「潜水艦貸して」が恥という次元の話ではない!? 南米の“資金難海軍”がそれでも海中戦力の優先を訴える理由とは
- 乗りものニュース |

ついに潜水艦購入に向けての予算が!
アルゼンチン政府が2026年9月中旬に公表した2027年度予算案で、海軍に関する大きな進展がありました。通常動力型潜水艦3隻の取得に向け、最大23億ドルの借り入れ枠が盛り込まれました。
アルゼンチンが購入候補としているスコルペヌ級はチリやブラジル海軍も使用している(画像:ブラジル海軍)
以前からアルゼンチン海軍は、潜水艦戦力の再建を計画していました。アルゼンチン海軍はもともと、1984年に就役したサンタクルス級潜水艦2隻を保有していましたが、同級の「サンフアン」が2017年に事故で沈没。残る「サンタクルス」についても改修計画が中止され、現在まで10年近くにわたって、稼働可能な潜水艦がゼロの状態となっています。
そのため、アルゼンチン海軍では潜水艦乗組員の技能を維持するため、ペルー海軍の潜水艦を利用した訓練を行っているほどです。
この状態を改善すべく、2024年にはフランスのナバル・グループと、フランスとスペインが共同開発したスコルペヌ級潜水艦の取得に関する意向書を締結。2025年11月には、ハビエル・ミレイ大統領がスコルペヌ級潜水艦3隻の調達を進める方針を正式に発表しています。
ただ、仮に新造艦ではなく中古艦を選択したとしても、同国の国防予算だけで一括調達するのは難しいとみられていました。実際、2025年には資金調達などの問題から、ナバル・グループとの交渉が停滞しているとの報道も現地で出ていました。
しかし今回、潜水艦取得に向けた具体的な借り入れ枠が政府の予算案に盛り込まれたことで、これまでの検討・交渉段階から大きく前進することになります。現状では、交渉中のナバル・グループからスコルペヌ級を調達する案が有力視されていますが、交渉の停滞などもあり、ティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)が209NG型潜水艦3隻を提案する案も、依然として選択肢として残っているようです。さらに、韓国のHD現代重工がアルゼンチン海軍にHDS-1500を売り込んでいるとの報道もあります。
潜水艦がないのはかなり重大な問題
2026年8月、アルゼンチンの防衛系メディア「defensa.com Argentina」が、アルゼンチン海軍参謀総長のフアン・カルロス・ロマイ氏にインタビューした際、同氏は潜水艦能力の回復を「第一の優先事項」と位置付け、「アルゼンチン海軍にとって極めて重要かつ火急の課題」であるとの認識を示しました。9年間にわたって潜水艦能力を失っている現状について、海軍トップ自らが警鐘を鳴らしている形です。
行方不明となった潜水艦「サンフアン」。この行方不明事件以降、アルゼンチン海軍では潜水艦を運用していない(画像:アルゼンチン海軍)
アルゼンチンを取り巻く海洋安全保障環境にも、近年変化がみられます。海洋資源へのアクセスが技術の進歩によって容易になる一方、南大西洋では資源開発などをめぐる地政学的な競争も意識されるようになっています。将来的には、マルビナス北方海盆での石油開発をめぐる問題など、海洋を舞台とした競争がさらに広がる可能性もあります。
また、アルゼンチンは領海・EEZだけで約267.8万平方kmという広大な海域を有しています。さらに、マゼラン海峡やホーン岬など、大西洋と太平洋を結ぶ重要な航路に近接していることから、海洋資源や権益を防衛する意味でも、「海洋国家として最低限必要な軍事能力を再構築しなければならない」と海軍はここ数年訴えてきました。
こうした潜水艦能力の必要性については政府も認識していたものの、政治判断や予算面の問題から、具体的な調達にはなかなか至りませんでした。
アルゼンチン海軍は1980年代には、南米有数の海軍戦力を有していました。しかし1982年、イギリスとの間でフォークランド紛争(アルゼンチンではマルビナス戦争)が発生し、アルゼンチンは敗北。その後は英国による武器禁輸や軍事関連品の輸出制限の影響を受けたことに加え、長期的な経済低迷も重なり、国防費は大幅に削減されました。
こうした状況は、2023年末にハビエル・ミレイ氏が大統領に就任したことで、見直しが進められることとなりました。それでも潜水艦については、主に資金面の問題から調達が難航していました。
今回、3隻の通常動力型潜水艦を取得するための最大23億ドルの借り入れ枠が予算案に盛り込まれたことで、アルゼンチン海軍の潜水艦戦力再建は、長年の構想から具体的な調達段階へと進み始めたことになります。今後は、ナバル・グループ、TKMS、韓国勢など複数の候補をめぐり、最終的な調達先と契約条件をどう決定するかが焦点となります。
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