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自分の推し方が「愛」ではなく「政治」になっていた──最古参になった柴田勝家の苦悩

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自分の推し方が「愛」ではなく「政治」になっていた──最古参になった柴田勝家の苦悩
自分の推し方が「愛」ではなく「政治」になっていた──最古参になった柴田勝家の苦悩
柴田勝家、戦国メイドカフェで征夷大将軍になるイラスト/ノビルイラスト/ノビル

時代の変わり目

「今までお世話になりましたー、じゃあね、ばいばーい!」

 平成30年(2018年)の3月末、これまで戦国メイド喫茶を支えてくれていた徳川めるるちゃんが卒業した。式は楽しく愉快に行われたが、その直後から戦国メイド喫茶は変わっていった。続く5月になると、同じく長い間働いてくれていた豊臣めめちゃんも卒業。さらに店長も退職し、新店長がやってくることとなった。

 時代の変わり目であった。石山本願寺が信長公と和睦したことで、長きに渡る信長包囲網が終焉を迎えたようなものだ。事実、ワシの推しである織田きょうちゃんは店の最古参となり、人気と実力ともに織田一強の時代となったのである。

「今日は楽しかったよ。でも予定があって、本当にすまない」

 その年の春に開催された、織田きょうちゃんの三回目の周年イベントでの一幕だ。ワシは初めて、推しのイベントを途中で抜け出した。一年前のイベントでは織田軍の皆で盛り上がっていた。それが今年はどうだ。来てくれた客の数こそ満員御礼だったものの、その中で冷めていく自分がいたのだ。

 かくして、いたたまれなくなったワシはイベントを退席した。店の外で席が空くのを待っているお客さんもいるというから、こんな自分がいるよりは、と思った。そう思った瞬間、自分の推し方が「愛」ではなく「政治」になってしまったことにも気づいた。

 そう「政治」だったのである。がむしゃらに戦場を駆けて武功を立てる時代は終わったのだ。店で最も人気のメイドさんを推す客、それも最古参で筆頭家老とまで言われてしまっている。所詮は自惚れであったかもしれないが、自分のポジションを考えてしまうことが増えた。いかに自分を良く見せ、周囲からの人望を得られるか腐心する……、そんな日々であった。

 ただし、こんな「政治」をするようになったのにも理由がある。

「勝家さん! 知ってますか、きょうちゃんって○○さんと外で会ってたって!」

「この間、きょうちゃんが□□って人と……」

 この時期、きょうちゃんへの誹謗中傷がつとに増えていった。筆頭家老ということでワシへ注進する人が後を絶たなかった。店で一番の人気メイドであり、全く前科がないとは言えない相手だ。もとより秋葉原界隈は真偽問わずの誹謗中傷が起こりやすい場で、織田きょうというメイドは格好の餌食だったのだ。

「大丈夫大丈夫、問題ないっすよ!」

 そうした話が起きるたび、ワシは昔のように悪い噂を否定して回った。中には事実に近いものもあったが、問題が大きくならないよう根回しを続けた。もう何も考えずに推せる日は来ないのだろう、という実感があった。

 ところで、このエッセイで当の推しである織田きょうちゃんの描写が少なくなってきたように見えるはずだ。

 それもそのはずで、2018年の前半は半分以上が喧嘩を繰り返していたからだ。先に語ったように、週に一回はワシの元にきょうちゃんの悪評が届けられた。そのたびに彼女に真偽を確かめ、違うことがあれば噂を正していく作業を続けた。彼女にとっては、痛かったり痛くもなかったりする腹を探られ続ける日々で、ワシにとっては次々と湧いて出る悪評を処理する日々だ。すれ違わないはずがない。

「かっちゃん、もう止めようよ。推してくれる織田軍の人たちさえ、私のことを信じてくれればいいから……」

「ああ、そうだ。そうだな……」

 そんなことを言われて仲直りしたこともある。それでも、悪評を放置すれば織田軍の心まで離れていく。彼女自身、それで今いる織田軍だけで細々と続けようとはしなかった。拡大路線は止まらず、以前に話したように古くからの織田軍は推しと話す機会を逃し続けた。

