が付与されています。これに対して、2025年11月にノルウェーで走行する中国製の電気バスにおいて、外部からの制御により車両を停止させることができる脆弱性が指摘されました。
通信機器の安全性についても細かく考える必要があります。モニタリングをしてデータを蓄積することだけが目的なのか、OTA(Over the Air)によりシステムのアップデートや制御が可能なのかによって安全性は異なります。
また、モニタリングだけを行う場合でも通信を行うSIM(Subscriber Identity Module)が日本製なのか海外製なのか、データを蓄積するサーバーがどこに設置されているかも考慮が必要です。もちろん蓄積されたデータに対して誰がアクセスできるかが一番重要な要素となります。
「国産」か「海外製」かだけでは判断できない
サプライチェーンのグローバル化の進んだ現在では、電気バスに限らず全ての部品が日本製というのはほとんどありません。導入する車両がどこの部品を採用し、どこで製造されているかを正しく把握し、自社が求める基準に適合するかを判断していくことが求められます。
また、海外製だからといって必ずしも信頼性が低いわけではありません。特に、電気バスにおいては先行して導入の進んでいる海外での走行実績の方が多い車両もたくさんあります。海外で走行実績のある海外製車両と、国内での走行実績のない日本製車両のどちらの信頼性が高いかは慎重に見極める必要があるでしょう。
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