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警戒監視の空白なくせ! 絶海の孤島に配備される“巨大な筒”とは?「ミサイルじゃないからね」

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日本の警戒監視の課題と離れ小島への「自走式レーダーサイト」展開

 2025年12月現在、中国と日本の間で問題となっている戦闘機のレーダー照射問題ですが、該当する中国側の戦闘機が飛び立ったのは、空母「遼寧」でした。

Large figure1 gallery17航空自衛隊第2移動警戒隊のJ/TPS-102Aの空中線装置。中央の円筒状のものがレーダー部分。写真は立てている途中で、最終的には垂直まで上がる。円筒状だが回らない(柘植優介撮影)。

「遼寧」は2025年12月6日(土)、沖縄本島と宮古島の間を東進した後、北側へ変針。その後も沖縄本島や奄美諸島と大東諸島の間を北東進し、北大東島の沖で東進するなど、日本の南方海上をS字を描くように航行しています。

 実は、この海域には航空自衛隊のレーダーサイトがありません。レーダーサイトは北海道から沖縄県まで列島各地に配置されていますが、太平洋側はこれまで日本にとって「裏庭」と言えるエリアだったため、警戒管制レーダーや地上電波測定装置などが設置されておらず、警戒監視・情報収集の空白地域となっていました。

 しかし、昨今では前述したような中国空母の外洋進出に加え、ロシアの戦略爆撃機や電子偵察機が太平洋海域まで進出してくるケースが非常に増えています。

 このような動きに対処するため、防衛省は沖縄本島から東へ約360kmの太平洋上に位置する北大東島に、移動式警戒レーダーを展開させようと動いています。

 これらの離島に配置される移動式警戒レーダーとは、どのような装備なのでしょうか。以前、取材したので改めて取り上げてみましょう。

 取材したのは、埼玉県の航空自衛隊入間基地に所在する第2移動警戒隊です。航空自衛隊は全国を北部、中部、西部、南西の4つの航空方面隊に分け、それぞれにレーダーサイトや防空指令所(DC)の管理・運営を担う「航空警戒管制団」を置いています。この管制団の隷下にあるのが、移動式警戒レーダーを運用する専門部隊「移動警戒隊」です。

 部隊番号は北から順に振られており、北部航空方面隊には第1移動警戒隊が、西部航空方面隊には第3移動警戒隊が、そして南西航空方面隊には第4移動警戒隊がそれぞれ編成されています。

J/TPS-102Aが実現する「回転しない索敵」

 第2移動警戒隊の主要装備は「J/TPS-102A」という移動式3次元レーダー装置です。システムはアンテナ部である「空中線装置」、航跡データなどを処理する「監視処理装置」、そして電力を供給する「発電機」の3つで構成されています。

Large figure2 gallery12第2移動警戒隊の自活車(柘植優介撮影)。

 空中線装置は、F-2戦闘機の機首レーダーなどにも採用されているフェーズド・アレイ方式のレーダーシステムを搭載しているのが特徴です。周囲に配置されたアンテナ素子から照射される電子ビームの走査方向を変えることで、アンテナを回転させなくとも全周索敵が可能です。

 第2移動警戒隊では、このJ/TPS-102Aをはじめとした各種車両を必要な場所に展開させ、地上から既存のレーダーサイトのバックアップを行います。なお、このバックアップは有事に限らず、常日頃から行われています。

 なぜなら、全国のレーダーサイトは定期的にメンテナンスが行われており、レーダーを停止させる際には、移動警戒隊のJ/TPS-102Aなどが展開して警戒網の穴をカバーする必要があるからです。

 ほかにも、レーダーシステムの更新やレドームの建て替え時にも派遣されます。長期間の展開に備え、移動警戒隊には水や電気、通信インフラがない場所でも自活できるよう、「自活車」と呼ばれる車両も配備されています。内部は寝台列車のようなつくりで、ベッド計6床のほか、シャワールームやトイレ、流し、冷蔵庫、エアコンなどを備えています。

北大東島だけでなく小笠原・父島にも計画

 また、移動警戒隊には、市販のトヨタ製SUV「ランドクルーザー」をベースにした「先導車」もあります。これは文字どおり、J/TPS-102Aなどの展開車両を先導するために用いられるクルマで、日常の連絡業務や人員輸送にも多用されます。

Large figure3 gallery18第2移動警戒隊が装備するJ/TPS-102Aの監視処理装置(左奥)と発電機(右手前)。空中線装置と合わせ、この3台で1セット(柘植優介撮影)。

 ルーフ上部には衛星通信装置が装備されており、携帯電話や既存の無線が通じない場所においても通信を確保できるようになっています。

 防衛省では、すでに2025(令和7)年度補正予算で、北大東島への移動式警戒管制レーダー等の受入施設整備費用として約160億円を計上したほか、2026(令和8)年度予算の概算要求にも同じく受入施設整備費用として約144億円を盛り込んでいます。

 計画では、3年後の2028(令和10)年度に完成予定で、防衛省では、島の南北2か所、計8ヘクタールを取得し、業務並びに居住用の隊舎などを設置。約30名の隊員とともに移動式警戒レーダーや戦術データ交換システム、地上電波測定装置などを展開させるとしています。

 なお、防衛省は、この北大東島以外にも、太平洋側の「警戒監視の空白域」を埋めるため、小笠原諸島の父島にも移動警戒隊を配置する計画です。

 このような情勢を鑑みるに、「自走式レーダーサイト部隊」と形容できる移動警戒隊の重要性は、今後より一層増すことは間違いなさそうです。

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