「無責任な若者を量産」と批判も…「退職代行」サービスが時代に選ばれる“必然的理由”
- オトナンサー |

近年、退職を希望する人に代わって弁護士や代行業者が勤務先に退職の意思を伝える、いわゆる退職代行サービスの利用者が増えています。そんな中、退職代行サービス「退職代行モームリ」(以下、モームリ)の運営会社が、「退職代行」の仕事を違法に弁護士にあっせんし、紹介料を受け取った疑いがあるとして、警視庁が10月22日、弁護士法違反容疑で運営会社のほか、関係先の弁護士事務所などを家宅捜索したと新聞やテレビなどで報じられました。
弁護士法は弁護士資格がない人が報酬を得る目的で法律に関わる交渉を弁護士を含む第三者にあっせんすることや、弁護士があっせんを受けることなどを非弁行為として禁止しています。モームリの家宅捜索の報道に対し、SNS上では波紋が広がりました。
そもそも、なぜ退職代行サービスのニーズが高まっているのでしょうか。評論家の真鍋厚さんが米国の社会学者の文献を基に解説します。
世間はすでに代行サービスであふれている
モームリの運営会社が家宅捜索を受けたことを巡り、ニュースサイトのコメント欄やSNSの投稿では、退職代行サービスに関する議論が再燃しています。退職代行サービスを「情報弱者(情弱)」に付け込んだビジネスだと問題視する声がある一方で、ブラック企業やハラスメントなど、退職をしづらい環境にある人々のニーズに応えているという肯定的な意見もあります。
実際、民間会社が行った調査によると、退職代行サービスを利用した理由で最も多かったのは、「退職を引き留められた(引き留められそうだ)から」(40.7%)で、次いで「自分から退職を言い出せる環境でないから」(32.4%)でした(※1)。ちなみに、退職代行会社から退職手続きの連絡を受けた大企業は15.7%に上るというデータもあります(※2)。
確かに、ブラック企業やハラスメントなどによって、直接被害を受けた労働者の側からすれば、さっさと縁を切りたいという気持ちはあるものの、話を切り出すだけでさらに悪い事態に発展するのではないかという恐れがあります。とりわけ劣悪な労働環境にあるブラック企業では、退職すると上司に言った途端、上司の態度が急変し、罵倒されたり、「この業界にいられないようにしてやる」などと追い込まれたりする例が少なくありません。
ハラスメントによってすでに傷ついている立場の人からすれば、退職代行サービスは「地獄に仏」に思えるでしょう。そのため、単純にさらなる被害を最小限にするだけでなく、できるだけ早く縁を切って、次の職場、次の仕事に行きたいという強い思いも同時に抱えているのです。
そのように考えると、身近なところに自分の意思を代弁し、サポートしてくれる者がいない中で、退職代行サービスは時間的にも心理的にもコストがかかる手続きをアウトソーシングできる、合理的なサービスといえます。起業家の成田修造さんと、退職代行サービスを行う「EXIT」の社長である新野俊幸さんが2025年4月、退職代行サービスの利用を巡り、X上で意見が対立した点は、図らずもその本質を明確にしています。
成田さんは、「ぶっちゃけ自分の意思決定に自分でケツふかない無責任な若者を量産する装置にすらなってるとも思う」と述べ、「やめるなら正々堂々やめると言うのが基本的な筋」「その人たちは今後も、自分の選択や責任から逃れる人生だろう。そこの痛みを自分で乗り越えられるかどうかは結構重要な分岐だと思う」と主張しました。この投稿は900万を超えるインプレッション(ユーザーが閲覧した回数)が付き、話題になりました。
それに対して、新野さんは、引用ポストで「利用者の皆さまは自分の人生に責任を持ち、退職代行を使うという意思決定のケツを拭いています」と反論。「やめるなら正々堂々やめると言うのが基本的な筋」という意見には、「昭和の美学、まだ言ってるんですか? こうした価値観の押しつけが、これまでどれだけの人を追い詰めてきたか、、」と呆れてみせ、「掃除がしんどければ家事代行、退職がしんどければ退職代行。退職代行は単なる“外注”です、面倒なことをプロに任せているだけ」と応じました。
