【物議】石破茂首相の振る舞いにSNS「がっかり」 改めて考える「ビジネスマナー」の重要性<専門家解説>
- オトナンサー |
SNSで批判の声が多数上がっている、石破茂首相の「外交マナー」。事の発端は、石破首相が出席した、ペルーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に関する報道。「各国の首脳と座ったまま握手を交わす」「右手を差し出した中国の習近平主席に対し、両手で握り返す」「集合写真の撮影に遅刻・欠席」…会議の場における石破首相の数々の立ち居振る舞いが報道され、「さすがにひどいと思う」「恥ずかしい」「官邸には指摘できる人がいないのか」「正直がっかりしました」「残念な気持ち」など、ネガティブな声が多数上がりました。一方で、「これってごく普通のビジネスマナーじゃないか?」「基本的なビジネスマナーができてないように見える」といった声も聞かれます。
実際、石破首相のこうした立ち居振る舞いについて、マナーの専門家はどう見ているのでしょうか。一般的なビジネスシーンでのマナーにも通ずる「一社会人としての振る舞い」について、ヒロコマナーグループ代表で、収益アップに貢献する企業の人財育成マナーコンサルティングをはじめ、皇室のマナー解説やNHK大河ドラマ「龍馬伝」、NHKドラマ「岸辺露伴は動かない 富豪村」、同シリーズ最新作「密漁海岸」のマナー指導などでも活躍するマナーコンサルタント・西出ひろ子さんに、見解を聞きました。
今回の状況では「立ってあいさつ」がマナー
Q.APEC首脳会議における石破首相の立ち居振る舞いについて、SNSでは批判的な声が多く聞かれます。ビジネスマナーの観点において、こうしたシーンにおける正しい立ち居振る舞いとはどのようなものでしょうか。
西出さん「まず、マナーの大前提からお伝えいたします。マナーは相手を思いやる心、気持ちから、失礼のない言動を表現し、互いに心地よい関係を生み出すためにあるものと考えます。その上で、ビジネスシーンにおけるマナーも、マナーの本質を踏まえた上で、互いの利益につながる関係性を築いていくために大切なことです。前者(心、気持ち)は目では見えない、耳では聞けないものですが、後者(言動)は見聞きできるものです。自分の気持ちを誤解されないように伝えるコミュニケーションとしても、マナーを身に付けておくことは、自身や自社を守ることにもつながります。
また、マナーは互いに思いやる気持ちを言動として表現するため、トラブルの発生を未然に防ぎ、その場をスムーズに進める役割も持ちます。これらの前提を踏まえた上で、今回の状況ではどのように振る舞えばよかったのかをマナー的観点からお伝えします」
【振る舞い(1)座ったまま、握手やあいさつを交わす】
相手が立ってあいさつをしてくだされば、自身が立てる状況であるならば、立ってあいさつをします。一方で、もしも相手が座ったままあいさつをすれば、自身も座ったままあいさつをするときもあります。相手に合わせることもマナーです。ただし、今回の状況では明らかに、立ってあいさつをすることがマナーといえます。
また、海外でのあいさつ時には、互いにアイコンタクトをしてから、動作に移ります。日本では「目上の人と目を合わせるのは恐れ多い」という気持ちから、目を合わすことをしない時代もありました。また、シャイであることからそれを苦手とする人もいらっしゃるでしょう。そのお気持ちはよく分かりますが、グローバルな視野で考える現代という意味においては、アイコンタクトをするとスムーズです。
ここで、もう一つポイントがあります。新入社員研修でもお伝えしていることですが、学生のときは「受け身」の姿勢・態度でもよかったことが、社会人になったら「能動的・自発的」な行動が求められたり、それが相手への敬意の表し方につながったりします。そこで、“相手よりも先に自ら行動する”という姿勢が大切な場面があります。
今回のような状況だけでなく、一般的な取引先との会合などでは、「先手で歩み寄り、あいさつをする」というコミュニケーションが、その後の関係性や評価対象の一つになり得ます。先手だけがよいと言い切ることはできませんが、あいさつの場面では、敬意あるほほ笑みの表情の「先手必笑」と姿勢で、「先手必勝」という結果につなげたいところです。
【振る舞い(2)握手を両手で返す】
今回のケースのように、右手で手を差し出されたら、感謝の気持ちを込めて、互いに目を合わせ、ほほ笑みながら右手で握手をします。このとき、相手の握る強さと同等の強さで握るとよいでしょう。
言動、所作は、気持ちを形で表現しているものと見なされます。あいさつとしての握手の場合は、必要以上に「両手で行う」ことはしなくてもよいです。例えば、選挙前などは、有権者の手を両手で握る場面をよく見ますが、それは明らかにお願いの気持ちからの動作と思われます。
ここで注意したい点は、人にはそれぞれにさまざまな事情があるということです。マナーはこうでなければいけない、と決めつけるものではありませんから、相手やその場の状況などに応じて、握手の仕方の型は変わることもあり得ます。
【振る舞い(3)遅刻する】
遅刻に関しては、新入社員研修で「時間管理」としてお伝えするビジネスマナーの一つです。遅刻をすることで、関係者に迷惑や心配をかけることのないよう、時間厳守を意識することは大事なことです。