「いっそ卒業してくれれば、織田軍も彼女から解放されるのだろうか」

 その頃のワシは完全に本能寺の変を起こすかどうか悩んでいた。柴田勝家がメイド喫茶に行くことで、明智光秀の気持ちを理解してしまったのだ。

 当時、この辺のことを友人の作家である小川哲に話したら「金払って喧嘩しにいってんのヤベぇな」と言われた。ぐうの音も出ない。

 というわけで、2018年は推しとの喧嘩の日々だった。

取り返しがつかなくなる前に送り出したかった

 やがて憂鬱な夏は終わり、再び秋が来た。

 この頃になると、ワシは推しである織田きょうちゃんが早く卒業することだけを祈っていた。喧嘩など繰り返したくないから、取り返しがつかなくなる前に送り出したかった。まだワシに自我があるうちに、織田軍として死なせてもらいたかった。

 そんな祈りが通じたのだろうか、店では織田きょうちゃんが卒業予定であることが囁かれ始めた。まだ確定ではないが、巨大な織田軍が事前に準備するにも時間は必要だったから、小出しに情報が出されているのだ。

「いよいよ、か」

 しかし、ワシにとって憂鬱な日々は続いていた。この時期、きょうちゃんは悪評の渦中にあった。この件はワシ一人で対処できるようなものではなく、また問題が大きいために深く言及もできない。まぁ、犯罪とかではないから、そこは安心してもらいたい。とにかく大変なことがあり、きょうちゃんへの印象が最悪な状態だった、というだけだ。

 それでもワシは、平静さを装ってきょうちゃんの卒業式の準備をしようと思った。

「つばささん、卒業式どうしましょうか?」

 その日、ワシは戦国メイド喫茶で友人のつばささんと遭遇したので、二人して卒業式の打ち合わせをすることにした。

「どうしましょうねぇ、今までで一番の卒業式にしたいですよね」

 などと二人して店の外にある非常階段で話していると――。

「二人とも、戻ってきてー」

 と、話題の当人であるきょうちゃんが扉を開けて呼びかけてきた。他ならぬ彼女の卒業式について話し合っているのだが、そう言われては仕方ない。

「おー、わかったわかった。少ししたら戻るよ」

 そんな返答をし、とりあえず打ち合わせを続けた。しかし、数分と経たずに再びきょうちゃんが現れ「早く戻ってきて」と伝えてきた。

 その時点でワシはきょうちゃんにイヤな印象を抱いていた。その時、ちょうど店の中にはきょうちゃんを推すお客さんがいなかった。普段は織田軍を放置しているのに、いざ自分を推す人がいない時は頼ってくる。まるで使い古したアクセサリーだな、と思ってしまった。

「ねぇ、戻ってきてよ。店長も戻ってって言ってるよ」

 三度目になって、きょうちゃんは店長の名前を出してきた。それがワシには許せなかった。本当に店長がそう思っているなら本人が言うべきだと思ったし、そうでなくとも、きょうちゃんは他人の言葉を自分の意見のために使っていた。

「わかった、じゃあ、今日は帰る。帰って外で話せば問題ないだろ!」

「えっ、ちが……」

 この時、ワシは初めて彼女に声を荒らげた。怒りながら席へ戻り、伝票を放り投げて会計を頼んだ。その間、きょうちゃんはずっと怯えていたのかもしれない。

 きょうちゃんは戻ってくることなく、会計を持ってきたのは店長だった。冷静になったワシは彼に謝罪し、後でまた来て、きょうちゃんにも謝罪すると伝えた。

「申し訳ない」

 この直後、ワシは彼女に謝った。彼女もそれを許してくれて「前みたいに楽しく話そう」と言ってくれた。ワシはそれに笑顔を返す。しかし、内心では「もう仲直りはできないだろう」と思っていた。

 最後まで彼女を推していたい、その気持ちを失ってしまった。

もう一つの別れ

 ワシが推しの織田きょうちゃんに怒りをぶつけたのと同じ日、もう一つの別れも同時進行していた。

「ねぇ、かっちゃん……」

 頭を冷やし、再び店に戻ってきたワシにきょうちゃんが話しかけてきた。

「最近、のぶにゃんに会った?」

「いや、会ってないな」

 そう、織田軍四天王最後の一人、のぶにゃんが最近は秋葉原に来ていないのだ。ただし、ワシ自身は彼の気持ちも理解していた。最近の彼は何か辛そうだった。ワシと一緒になって、推しについての悩みを話すことも増えていた。のぶにゃんもワシと同じく、最近は店で楽しくできていなかったのだ。

