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芳根京子、秘めたる心の闇を表現する圧倒的な“陰”のヒロイン

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芳根京子さん(2020年1月、時事通信フォト)
芳根京子さん(2020年1月、時事通信フォト)

 2月11日に公開された映画「ファーストラヴ」に出演している女優・芳根京子さん。同作は島本理生さんが「第159回直木賞」を受賞した同名小説を原作とするサスペンスで、芳根さんは、父親を殺害した容疑で逮捕されたアナウンサー志望の女子大生・聖山環菜を演じています。

 主演の北川景子さん演じる公認心理師・真壁由紀は、環奈の弁護を担当する庵野迦葉(中村倫也さん)の依頼で、彼女の動機を探るために面会を担当。しかし、環奈の二転三転する供述と、不安定で感情の起伏が激しい性格に翻弄(ほんろう)されていきます。芳根さんは環奈という役に入り込むあまり、「このまま撮影が続いたら私はどうなってしまうのだろう?」と不安になったといいます。

 そんな芳根さんの熱演を原作者の島本さんは「殺人事件の容疑者でありながら、混乱した痛みを抱える環菜の内面が、緻密な脚本と演技によって見事に表現されていて、傷ついたまま沈黙してきた女性たちはこの映画を見て、『これはいつかの自分だ』と感じる瞬間がたくさんあるのではないでしょうか」と評価しました。

 一方、芳根さんは日本テレビ系連続ドラマ「君と世界が終わる日に」(毎週日曜 後10:30)の第3話で、竹内涼真さん演じる主人公たちを裏切り、窮地に追い込むすがすがしいほどの悪役を演じ、多方面から、その表現力に注目が集まっています。

“バケモノの類い”と賛辞も

 芳根さんは2013年、所属事務所の先輩にあたる篠原涼子さん主演のドラマ「ラスト・シンデレラ」(フジテレビ系)で女優デビュー。その後も東日本大震災を題材とした2014年公開の「物置のピアノ」で映画初出演にして主演を務め、1000人以上が参加したオーディションを勝ち抜き、ドラマ「表参道高校合唱部!」(TBS系)で廃部寸前の合唱部の立て直しに挑戦する主人公・香川真琴を演じ、「ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞」を受賞するなど着実にキャリアを積み上げていきました。

 そんな芳根さんの代表作となったのが、10代最後の年に出演したNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」(2016年度後期)です。芳根さんは2261人の中からオーディションでヒロインに選ばれ、戦後を乗り越えて、子ども服作りに打ち込む主人公・坂東すみれを演じました。

 すみれは自分の思いを表現することが苦手で、口数の少ない、朝ドラのヒロインとしては控えめなキャラクターでしたが、芳根さんは彼女の子ども服作りにかける情熱を限られたせりふと力強い瞳で表現し、新たなヒロイン像を確立。わずか19歳で、背中が丸まった晩年のすみれを演じるという難題にも挑戦しています。

 かくして“国民的女優”となった芳根さん。昨年公開された映画「記憶屋 あなたを忘れない」で共演した山田涼介さんは彼女の演技について、「すごいです。芝居で言うと、いい意味でバケモノの類い」と最大級の賛辞を送っています。

 まさに山田さんが言った“バケモノの類い”である芳根さんの芝居が世間で評価されたのが、2018年に出演した映画「累-かさね-」「散り椿」でしょう。芳根さんはこの2作品での演技が評価され、「第42回日本アカデミー賞新人俳優賞」を受賞しています。

 特に「累-かさね-」で見せた芳根さんの役への憑依(ひょうい)ぶりには驚きました。この映画は松浦だるまさんによる同名漫画を実写化したサスペンスで、芳根さんは醜い顔が原因で、幼い頃から周囲に虐げられてきた淵累役を熱演。累は、ダブル主演を務めた土屋太鳳さん演じる新人女優・丹沢ニナの顔を、母から受け継がれた不思議な力を持つ口紅で奪い、ニナの人生を徐々に支配していく主人公にして最恐の悪女です。

 さらに、口紅を使って相手と顔を入れ替えることができる設定があるため、芳根さんは自分の容姿に強いコンプレックスを持った累だけではなく、時に美しく気高いニナを演じなければなりません。その上、物語が進むと累とニナの立場は逆転し、今度はニナが自信を失い、反対に累は演技力も兼ね備えた美しい女優としてニナの脅威となっていくのです。そんな、コロコロと表情や起伏が変わる難役を芳根さんは見事に演じ切り、観客をいい意味で混乱に陥れました。

唯一無二の“陰”のヒロイン

「累-かさね-」や今回の「ファーストラヴ」も含め、芳根さんはこれまで、闇の深いキャラクターを演じることが多かったように思います。ですが、芳根さんが演じるとなぜか、彼女たちを嫌いになれず、不思議と最後には好きになってしまうのです。それは、芳根さんがキャラクターの心の内にある思いを表現することに優れ、彼女たちの人生や境遇がどんな場面でも透けて見えるからでしょう。

 実は芳根さんは中学生の頃、特定疾患に指定されている難病「ギラン・バレー症候群」を患っていたことがあり、「べっぴんさん」の会見では「1年間くらいは普通に学校に通うことが難しい時期がありました」と語っていました。そのピュアなルックスとは裏腹にどこか陰があり、演技に深みがあるのは、青春時代に思うように体を動かせなかった経験があるからなのかもしれません。

 芳根さんの同年代には、土屋太鳳さん、広瀬すずさん、桜井日奈子さん、杉咲花さんといった華やかな若手女優が名を連ねますが、彼女たちが“陽”のヒロインなら、芳根さんは“陰”のヒロイン。従来のヒロイン像を覆す、心の闇を持った役に全身全霊で挑む唯一無二の存在といえるでしょう。

ライター 苫とり子

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