とはいえ、電車の遅延や道路渋滞など、まさかの事態もあり得ます。そのようなことも想定し、時間に余裕をもった計画を立て、行動することや、別ルートでそれらを回避する手段など、いくつかの案を用意するといった事前の準備も大切です。その後の関係性やビジネスに特段支障はないとしても、「遅刻をすることで一緒に写真に写ることができなかった」とか「よい話や音楽などを聞くことができなかった」など、せっかくの機会を逃す結果になります。
致し方ない遅刻は現実にあるでしょう。そのようなときに、「何とか急いで」と焦る気持ちから、階段を踏み外し転倒したり、人とぶつかって相手に傷を負わせたり、スピードを出しすぎて事故にあったりすることのないよう、十分に気を付けて行動していただきたいと思います。そうならないためにも、可能であるならば、やはり時間に余裕をもった行動計画を立てることを心がけるとよいですね。
「ビジネスマナー」はなぜ重要か
Q.石破首相のこうした振る舞いについて、SNSでは「周りに指摘する人はいなかったのか」「正しいマナーを教えてあげられる人が近くにいるべき」といった声も上がっているようです。これについてどう思われますか。
西出さん「周囲からの助言は、とても大切なことと考えます。ここで大切なことは、助言の仕方、そして助言の受け取り方です。
助言は、その人のためを思って、その人の助けになるために伝えることです。例えば、先輩に対しては言いにくいことでも、伝えてあげることで先輩が恥をかかずに助かることもあります。私はこれを『言葉の花束を贈る』と言っています。
助言をする人は、例えばですが『恐縮ですが』などの前置き、クッションとなるひと言を添えて、具体的な助言を伝えるとよいでしょう。指摘するだけでは助言にはならないので、『こういうときには、このようにしたらよいと思います』『一般的には、こういうときには、このような振る舞いをします』など具体的に伝えて差し上げます。
そして、助言を受ける側は、助言してくれる人の立場に立ってみましょう。言いにくいことを言ってくれる場合もあります。自分のためを思って伝えてくれる人に感謝の気持ちを伝えます。その上で、それを素直に受け入れ、行動してみるかどうかです。疑問があれば、それを正直に伝え、互いに心と心を開き合い、対話をすること。そして最終的にその学びをどう振る舞い、生かすか。そうしたコミュニケーションは今の時代、またこれからの時代にはさらに大事なことです。
一人の知識や力には限界もありますし、間違った思い込みなどもあります。そういうときに、周囲からの助言により、大きなトラブルや、機会損失などのロスやダメージを避けることができます。互いの立場はありつつ、互いに敬意、尊重しながら、マナーあるチームビルディングを重要視している職場も増えています。
また、助言をする人は、『これはご存じだろう。だからお伝えすることはかえって失礼になる』などの考えから、伝えていないこともあります。ところが、ふたを開けてみると、意外に相手はそれを知らないことも多いのが現実です。『これは知っているだろう』というのは自身の思い込みであり、相手がどうなのかは分かりません。だからこそ、コミュニケーションを取ることが大切だと思うのです。このような場合は、『ご存じかとは存じますが、念のためにお伝えいたします』などの前置きをした上で、確認の意味も含めて伝えるとよいのではないでしょうか」
Q.今回のケースから改めて考えたい、「ビジネスマナーの重要性」とは。
西出さん「マナーは思いやりの気持ちを持って、相手の立場に立ってみることからスタートします。一般的な職場も同様ですが、例えば、組織は異なったとしても、一緒に仕事をする人たちはそのプロジェクトにおける仲間、チームです。例えば、上長について取引先に同行するときも、ある種のチームといえます。上長に恥をかかせることのないよう、上長の立場に立ってみて、それを自分事として考えたときに、『同行時に自身がやるべきこと』が見えてきます。一方、上長も部下の立場に立つマナーの心から、部下を思いやる気持ちからなる言動が必要です。
マナーは、一方通行では成り立ちません。双方にマナーの心がある場合に、ウィンウィンの関係が生まれ、結果『三方よし』となります。また、見聞きできる型だけを決めつけてしまうことは、マナーとは言えない面もあります。それは、『TPPPO』(時、場所、相手、立場、場合)などによって、変化してもいいことだからです。一般的に『笑顔で接しましょう』と言われますが、諸事情から顔の筋肉が動かない場合は、それをすることはできません。こうしなければならないと決めつけることは、本来のマナーとはいえません。
マナーは、相手の立場に立つ思いやりが大前提にあります。今まではできていなくても問題なかったことが、立場などが変わるとそのままでは進めないこともあり得ます。年代問わず、謙虚な気持ちと向上心を忘れずに、相手への敬意と気配りを形として表現することで、次につながるビジネスに発展するのではないでしょうか」
オトナンサー編集部
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