1984年に日本上陸「エリマキトカゲ」 大ブームで便乗商品が氾濫、あなたは持ってた?
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エリマキトカゲを覚えていますか?
さまざまなものが常に流行を繰り返している東京の街――考えてみれば「なぜこんなものが?」というブームはたくさんありました。
中でも不思議だったのは、エリマキトカゲのブームです。エリマキトカゲはオーストラリア北部やパプアニューギニアに生息し、特にオーストラリアでは2セント銅貨に描かれていたこともあるメジャーな生き物です。
ちなみにエリマキトカゲのシンボルである襟巻き(エリマキ)のような部分は、危険を感じたときに相手を威嚇するために使うものです。というわけで、確かに珍しい生き物なのですがなぜあんなにはやったのでしょうか。
人気のきっかけはテレビ番組から
そのきっかけは、1984(昭和59)年にTBS系列で放送されていた『わくわく動物ランド』で取り上げられたことです。
このとき、番組特製のエリマキトカゲのぬいぐるみを6個プレゼントすると番組内で告知したところ、なんと70万通もの応募が殺到したといいます。
その直後、三菱自動車(港区芝浦)のミラージュのCMにエリマキトカゲが登場すると、あちこちでエリマキトカゲを見たい、知りたいという声が急増します。
しかし当時、日本にエリマキトカゲを飼育する動物園はありませんでした。そのため、あちこちから動物写真家に「エリマキトカゲの写真が欲しい」という電話が殺到したといいます(『週刊読売』1984年6月17日号)。
この時点ですでに、「エリマキトカゲであれば何でも売れる」という熱狂が生まれていたのです。なお熱狂が注目され始めたのは、この年の3月頃のことでした。
エリマキトカゲを渇望する人々を見てすぐに動いたのは、玩具業界でした。5月31日から開催された「’84東京おもちゃショー」には100種類を超えるエリマキトカゲの商品が並びました。ゴム製人形、ぬいぐるみ、ジグソーパズル、手押し車、タオルや襟巻きなど、それはバラエティー豊かでした。
ジグソーパズルに至ってはエリマキトカゲの写真をそのまま使ったものでしたが、会期中の2日間で12万個の注文を受ける大ヒット商品になりました(『週刊現代』1984年6月30日号)。
一般的に玩具業界では新商品の開発に約半年かかると言われていましたが、夏のピークまでが勝負となると考えたメーカー各社は商品を急増。今考えれば、ある意味「粗製乱造」ですが、それでも消費者たちはエリマキトカゲの商品を欲したのです。
レコードもビデオも発売された
その後、6月頃からついに本物のエリマキトカゲの上陸が始まると、さらにブームは過熱します。
まず生まれたのが、レコード『エリマキトカゲの真実』です。歌うのはかまやつひろし。ちなみにB面にはコピーライターの糸井重里が作詞した『襟巻きと影』が収録されています。
ちなみにレコードが生まれたのは、かまやつが井上陽水と酒を飲んでいるときに「あんたハチュー類に似ているから、エリマキトカゲの歌でも歌うと当たるんじゃない」と言われたからだとか(『週刊明星』1984年7月12日号)。
さらにポニー(現・ポニーキャニオン)からは『エリマキトカゲ物語』というタイトルのビデオも発売されました。
15分間たっぷりとエリマキトカゲを見ることができて、値段は3900円。内容に物語があるわけでなく、エリマキトカゲが動いている映像が15分続くだけ。そんなものでも売れたのです。
つくば万博からも展示オファーが
こうしていよいよ夏休みが始まると、輸入されたエリマキトカゲの巡業が各地のデパートやスーパーで始まります。ところが日本に持ち込まれたエリマキトカゲの数は、正規に輸入申請が行われたものよりずっと多かったのです。
正規の輸入業者には1日100万円で貸してほしいという依頼が来たり、「日本人の密猟グループが観光ビザでニューギニア島へ入り、エリマキトカゲ16匹を船積みした」といったような情報も流れたりしていました(『朝日新聞』1984年8月7日付朝刊)。
このブームの中で、1985年に開催が迫っていたつくば万博でエリマキトカゲの誘致案が急浮上します。なぜかと言うと、茨城県と国際科学技術博覧会協会はコアラの展示をオーストラリア政府に求めていましたが、「万博はお祭り的性格が強く見せ物同然になる」と断られていたからです。
1970(昭和45)年の大阪万博では月の石、1981年の神戸ポートピア博ではパンダという目玉があったように、とにかく珍しいもので客を集めたい主催者側は、コアラがダメならと、エリマキトカゲの誘致を図ったのです。
この見せ物計画に激怒したのが、科学技術庁(現・文部科学省)でした。
当時の岩動道行(いするぎ みちゆき)科学技術庁長官は記者会見で、「動物愛護の精神に反する。そんなことで客引きするとはとんでもない。あんなかわいそうなことに私は反対。アイデアとして何か考えたいということだろうが、そんな無理する必要があるか」と怒りを隠さないコメントをしています(『朝日新聞』1984年9月10日付夕刊)。
こうしてブームは、夏が終わると予想通り急速に冷めていきました。なお、日本国内で現在エリマキトカゲを飼育している動物園はほとんどありません。
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