【賛否】「嫁」「カミさん」呼びにモヤモヤ…配偶者の呼び方、どうしてる? マナー的観点の“正解”はあるのか
- オトナンサー |
ネット上などで定期的に賛否が話題となる「配偶者の呼び方」問題。「『うちの嫁が〜』って言われるのほんと嫌」「『嫁』って時代錯誤だと思う」「『嫁』じゃなくて『妻』って言ってほしい」「『うちのカミさん』もなんか嫌じゃない?」など、特に女性側がモヤモヤを抱えているケースが多いようです。
夫、旦那、主人、妻、嫁、カミさん、奥さん……さまざまな呼称があり、それぞれに異なった印象をもちますが、マナー的観点から考えた場合に“正解”はあるのでしょうか。一般社団法人マナー&プロトコル・日本伝統文化普及協会の顧問を務め、テーブルマナーのスペシャリストとしてメディアをはじめ企業から個人まで研修や監修を行っている、ヒロコマナーグループ講師、エレガントマナーズジャパン主宰の半田典世さんに教えていただきました。
自分の配偶者に「嫁さん」→誤り
Q.「配偶者の呼び方」には賛否あるようですが、マナー的観点においての“正解”はあるのでしょうか。
半田さん「正解はありません。というのも、マナーはその状況において最も適した行動、言葉を選ぶことだからです。つまり今回のような場合、マナーとしての呼び方は一つではなく、各シチュエーション(TPO)によって使い分けることが望ましいのです。
例えば、ビジネスシーンや改まったシーンでは『夫』『妻』を用いることが適切で、プライベートやカジュアルなシーンでは少しくだけた『旦那・亭主』『女房』、目上の方には『主人、家内』などが一般的です。
また、近年はジェンダーにおける考え方から、男女の区分けがない『パートナー』という呼び方も増えつつあります」
Q.男性が配偶者を呼ぶ際の適切な呼び方とは。
半田さん「やはり、女性側が好まない呼び方は控えた方がよいでしょう。特に、夫婦間で、上下関係や主従関係をイメージさせる呼び方は考慮する必要があります。
具体的に、呼び方の種類と使い分けのポイントについて解説します」
【妻】
現在の最もスタンダードな呼び方です。プライベートから、ビジネスやフォーマルシーンまでマルチに使え、誰が相手でも失礼のない呼び方です。また、公的な文書にも用いられており、上下関係を感じさせない、対等な印象を与える呼び方でもあります。
【嫁】
「嫁」とは本来「息子のところに嫁いできた女性」を指す言葉で、男性側の両親である舅(しゅうと)、姑(しゅうとめ)が使う呼び方です。テレビ番組で、よくお笑い芸人の方が使っている印象を持っている人も多いかもしれません。
自分の配偶者に「嫁」「嫁さん」を使うことは誤りです。また、とてもくだけた呼び方なので、使う際には相手を選んで使う方がよいでしょう。
【奥さん】
「奥さん」「奥さま」は、他人の女性配偶者へ敬意を示した呼び方で、自分の配偶者への呼び方としては誤りになります。
元来、この「奥」には「屋敷の奥の方」という意味があり、昔、身分の高い公家や大名の正妻は、奥にいる偉い女性として「奥方」「奥方さま」と呼ばれていました。
これが時代とともに変化し、現在はニュアンスのやわらかい「奥さま」、少しくだけた「奥さん」と呼ぶようになりました。ただ、昨今は「奥」という言葉に違和感を覚えるという声もあるようです。
【家内(かない)】
「家内」は、自身と女性配偶者をへりくだった呼び方です。使う場面は限られ、目上の人や、あまり親しくない人に使うことが主です。
また、家内という言葉は「家の中」を示す言葉で、家の中での作業(家事)を担う人を示し、これは「男性が外で働き、女性は家で家事育児」という古い考え方を想起させます。女性がどんどん社会進出し、共働き世帯が増えた現代にはあまり適さない表現で、使われる機会も減ってきました。ただ、年配世代では今も親しみを持って使っている人もいます。
【女房】
もともとは、宮中で朝廷に仕える使用人女性の部屋を指す言葉でした。それが「使用人」「世話役」を指すようになり、女性配偶者の呼び方へとつながりました。
