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燃費基準を“激甘”に大幅緩和 自動車メーカーは歓喜――虚構のような米政策の行く末は

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  • 乗りものニュース
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燃費基準の緩和で世界の潮流に“逆行”

 アメリカのドナルド・トランプ大統領(共和党)が率いる政権は2026年9月28日、乗用車やスポーツタイプ多目的車(SUV)の新車燃費基準を大幅に緩和すると発表しました。地球温暖化対策として燃費基準を厳しくする世界の潮流に逆行し、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量拡大にアクセルを踏むのはなぜなのでしょうか。

Large figure1 gallery5フォードのディーラーに展示されたSUV「ブロンコ」(大塚圭一郎撮影)

 そこには2026年11月の中間選挙を目前に控え、石油や天然ガスなどを「掘って掘って掘りまくれ」と訴える化石燃料が大好きなトランプ氏らしい理由が潜んでいました。

 新たな燃費基準は2022年モデルにさかのぼって適用し、2031年モデルまでを対象としました。2031年モデルで自動車メーカー各社に求める平均燃費はガソリン1ガロン当たり34.9マイル(1リットル当たり14.8km)とし、従来の1ガロン当たり50.4マイル(1リットル当たり21.4km)から大幅に後退させました。

 トランプ政権は燃費基準の緩和によって新車の平均価格が約1300ドル(1ドル=158円で20万5400円)下がり、今後5年間に国民の支出を計1380億ドル削減できるとの試算を掲げています。しかし、この主張には疑問の声が噴出しています。

 環境保護団体の自然資源防衛協議会(NRDC)は2031年モデルの燃費基準は「現在の新車が既に達成している燃費を下回る水準」という緩いレベルだと強調し、新たな燃費基準は「取り返しの付かない欠陥だ」と反発しています。

 新車価格が下がるとするトランプ政権の喧伝に対しても、基準緩和でガソリンを多く消費することによって「平均的なドライバーは購入したクルマの燃料費を1400ドル(1ドル=158円で22万1200円)多く支払うことになり、追加の燃料費は車両購入時の価格低減効果を数百ドル(数万円)上回る」との試算を公表しました。

 このように購入時の新車価格が下がっても、燃費性能の低下でガソリン代がかさんで出費がかさむ子供だましの策であることは、アメリカ政府自身が試算で明かしています。

 今回の燃費基準緩和により、2050年までの燃料消費量が約1000億ガロン(約3785億リットル)増加し、燃料費が1850億ドル(1ドル=158円で29兆2300億円)増えると見込んでいるのです。

 しかも、CO2排出量が約5%増加すると試算しています。国連環境計画(UNEP)によると、2022年のアメリカのCO2排出量は世界全体の13.6%を占めており、中国(31.4%)に次いで2番目となっています。CO2排出量を低減しないトランプ政権の姿勢は、地球温暖化に苦しむ世界に背を向けています。

中間選挙をにらんだアピール?

 NRDCが「取り返しの付かない欠陥だ」と評したように、脱炭素化に背を向けた燃費基準緩和は“改悪”に他なりません。にもかかわらず、強行した主な理由が三つあります。

Large figure2 gallery6アメリカ東部メリーランド州に駐車中の、GMの高級車ブランド「キャデラック」の旧型乗用車「エルドラド」(大塚圭一郎撮影)

 一つ目は、トランプ氏が地球温暖化を「史上最大の詐欺だ」という陰謀論であると主張しており、温室効果ガスを排出する化石燃料の使用が大好きなためです。トランプ氏はそもそも地球温暖化懐疑論者のため、脱炭素化のアクセルを踏む理由がありません。

 二つ目の理由は11月の中間選挙をにらんだ人気取りで、国民にとって切実なガソリン価格が急騰するなど物価高が深刻化している中で、目先の新車価格を安く見せようとする思惑があるためです。トランプ政権は燃費基準緩和に伴って新車価格が下がると主張し、それを自分の功績だとアピールしました。

 現在は議会下院、上院の両方で共和党が多数派を占めていますが、中間選挙ではインフレへの反発から「民主党が中間選挙で下院の過半数を奪還する公算が大きく、上院も多数派になる可能性が高まっている」(アメリカの政治アナリスト)とされます。

 不人気の主因の一つに、物価高に手をこまねいて国民生活を苦しめていることがあります。トランプ氏は2024年11月の大統領選で物価高をジョー・バイデン前大統領(民主党)の責任だと決めつけ、「私ならば初日にインフレを終わらせる」とうそぶきました。

