「AIが作った曲」もお金になる? JASRACの新ルール&「人間がどこまで作ったか」の境界線、弁理士が解説
- オトナンサー |

日本音楽著作権協会(JASRAC)の公式サイトより
日本音楽著作権協会(JASRAC)が6月11日、AIに関する特設ページを設け、AIを使った作詞、作曲に関する作品のガイドラインを公表しました。このガイドラインでは「シンプルな指示に基づいてAIが自律的に生成した歌詞や楽曲のように、人間の創作的寄与が認められない作品は、JASRACでは管理しません」などと記載されています。
では、部分的にAIを使って作品を生み出した場合、著作権はどうなるのでしょうか。知的財産権に関する業務を行う弁理士の永沼よう子さんが解説します。
「著作権」と「管理問題」は別
AIに「曲を作って」と指示すれば、数秒から数十秒後には楽曲が完成する時代になりました。「Suno」や「Udio」といった生成AIサービスを使えば、作曲経験がなくてもオリジナル楽曲らしきものを作ることができます。
そんな中、JASRACが6月11日、生成AIと著作権に関する特設ページを公開しました。これを受け、「AIが作った曲もJASRAC登録できるのか?」という話題が注目を集めていますが、この問題は思った以上に複雑です。まずお伝えしたいのは、「著作権があること」と「JASRACが管理するかどうか」は別の話だということです。
JASRACは著作権を与えたり、生み出したりする団体ではありません。あくまで、著作権を持つ者から委託を受けて著作権を管理する団体です。そのため、「そもそも著作物なのか」という問題と、「依頼があり、その上で管理対象にするのか」という問題を分けて考える必要があります。
AIだけで作った曲はどうなる?
現在日本を含む主要国では、人間の創作的な関与がないAI生成物については、著作物として保護されないという考え方が有力です。
例えば、「明るめのJ-POPを作って」とだけ入力し、AIが出力した楽曲の場合など。このような簡単な指示だけで人間が創作したと言えるのかという点について、現状、多くの専門家は否定的です。
JASRACも同様の考え方を示しており「人間が簡易的に指示をしてAIが自律的に生成した歌詞や楽曲については著作物に該当しないため、そもそも管理を引き受けない」としているのです。
つまり、AIが勝手に作った曲はそもそもJASRAC登録できない(管理を引き受けない)可能性が高まるというわけです。この場合、人間の創作的寄与がない作品は、JASRACの管理対象外(登録不可)になります。
人が手を加えたらどうなる?
一方で、人間がAIを補助ツールとして利用したとなれば話が変わります。例えば、AIが出力したメロディーを人間が何度も練り直して採用したい箇所を選択、編曲後、歌詞を書いて構成を修正するケースです。この場合は人間の創作的寄与が認められる可能性があります。JASRACも、人間の創作的寄与がある作品については管理対象になり得るとしています。
要するに、AIを使ったかどうかというゼロヒャクの話ではなく、人間がどこまで創作に関与したかが見られているという点に注目すべきです。
例えば、これまでも作曲ソフトを使った楽曲が著作権を否定されなかったのと同じで、AIも道具として使われたのであれば著作権が認められる余地があります。しかしここで問題となるのは、AIがすべて自らの手で完成できてしまうという点です。
JASRACが苦労しているのは「線引き」
では、どこからが人間の創作で、どこからがAI任せなのでしょうか。ここが最大の問題です。AIを利用した作品は急増しているものの、作品だけ見て、あるいは聴いて「これはAIが80%作った」「いやいや、これは人間が70%作った」などと判定することは簡単ではありません。
そのためJASRACは、著作者が作品届を提出する際に「創作実態を確認しながら運用する」という考え方を打ち出しています。
どういうことかというと、AIを利用した作品を届け出る際に、著作者は「人間が創作的に寄与した著作物であること」を自ら保証しなければなりません。届け出内容に疑義がある場合、創作過程などに関する資料の提出を求められることがあります。
JASRACは、作品届の内容が正しいことを前提として管理を行いますが、AIが自律的に生成した作品であるにもかかわらず、著作者を詐称して届け出るなど、届出内容に虚偽があった場合は、保証義務違反となり、委託者に法的責任が生じることとなります。
このように、「創作時の実態をいかにして把握するか」ということに問題が移ってきているのです。
今回のJASRACによる問題提起。こういった動きは日本に限った話ではありません。アメリカでも「AIは誰の作品をもとに学習しているのか」という問題を巡り、音楽業界やAI企業、政府、裁判所を巻き込む大きな議論が続いています。
例えば2022年に公開されたAI画像を利用したコミック小説「Zarya of the Dawn」では、米国著作権局が完成作品だけでなく創作過程にも着目し、「どの部分を人間が創作し、どの部分をAIが生成したのか」の説明を求めました。
そして、人間が創作した部分には著作権を認める一方、AIが自律的に生成した部分については保護の対象外と判断しています。
また音楽業界では、レコード会社がAI作曲サービスを著作権侵害で提訴したほか、演奏家団体からも「学習利用に対する補償がない」との声が上がっています。
一方でAI企業側は「学習はフェアユース(公正利用)だ」「学習は作品を楽しむためではなく、新しい技術を作るための変形的利用として不可欠だ」と反論しており、議論は現在も続いています。
さらにフランス、ドイツ、スウェーデンなどの著作権管理団体も、AI学習への対価還元や権利者保護の仕組みづくりを進めています。
つまり、今回のJASRACの問題提起は決して驚くようなものではなく、世界中で議論されているテーマなのです。
本当に大きな変化はここから始まる?
今回のJASRACの発表から見えること。それはAIを利用した楽曲がすでに大量に世に出ている中、どのような作品なら管理対象にすべきなのかについての指針を策定した段階であるということです。
かつてはパソコンを使用して音楽を作成、編集する「DTM」や、歌声合成ソフト「ボーカロイド」が登場し、今度は生成AIが登場しました。音楽制作の道具は変わり続けています。
しかし、著作権制度が守ろうとしているのは道具ではなく、あくまで人間による創作です。AIがどれほど進化して人間の手が不要となっても、最後に確認すべきなのは「その作品に人間の創作的関与があるのか」という点なのかもしれません。
さらに日本では、生成AIを巡る議論の背景として著作権法30条の4の存在があります。同条は、著作物を「鑑賞するため」ではなく情報解析等の目的で利用する場合、一定の条件のもとで著作権者の許諾を不要とする規定です。生成AI開発会社は大量の文章、画像、音楽を学習させる必要があると主張しており、現在そういった行為が30条の4によって適法と解釈されることがあります。
しかしJASRACは、自分の作品がAI学習に利用されているかどうかを知ることも難しく、「学習に使わないでほしい」と意思表示する機会すら十分に確保されていないと問題提起し、このままでは創造のサイクルが壊れると警鐘を鳴らしています。
古来より、音楽は人間の創作によって発展してきました。一方で、生成AIはこれまでにないスピードで音楽制作のあり方を変えようとしています。
今回のJASRACの問題提起は、その変化に対し、どのようなルールが必要なのかを考える時期に差し掛かっていることを実感させます。
オトナンサー編集部
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