「ねぇ……、のぶにゃんに連絡して、それで伝えて。最近のイヤなこと、色々あるけど、今の私だけ見て、って……」

「ああ、じゃあ電話するよ」

 ワシは戦国メイド喫茶を出て、店の外でのぶにゃんに電話をした。

『お、勝家。どした?』

「無事だったか。いやな、きょうちゃんがのぶにゃん来ないのか、って」

『あー、それなぁ』

 言葉のニュアンスで全てを察した。それはワシ自身が幾度となく、推しとの喧嘩中に漏らした言葉と同じだったからだ。

『最近、辛いねん。色んなスキャンダルも終わらんし、行っても別に楽しかないし』

「まぁな、気持ちはわかるよ」

『織田さんに会いたい、って気持ちがな、もう湧かへんねん。今まで行ってたのも、織田軍がいたから楽しかっただけやし』

 のぶにゃんの気持ちは、ワシの気持ちと全く同じだった。

『なぁ、勝家。こないだオススメした『竜二』見た?』

 彼の言う『竜二』は80年代のヤクザ映画だ。早世した俳優である金子正次が脚本・主演を務めた作品で、主人公の竜二はヤクザだったが、妻と娘のためにカタギとなる。しかし、一般社会に馴染めず、苦悩の中、再びヤクザ社会に居場所を求めていくというストーリーだ。

 のぶにゃんもワシもヤクザ映画が好きだったから、彼に勧められてちょうど一週間ほど前にDVDを借りて見たところだった。

「はは、そうか。今のワシら、まるで『竜二』だな。カタギの世界で生きようとしたけど、足抜けできねぇんだ。織田軍でいた頃が一番楽しかったからな」

『ホンマやな! 色々あったけど、織田軍と会えたんは良かったわ』

 結局、ワシらが戦国メイド喫茶に来ていたのは織田軍が楽しかったからだ。他に辛いことがあっても、そこにしか自分の居場所がないと思ってしまっていた。でも、のぶにゃんは無事に抜け出せたらしい。

「なんか、最後にきょうちゃんに伝えることある?」

『せやなぁ、のぶにゃんは死んだ、って言うてくれや』

 ワシは苦笑する。メイド喫茶やアイドル界隈で推すのを止めた人間のことを「他界する」と表現する。のぶにゃんなりの大仰な別れの言葉だった。かくして卒業式を前に、あれほど熱狂的に応援していた初期の織田軍は誰もいなくなってしまった。

 そしてワシは店に戻った。その日はたまたま、近くの席に猫さんとたくみんがいた。二人とも昔からの友人だ。三人で馬鹿騒ぎをしていると、きょうちゃんが不安そうに近づいてきた。

「ねぇ、のぶにゃん何だって?」

「あー、死んだって」

「え?」

「死んだ、ってさ」

 きょうちゃんはオロオロしながら、何度もワシに事の次第を確かめてくる。でも、のぶにゃんの気持ちを詳細に語っても彼女が傷つくだけだ。かくいうワシ自身、彼女への気持ちを失ってしまっていた。

「なんで? どうして! 嘘だよね?」

「のぶにゃんは死んだ、それだけだ」

 ワシは何も言えない。でも、きょうちゃんはなおも食い下がっている。すると――。

「おう! のぶにゃんは死んだんだろ!」

 隣に座るたくみんがきょうちゃんを一喝した。ワンピースの名台詞みたいだった。

「だったら、それでいいじゃねぇか。アイツの気持ち考えてやれよ!」

 たくみんが主人公みたいなセリフをリアルで連発していた。完全に戦場で死んだ仲間を思っての言葉だ。きょうちゃんは呆然としながらも、たくみんの言葉に自分を納得させたようだった。

「悪いな、たくみん」

 その後、ワシら三人で戦国メイド喫茶を後にして別のメイド喫茶へ行った。イヤなことは全て忘れ、昔のように馬鹿をやって楽しく過ごすことができた。

「のぶにゃんの言った通り、色々あったけど友人と出会えたのが一番良かったことだ」

 ワシは一足早く秋葉原を去る。やがて来る推しの卒業式のことも、もう考えないようにしていた。

 次回連載第23回は10/13(木)公開予定です。

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