「政治駅」は誤解だった!? 新幹線「岐阜羽島」に線路が6本もある理由と、動き出した「LRT構想」
- 乗りものニュース |

県都と新幹線駅を結ぶ「LRT構想」
岐阜県唯一の新幹線駅、岐阜羽島駅。かつて「政治駅」と揶揄され、「田んぼの中の駅」というイメージを持たれがちでしたが、今、大きな転換点を迎えようとしています。県都・岐阜市と岐阜羽島駅を結ぶ新たな公共交通システムの構想が持ち上がっているのです。なぜ今、新交通なのでしょうか。その背景には、駅が誕生した経緯と、60年あまりの歴史が関係していました。
JR岐阜羽島駅(安藤昌季撮影)
2025年、岐阜県の江崎禎英知事が、県都岐阜を中心とする新たな公共交通システムの構想を打ち出しました。示されたイメージは、「岐阜羽島駅~岐阜県庁~岐阜駅」などの軸で、総延長は20km程度を想定しています。
交通システムとしては次世代型路面電車であるLRTが有力視されていますが、県はモノレールや自動運転バスなども含めて検討しているとしています。江崎知事が岐阜羽島駅を重視する理由の一つは、インバウンド需要です。駅周辺に宿泊する外国人観光客が新幹線で東京や京都へ向かう一方、岐阜市内には訪れていない実態があり、県庁や中心市街地への動線を作りたいという考えです。
この構想は具体的に動き出しており、2026年3月には専門家らによる検討会が発足。8月に中間報告が公表され、9月からは作業部会でさらに詳細な検討に入っています。
そもそも、なぜ岐阜羽島駅は県都・岐阜市から離れた場所に建設されたのでしょうか。駅は「大物政治家・大野伴睦が政治力で田んぼの中に造らせた」といわれ、「政治駅」として有名になりました。駅前には大野夫妻の像も立っています。
しかし、これはかなり単純化された話です。東海道新幹線は元々、名古屋から鈴鹿山脈を長大トンネルで抜けて京都へ至る直線的なルートが構想されていました。しかし、東京オリンピックまでの開業が至上命題だったため、時間のかかるトンネル建設は断念され、現行ルートが採用されたのです。
このルートは途中、関ケ原の豪雪地帯を通過します。そのため、除雪車両の待機や折り返しができる拠点を名古屋~米原間に設ける必要がありました。そこで白羽の矢が立ったのが、広大な鉄道用地を確保しやすく、立ち退きも比較的少ない羽島だったのです。実際、岐阜羽島駅は通常の中間駅より線路が多い6線規模で造られました。
JR東海の初代社長である須田寬氏も、岐阜新聞の取材に対し「国鉄は当初から羽島を運行上の候補地として考えていた」と証言しています。むしろ大野氏は「新幹線は国家的な問題」として、市街地に近いルートを求める地元を抑える側に回ったとされています。駅名に「岐阜」を入れることには関与したものの、「羽島に駅をねじ込んだ」というのは史実ではないようです。
鉄道アクセスは「乗り換え必須で毎時2本」
とはいえ、岐阜羽島駅の立地には代償もありました。県都から離れているうえ、1964(昭和39)年の開業時に接続する在来線がなかったのです。これを補うため名鉄羽島線が計画されましたが、実際に開業したのは新幹線開業から18年後の1982(昭和57)年でした。
2026年10月現在、隣接する名鉄新羽島駅から岐阜市中心部の名鉄岐阜駅へは、笠松駅での乗り換えが必須で、所要時間は約30~40分かかります。さらに2026年3月のダイヤ改正で、昼間は毎時2本(30分間隔)に削減され、全列車がワンマン運転となりました。「岐阜県の新幹線玄関口」としては、やや寂しい状況です。
それでも、岐阜羽島駅は決して「失敗駅」ではありません。クルマ利用との相性が良く、周辺には比較的安価な駐車場が充実し、名神高速の岐阜羽島ICも至近です。羽島市では宅地化が進み、インバウンドの宿泊需要も増加。駅の利用者もコロナ禍から回復し、2024年度の新幹線乗車人数は年間約108万人(1日平均2964人)に上ります。
県のLRT構想に対し、岐阜市側は慎重な姿勢を見せています。岐阜市では2005(平成17)年に名鉄岐阜市内線などの路面電車が廃止された経緯があり、LRTの導入は「まちづくり政策の大きな転換」になるからです。
市の柴橋正直市長は2026年8月時点で、2018(平成30)年から検討してきた自動運転バスに優位性を感じていると説明しています。固定されたレールや駅が不要で、柔軟なルート設定が可能であり、初期投資も抑えられる点が評価されています。
そのうえで、県の検討会でLRTを含む各方式をエビデンスに基づいて検証するとしています。市側はLRTの課題として、事業費や採算性、道路渋滞への影響、既存バスとの競合、さらには名鉄竹鼻・羽島線の利用客を奪う可能性を挙げています。
2026年8月の金曜午後、実際に岐阜羽島駅を訪れると、14時29分着の下り「ひかり643号」から30人ほどが下車しました。ホームは2面4線に通過線を加えた6線構造で、構内は広々としています。これは関ケ原の豪雪で列車が運行を見合わせた際に車両を留置するための設備です。
現在の駅周辺は、駅構内に商業施設があったりと発展している印象です。「のぞみ」が頻繁に通過する傍ら、先日は東海道新幹線初の夜間運行を行う「ルミエールエクスプレス」が長時間停車したことでも話題になりました。
「岐阜」の名を冠しながら県都と少し離れた場所に誕生した岐阜羽島駅。開業から62年を経て、その“距離”を埋める新たな交通システムが本格的に検討され始めました。もし岐阜羽島と岐阜駅を結ぶLRTが実現すれば、この駅の役割は開業以来、最も大きく変わることになるかもしれません。
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