非電化なのに「電車が走る」 架線は“ほんのちょっと”だけ!? 関東の行き止まりJR線に乗ってみた
- 乗りものニュース |
宝積寺~烏山間を結ぶJR烏山線は、縁起のよい駅名に加え、かつては国鉄型気動車の活躍が話題でした。現在は非電化路線なのに“電車”が走ることで知られます。一見不思議な路線に乗ってみました。
最近までキハ40形が見られた首都圏近郊路線
栃木県北部、JR東北本線(宇都宮線)から枝分かれする形で、東へ延びる路線がJR烏山線です。ほかの路線と交わることはなく、終点で行き止まりとなっています。
烏山線は宝積寺~烏山間を結びますが、大半の列車が宇都宮駅まで直通するため、実質的には宇都宮~烏山間の路線ともいえます。そして烏山線は、非電化ながら“電車”が走る路線でもあるのです。
EV-E301系「ACCUM」。蓄電池を搭載している(2024年6月、安藤昌季撮影)。
開業したのは1923(大正12)年。鳥山までの鉄道として、宝積寺からの路線と、真岡線(現・真岡鐡道)の延長が検討されたのち、宝積寺~烏山間が建設されました。その後、1934(昭和9)年より気動車の運行を開始。1960(昭和35)年にはバス転換が検討されたものの、1970(昭和45)年に国鉄の諮問委員会で収支係数が悪くないと判断され、転換を免れ現在に至っています。
烏山線では、全国ローカル線の顔でもあったキハ40形気動車が2017(平成29)年まで現役だったことから、「首都圏に近く、国鉄型気動車を体験できる路線」としても人気がありました。しかし、それに先立ち2014(平成26)年に導入された新型車両は“電車”でした。EV-E301系電車「ACCUM(アキュム)」と呼ばれる車両です。
JR東日本は2003(平成15)年にハイブリッド気動車「キヤE991形」を試作し、蓄電池で動く電気式気動車の実用化に着手していました。キヤE991形は2009(平成21)年までに、燃料電池を搭載したハイブリッド車両へ改造され、クモヤE995形に改められました。この試験車両により、「電化区間は通常の電車として走り、非電化区間では事前に充電し蓄電池に貯めた電気で走行する」というシステムの実用化に目途が立ちます。
クモヤE995形は烏山線を含む各地で試験が行われ、従来の気動車と比較して、二酸化炭素の排出量を約75%、消費エネルギーも約60%削減できることが確認されました。さらに気動車より騒音・振動が少なく、排気ガスも発生しないことから、量産型車両としてEV-E301系「ACCUM」が製造されたのです。
列車番号末尾に「M」の表示が
EV-E301系は、電化区間である宇都宮~宝積寺間の約11kmを電車として走り、非電化の烏山線内約20kmを蓄電池電車として走ります。このため宝積寺駅と烏山駅に、充電用の架線が設置されています。EV-E301系は2017年までにキハ40形を置き換えました。
なお、EV-E301系は現在まで東北本線と烏山線にのみ投入されていますが、交流電化版のEV-E801系電車が2017年に開発され、奥羽本線と男鹿線で使われています。
「非電化区間の電車」を体験すべく、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年6月の土曜日、宇都宮駅を7時11分に出発する普通列車325Mに乗車しました。列車番号末尾の「M」は「電車」の意味です。
EV-E301系は2両編成で、3扉ロングシート車。変わったところといえば、車端部のモニターで蓄電池電車の仕組みを映像化しているほか、機器室がある点です。
JR烏山線は宝積寺駅から分岐。ただし、ここまでの利用も目立った(2024年6月、安藤昌季撮影)。
乗客は50人ほどでした。東北本線内では岡本駅に停車し、烏山線の起点である宝積寺駅には7時24分着。宇都宮駅から2駅ですから、東北本線内だけの利用も目立ちます。ここでは2分停車しました。
2分停車の理由は、走行モードを電車から蓄電池走行モードに切り替えるためです。切り替えが終わるとパンタグラフを下げ出発。非電化区間でも気動車のようなエンジン音はせず、電車そのものの乗り心地でした。
ちなみに列車内には「七福神」のイラストがあり、烏山線内の各駅にも駅名の由来を表した七福神の看板があります。鳥山線は固有の駅が7つあり、かつ「宝積寺」「大金」など、縁起のよい駅名があるからです。
4つの橋を渡り7時32分、下野花岡駅に停車。大穀倉地帯にある駅で、農家の生活などが展示された「高根沢町歴史民俗資料館」が、駅から徒歩20分の距離にあります。七福神は長寿の神である「寿老人」が当てはめられています。
終点側の集電設備は?
続いて7時36分に仁井田駅着。かつては列車交換を行っており、構内は広めです。10人ほど下車しました。駅の周辺には江戸時代に宇都宮藩主が作らせた、市の堀用水が流れます。七福神は清廉度量の神である「布袋尊」です。
7時41分に鴻野山駅着。周辺に6~7世紀の台新田古墳群があり、不老長寿の神である七福神「福禄寿」が当てはめられています。
烏山線の中心駅である大金駅には7時49分の到着。ここで20人ほどが下車しました。列車交換も行われます。駅名にちなんだ大金神社が駅舎正面右側にありました。かつては有人駅で、「宝積寺~大金」の乗車券はよく売れたそうです。駅の七福神は商売繁盛の神「大黒天」です。
7時53分着の小塙駅は、「栃木の自然百選」に選ばれた荒川河岸段丘上にある駅です。駅の七福神には漁業の神「恵比寿神」が当てはめられています。
7時58分に滝駅に到着。駅の南側に高さ20m、幅65mの「龍門の滝」があり、付近には桜と滝を合わせた撮影スポットがあるようです。水神にして農業神である「弁財天」が当てはめられています。
田畑の中、用水路も多く見受けられる(2024年6月、安藤昌季撮影)。
8時2分、終点の烏山駅に到着。駅のごく一部だけに架線が設置され、到着次第、充電のためにパンタグラフが上がりました。立派な駅舎のある有人駅で、「みどりの窓口」機能を持つきっぷの自販機や、「だいすき! からせん」と書かれた烏山線のアピール看板もあります。駅の七福神は災いを退ける神「毘沙門天」でした。
パンタグラフを上げたEV-E301系は電車そのものですが、架線は車両1両分ほどの長さで、それ以外の部分は広く空が見えるのが、烏山駅の個性と感じました。
※本文一部と写真のキャプションを修正しました(12月2日11時)。
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