「世界で最も醜い飛行機」はなぜ誕生? “ポンコツ機”魔改造→まるで「金属風船」な見た目に
- 乗りものニュース |
一部の人から「世界でもっとも醜い飛行機」とも称された、ある意味有名な輸送機「グッピー」。実は誕生するまでに、さまざまな紆余曲折を経ています。その経緯はどのようなものだったのでしょうか。
超頑張っちゃった「世界一醜い飛行機」生みの親
胴体上部が大きく膨らんだ特異な形状で、とある航空評論家から「世界でもっとも醜い飛行機」とも称された、ある意味有名な輸送機があります。それが1962年9月19日に初飛行した「グッピー」です。この機体は、どのようにして誕生したのでしょうか。
ポイント・マグー海軍航空基地で公開された「グッピー」(細谷泰正撮影)。
グッピーが「西海岸で製作した宇宙ロケットを、東海岸の発射場まで輸送する」ために生み出された――。というのは、航空ファンであれば有名なハナシです。実はそれ以前、ロケット輸送には船舶が使われていました。というのも、ロケットの胴体部分は燃料が入っていない空の状態では、大きなサイズの割に重量は軽かったからです。
「グッピー」のベース機となったのは、1950年代、大型旅客機として世界一周便などで活躍していたボーイング377「ストラトクルーザー」です。
しかし実のところ、この機はエンジンやプロペラの信頼性に問題があり、事故の多い機種でした。56機生産されたうちのなんと13機が全損事故で失われています。そうした理由もあり、ジェット旅客機が登場すると最初に置き換えられるモデルと目されていました。大手航空会社が手放した「ストラトクルーザー」がロサンゼルス郊外のバンナイズ空港にずらりと並んでいたというエピソードもあるほど、民間機としては“残念な機体”だったというわけです。
その光景を見た元空軍パイロットのジョン・コンロイ氏が思いついたのが。「ストラトクルーザー」の胴体を改造してロケット輸送機として運航するビジネスでした。
コンロイ氏は自宅を抵当に入れて資金調達し、アエロスペースライン社を設立。ストラトクルーザーを購入して地元バンナイズの航空機改造会社で最初の機体「プレグネント・グッピー(pregnant guppy)」を作ります。ちなみにpregnant guppyは妊娠した魚という意味で、かなり辛辣に機体形状を揶揄したネーミングであるといえるでしょう。
ところが、後年「グッピー」を採用することになる、NASA(アメリカ航空宇宙局)は当時航空機でロケットを輸送することはあまり乗り気ではなかったようです。採用されたのはコンロイ氏の熱心さに押された結果で、初飛行の翌年からはロケット輸送に使用が始まりました。
ちょうどその頃、アメリカでは宇宙計画が軌道に乗り始め、ロケット輸送機の増備の話が出ます。アエロスペースライン社では「ストラトクルーザー」だけでなく、その軍用輸送機型C-97も購入して改造を始めました。それらが後に「スーパー・グッピー」と呼ばれるモデルになります。なお、こちらはタービンエンジンを装備した「グッピー」の派生型です。
実は初期タイプと作り方が違った?
タービンエンジン付きの「グッピー」となった最初の機体はYC-97をベースにしたもので、当時ターボプロップエンジンとしては最強力だった7100馬力のプラット・アンド・ホイットニー製のT34-P7エンジンを4基搭載しました。この機体は1965年に初飛行しNASAとの契約のもとで運航され、1979年NASAが購入しています。これはNASAが所有した最初の「グッピー」となりました。ちなみに、この機体は2024年現在、アリゾナ州のピマ航空宇宙博物館で保存されています。
パン・アメリカン航空のボーイング377(画像:サンディエゴ航空宇宙博物館)。
これ以降の「グッピー」は主翼と尾翼はオリジナルの機体から流用しているものの、胴体は新しく作られるという製造方法に変わります。エンジンは「アリソン501」で、軍用バージョンだとT56という型式です。T56はC-130「ハーキュリーズ」輸送機やP-3「オライオン」対潜哨戒機などにも使われていて大量に製造されているため、部品の調達でも安心でしょう。このエンジンの選択はとても合理的といえます。
なお、最初に作られた「プレグネント・グッピー」は1979年に解体されてしまいますが、その胴体後部は「スーパー・グッピー」の4号機に使用され、エアバス社に納入されました。これが最後に製造された「グッピー」の機体です。
なお、「グッピー」は2024年現在もNASAで現役運用されており、このユニークな輸送機の歴史はまだ続きそうです。この機体を見る機会があれば、その生い立ちを思い出してみるのもよいのではないでしょうか。
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