 ところが、2026年9月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は3.7%と、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)が目標とする2%を大きく上回ったままです。

 この物価高に拍車をかけたのは、他でもないトランプ氏自身です。2月末にイスラエルとともにイランを攻撃したのを契機に中東紛争が勃発し、ホルムズ海峡が事実上封鎖したことでエネルギー価格高騰を招きました。

 アメリカ人の有権者からは「インフレを終わらせると言い張ったトランプ氏は大嘘つきだ」との反発が高まっており、かつてのバイデン氏への非難が“大ブーメラン”となって反トランプ旋風が吹き荒れています。

「アメリカ人に望んでもいない車を強制」したとEV政策批判

 残る一つの理由が、トランプ氏と敵対してきた民主党のバイデン氏が大統領時代に成し遂げた脱炭素化のレガシー(遺産)をつぶすためです。「アメリカを再び偉大に(MAGA)」のスローガンを掲げるトランプ氏に心酔する岩盤支持層は、トランプ氏の根拠もない民主党攻撃が“大好物”です。

Large figure3 gallery7アメリカ・ハワイ州ホノルルの路上。人気のある日本メーカーや欧州メーカーのクルマが目立つ(大塚圭一郎撮影)

 従来の燃費基準は、脱炭素化に熱心だったバイデン氏が厳格化したものでした。厳しい燃費基準を達成するには電気自動車(EV)を含めたエコカーの導入促進が必要となるため、EVの購入補助金も導入していました。

 トランプ氏は2026年9月30日をもってEVの購入補助金を打ち切りました。さらに燃費基準緩和により、自動車メーカーが内燃機関車でもやすやすとクリアできる環境を整えました。

 燃費基準緩和についてトランプ氏は「アメリカの自動車労働者と自動車購入者にとって素晴らしい日だ」と言い張るとともに、次のようにコメントしました。

「私は、寝ぼけたジョー・バイデン(前大統領)とピート・ブティジェッジ(前運輸長官)の馬鹿げたEV義務化を終わらせる新しい燃費基準を承認した。民主党は、偉大な自動車メーカーに数十億ドルの損失を与え、アメリカ人に望んでもいない車を強制し、製造されなかった充電器に数十億ドルを浪費した。この新しい基準は、アメリカでの自動車製造から無駄をなくす」

 この動きにもろ手を挙げて歓迎したのが、アメリカの大手自動車メーカー、フォード・モーターとゼネラル・モーターズ(GM)です。両社はEVのコスト競争力が劣り、「EVを造るたびに多額の赤字を垂れ流してきた」(自動車アナリスト)だけに、自動車業界団体を通じて政界に燃費基準緩和を働きかけていました。

 フォードのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は「(ショーン・)ダフィー運輸長官とトランプ政権が規制を市場の実情に合致させるために尽力してくださっていることに感謝いたします」との声明を出し、GMも「燃費基準を市場の実情により合致させようとする意図を支持します」とのコメントを出しました。

品質評価トップ10の半分が日本ブランド

 しかしながら、フォードやGMは自国市場でぬるま湯の燃費基準にあぐらをかけるほど安泰ではありません。地盤のアメリカでも品質の評価が振るわないことは、消費者の購買行動に大きな影響を与えている情報誌「コンシューマー・レポート」が2025年12月に発表した2026年版自動車ブランド評価で浮き彫りになっています。トップ10に入ったのはフォードが7位の高級車ブランド「リンカーン」だけ、GMはゼロでした。

 日本勢が首位にスバル、4位ホンダ、5位トヨタ、6位にトヨタの高級車ブランド「レクサス」、9位にホンダの高級車ブランド「アキュラ」とトップ10の半分を占めたのは対照的です。

 日本で売れ行きが鳴かず飛ばずだったフォードは2016年に撤退し、GMの高級車ブランド「キャデラック」の2025年度乗用車登録台数は428台、「シボレー」ブランドは352台という体たらくです。トランプ氏は日本の自動車貿易が「不公平だ」と決めつけて日本からの輸入車に追加関税を課しましたが、日本は輸入車に関税をかけておらず「使い勝手の悪いアメ車の自業自得」(自動車ディーラー関係者)というのが実情です。

 前出の自然資源防衛協議会(NRDC)は、燃費基準緩和が「アメリカの発展を後退させる」と警告しました。化石燃料にしがみつくトランプ氏が率いるアメリカと、その力を利用して目先のハードルを下げることに成功したフォードとGMは、将来、脱炭素化の潮流にあらがえず高い代償を払うことになりかねません。

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