とてもくだけた表現で、ごく親しい友人間などで使われることが多いでしょう。また、この呼称も上下関係、主従関係の含みを感じさせるため、本人(配偶者)のいる前、目上の人、改まったシーンでの使用は控えた方がよいでしょう。
「旦那」は主従関係を表す言葉
Q.一方で、女性が配偶者を呼ぶ際の適切な呼び方は。
半田さん「やはり、女性も、男性が好まない表現は使わない方がよく、特にくだけた呼び方は自身の品位にも影響するので、使う場面・相手には注意しましょう。
同様に、女性が男性配偶者を呼ぶときの呼称の種類と、使い分けのポイントについて解説します」
【夫】
場面や相手を選ばない、最もスタンダードな呼び方です。「妻」の対義語であり、公的文書でも「夫」が使用されているので広範囲に使えます。ビジネスでもフォーマルシーンでも一番ふさわしいといわれている呼び方です。フラットな夫婦の関係性を示す表現としても現状、最適といえます。
【旦那】
親しい友人間やママ友同士の会話で使うのがよいでしょう。カジュアルでやや雑な印象を与えるため、フォーマルな場面や目上の人には使用することを控えます。現在は男性配偶者をくだけた表現で呼ぶときに使用されていますが、もともとは仏語で布施をする人、雇用主や顧客などお金を出してくれる人、檀家(だんか)という意味があり、家人や使用人が主人を敬うための敬称でした。
日本で、妻が配偶者(夫)のことを「旦那」と呼ぶのは、「働いて給料を家庭に持ってきてくれる」ということに由来しています。このように、主従関係を表す言葉であることから、昨今は使用を避ける人が増えています。
【主人】
プライベートなシーンや、親しい友人間で使われる呼び方です。丁寧な印象を与えるので、目上の人やご近所の方との会話にも使えます。
一方、主人とは「一家の主」という意味も含むため、家庭内や夫婦間での主従関係を連想させることもあります。そのため、あまり使いたくないという人もいます。シニア世代では比較的メジャーな呼び方ではありますが、場面や人によって使い分けた方がよいでしょう。
【亭主】
もともとは宿や茶店などの主を指す言葉で、その家の主、一家の長を示します。敬意を含んだ呼び方になるため、目上の人と話すときは使えません。自分の配偶者に使うのが一般的で、ごく親しい間柄で使います。ただ、こちらも主従関係を表すことから、使うことを避ける傾向にあります。
時代や相手に合わせた、適切な呼び方を
Q.ネット上などでは、特に女性側から「『嫁』と呼ばれるのが嫌」「『カミさん』も無理」といった声が聞かれます。夫婦間において、外などで配偶者のことを表現する際、双方が気を付けるとよいことは何でしょうか。
半田さん「いろいろとある夫婦(配偶者)の呼び方ですが、家族や周囲の人たちとの良好なコミュニケーションや信頼関係においても、とても大切です。
現代は男女平等の考えが浸透し、夫婦間においても上下関係、主従関係、さらには所有物的なニュアンスや所帯じみた呼び方に不快感を抱くという声も多くなりました。今でいう“マウントを取る”ような呼び方は避け、夫婦ともに相手を敬い、心地よい呼び方、適切な使い分けを心がけていたいですね。
最後に、相手(他人)の配偶者に対する呼び方のポイントをお伝えします。それは、会話をする相手に合わせて使い分けることです。
例えば、親しい友人が『うちの旦那がね…』と言えば『旦那さん』を使い、『うちの亭主がさ…』と言えば『ご亭主』を使う…といった具合です。目上の方や年配の方の配偶者に対しては、『ご主人さま』『旦那さま』『奥さま』という呼称が失礼のない呼び方になります。
ちなみに、配偶者のご両親、ご家族の前では『配偶者の名前+さん』が適切な呼び方です。
配偶者の呼び方はこれからも変化したり、新たな呼び方が誕生したりするでしょう。時代や相手に合わせて、常に適切な呼び方で円滑なコミュニケーションを育んでいけるとよいですね」
オトナンサー編集部
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