親に寄生!?「パラサイト戦闘機」各国で企画倒れに終わった納得の理由 でもウクライナ再注目で陽の目見るか?
- 乗りものニュース |
ウクライナで自爆ドローンを搭載する無人機が登場しました。前線で切り離して使う様子はまさに「空中空母」といえるコンセプトですが、実は過去にも似たようなことは考えられたことがあります。
実は昔からあった「親子機」プラン
2024年11月、ウクライナ軍が自爆ドローンを6機搭載した「Dovbush(ドブブッシュ) T10」と呼ばれる無人機の映像を公開しました。
この機体は、一見すると遠隔地にドローンを運ぶためのものに思えますが、それだけでなく、地上や低空の監視が厳しいエリアなどで、親機である無人機に搭載した状態で高高度から侵入し、戦場上空で子機を切り離すことで、敵に探知されにくくするなどといった運用方法が考えられる模様です。飛行中に機体を切り離すということで、まるで創作物に登場する空中空母のようです。
旧ソ連が開発した親子航空機「ズヴェノー」(画像:サンディエゴ航空宇宙博物館)。
こうした戦場で子機を切り離すことを想定した航空機は、過去にも有人機で試みられたことがあります。旧ソ連(現ロシア)の開発した親子飛行機「ズヴェノー」です。
「ズヴェノー」は爆撃機のTB-1を母機にして、子機であるポリカルポフI-5戦闘機を翼などに2機から5機取り付けたものです。その外観が、まるで子機が親機に寄生しているようにも見えることから「パラサイト・ファイター(寄生戦闘機)」とも呼ばれます。
同機が開発された一番の目的は、爆撃時の護衛機の確保にあります。燃料搭載量の関係で航続距離が爆撃機よりも短くなる戦闘機は、爆撃機が遠方まで進出しようとした場合、最後まで護衛できないという欠点を抱えていました。
ただ護衛がなければ、爆撃機は敵機から集中攻撃を受けることになり、撃墜される確率は格段に高くなります。そうした問題を解決するため考え出されたのが「ズヴェノー」で、子機を搭載した状態で直接爆撃ポイントに到達することで、目標地点上空でも敵機の襲来に対応できるという目算でした。
同機は1931年から1937年までの間に複数のタイプが試験飛行し、独ソ戦が始まりしばらくした1941年7月頃に実戦にも投入されます。しかし、いざ運用してみると搭載した戦闘機が無駄な重りになり、かえって敵に狙われやすくなってしまうことが判明します。
この欠点はかなり致命的でした、1941年7月頃は独ソ戦の序盤で、ほとんどの戦場で航空優勢はドイツ側にありました。そうした制空権の取れていない場所での同機の運用は自殺行為にも等しく、結局数度使われるのみで以降「ズヴェノー」は実戦に投入されなくなります。
アメリカでもパラサイト・ファイターは試みられたが…
一方、第二次世界大戦後にアメリカでも旧ソ連と同じようなコンセプトで、親機であるB-36大型爆撃機にパラサイト・ファイターを搭載する親子機計画が立ち上がります。
やはり、このときのコンセプトも敵国上空まで進出した爆撃機に護衛の戦闘機がないのは危ないため、迎撃に上がってくる敵戦闘機から爆撃機を守るために、護衛機を搭載したB-36を随行させようというものでした。
ちなみに、この時アメリカが仮想敵国として考えていたのは、旧ソ連です。
B-36にパラサイト・ファイターとして取り付けられたF-84F(画像:アメリカ空軍)。
当初は、B-36専用のパラサイト・ファイターとして開発された小型ジェット戦闘機を爆弾倉の中に搭載しようというコンセプトで、XF-85「ゴブリン」が開発されます。しかし、小型で特異な形状が災いし、操作性が悪く、飛行試験の段階で母機への収容が困難ということが判明、計画中止となりました。
次に、B-36の胴体にF-84ジェット戦闘機を、従来のように吊り下げ方式で搭載する「FICON」と呼ばれる計画が立ち上がります。こちらに関しては1955年から1956年にかけて限定的に運用されましたが、搭載機が1機のみ、しかも母機との結合に熟練の技術が必要とされる関係上、維持が困難であるということで、やはり運用停止に至っています。
その後は、大陸間弾道ミサイルなど、ミサイル技術の発展や空中給油機の登場により、大型機に小型機を搭載する必要性を唱える人もいなくなり、こうしてその開発史は終焉を迎えました。
ただ、今回は有人と無人の違いこそありますが、80年以上の歳月を経て「ズヴェノー」のような親子機のコンセプトが復活したことになります。
なお、今回ウクライナで使用されている機体は護衛の戦闘機ではなく、帰還を期待しなくていい自爆ドローンであることが大きな違いです。さらに切り離す側の機体も無人機です。これならば、人的損失のリスクがない状態で、敵の車両や陣地などに今まで以上に、思わぬ場所から広範囲で攻撃を加えることができます。
もし「Dovbush T10」が今後、戦果を挙げるようになったなら、世界中でこうした親子機が開発される可能性もあるかもしれません。
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