新野さんが引用ポストで「退職代行は単なる“外注”です」と言い切っていることが象徴的です。私は、退職代行サービスが重宝されるのは時代の必然だと考えています。米国の社会学者のアーリー・ラッセル・ホックシールドは、結婚や恋愛といった私的な交際、家事や介護、友人なども市場に依存していく傾向を「自己のアウトソーシング」と呼びました(『The Outsourced Self』Picador Paper)。
この「自己のアウトソーシング」は、一言でいえば「人生の困り事を専門家に投げること」です。ホックシールドが取り上げているのは、結婚相手を探すことといったポジティブな体験を獲得することを期待したものですが、その一方で、世の中を見渡すと、退職代行や隣人トラブル代行、掃除代行、謝罪代行、喪主代行などといったネガティブな体験を回避することを支援する代行サービスが多いことにも気付きます。
つまり、「自己のアウトソーシング」は、恋愛や友人関係と同様の感情体験を与えてくれる好きなライバーの応援や一緒にゲームを楽しむ仲間との交流を伴うソーシャルゲームなどの「ポジティブなアウトソーシング」と、先述の退職代行をはじめとした「ネガティブなアウトソーシング」に大別できるのです。後者は、過度のストレスにさらされることによる精神的ダメージなどの感情のコストを抑えることが主な目的です。
そもそも、今までもさまざまな事柄がアウトソーシングされてきました。介護サービスは高齢者のお世話代行ですし、ベビーシッターは子育て代行ですし、それこそお葬式もかつては近所同士が手弁当でやっていたものを葬儀会社にアウトソーシングするようになっただけです。もちろん、これは社会状況などが変化し、家族だけではとても対処できないものになったからです。
一方、退職代行サービスを非難している企業も、何らかの代行サービスを利用しなければ仕事がうまく回らないのが実情です。例えば、営業代行やバックオフィス業務代行、電話代行、採用代行、クレーム処理代行、仕込み代行など、枚挙にいとまがありません。最近は、部下を適切に評価し、育成できる管理職が不足しているとして、上司代行なるサービスまで登場しました。採用代行に関しては、最初の選考試験をAIに行わせている企業も珍しくなくなってきました。
そもそも人間関係に付きまとうさまざまなストレスを代行サービスで軽減することは、先ほど述べた「ネガティブなアウトソーシング」という観点から見れば、かなり一般的なニーズになってきていることが分かると思います。当たり前ですが、誰も迷惑行為をする人やクレーマー、パワハラ上司などと好き好んで関わりたくないからです。
では、なぜ退職代行だけがやり玉に上がるのでしょうか。不思議と言えば不思議です。これはやや暴論に聞こえるかもしれませんが、いかなる場合でも直接意思を伝えるのが常識なのであれば、迷惑行為をしている粗暴そうな人や、怒りで声を荒げているクレーマー、いつまでも人格攻撃をやめないパワハラ上司などとしっかりと最後まで関わらなければならないというような結論が導かれかねません。
私たちは、寄る辺なき時代に生きています。何かトラブルに見舞われれば、自力で解決することを余儀なくされる場面が増え、いちいち本気で関わっていると消耗して壊れてしまいます。そんな孤立状態がデフォルトになった過酷な社会において、代行ビジネスのニーズが高まっているという背景にこそ、もっと関心を向けるべきではないでしょうか。
【参考文献】
(※1)退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)/公開日2024年10月3日/マイナビ
(※2)2025年 企業の「退職代行」に関するアンケート調査/2025年6月19日/東京商工リサーチ
評論家、著述家 真鍋厚
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