『トップガン』の重要シーン→実はF-14戦闘機の“2つの弱点”を再現!? 結構マズい「あるある」だった件
- 乗りものニュース |
映画『トップガン』のワンシーンで描かれた「F-14の墜落」。このシーンは、実はF-14初期型で多く発生していたトラブルを示したものとなっています。どのようなものなのでしょうか。
F-14の墜落シーン…実は「F-14の切実な問題」が関係?
2024年11月に地上波で放映され、大きな話題を呼んだ映画『トップガン』シリーズ。8日に放映されたシリーズ1作目『トップガン』において、パイロットのマーヴェリックとともに主役を演じているのがグラマン(現ノースロップ・グラマン)F-14「トムキャット」です。
しかしこの機体は、当時とある課題を抱えていたのと同時に、作品内の重要なシーンでもそれが描かれていました。
アメリカ海軍のF-14A「トムキャット」(画像:アメリカ海軍)。
この映画では迫力あるF-14の飛行性能を余すことなく描写されています。大空を背景に繰り広げられる空中戦の臨場感あふれる映像はもちろんですが、教官パイロットとの模擬戦闘の際に発生する、マーヴェリックが操縦するF-14の墜落事故は緊迫感があり、作中のなかでポイントとなる場面のひとつです。
このシーンを簡単に解説すると、縦列で飛行する2機のF-14。後方が主人公マーヴェリックが操る機体になります。同機のエンジンが先を行く僚機のジェット後流を吸い込んでしまうことで悲劇は始まります。
ジェット後流を吸い込んだことで主人公のF-14のエアインテークに入る気流が乱れ、その結果、自機のエンジンが異常燃焼や出力低下を起こす「コンプレッサーストール」を起こして停止。さらに左右のエンジン推力のバランスが崩れたことで、スピンに入ってしまい、操縦不能となって墜落してしまいました。
実は当時、米海軍の主力戦闘機だったF-14には2つの欠点があり、作品で描かれているこの事故はそれら両方の欠点が関係しています。つまり、映画だけのストーリーではなく、実際に起こりえたハナシなのです。
この辺は、米海軍が全面的に協力して製作された映画ならではともいえます。その2つの欠点とは何だったのでしょうか。
ひとつ目の問題は「世界初のスタイルが採用されたエンジン」
『トップガン』に登場するF-14「トムキャット」は初期型の「F-14A」です。このモデルに搭載されているエンジンが、1つ目の欠点の由来です。
F-14Aの搭載エンジン「TF-30」は世界初のスタイルが採用されていました。それまで、超音速機のジェットエンジンといえば、エンジンで取り込んだ空気をすべて圧縮・燃焼する「ターボジェットエンジン」で、これに「アフターバーナー」と呼ばれる再燃焼装置を付けることで推力を増加させて超音速飛行を可能にしていました。ただ、これでは燃料消費が多く航続距離や兵器搭載量に制限が生じます。
そこで考えられたのが、取り込んだ空気の一部のみを燃焼・圧縮することで低燃費・高出力を実現した「ターボファンエンジン」にアフターバーナーを組み合わせるというもの。こうして生まれたのが、世界初のアフターバーナー付きターボファンエンジンであるプラット・アンド・ホイットニー「TF-30」でした。
エアショーでデモ飛行するアメリカ海軍のF-14A「トムキャット」(細谷泰正撮影)。
ところが、 TF-30を最初に搭載したF-111戦闘爆撃機で、課題が判明します。
TF-30は、エンジンが吸い込む気流の乱れに敏感でコンプレッサーストールが起きやすかったのです。そのため、F-111では空気取り入れ口の形状を変更するなどの方法で解決しようとします。
ただ、これはあくまでも小手先での対処法で、根本的な問題の解決にはなっていないため、TF-30には依然としてコンプレッサーストールの懸念は残り続けました。しかし、F-14Aにはそのまま搭載されることになったのです。
なぜ、米海軍はTF-30の抜本的な改良や、もしくは新エンジンへの換装を待つことなくF-14Aの運用を始めたのでしょうか。それは、当時の米ソ対立が大きく影響していたからです。1960年代後半、ソ連(現ロシア)は複数の新型戦闘機を登場させました。米海軍は、それら新型戦闘機に対抗できる機体を持っていなかったため、F-14の実用化を急ぐ必要に迫られました。
そのため、F-14は段階的に改良して配備する手法が採用されています。当初のプランでは、F-14AにはTF-30を搭載し、次に生産するF-14Bでは新型エンジンを開発して搭載する方針が計画されました。しかし、新型F401エンジンを搭載したF-14Bは初飛行こそしたものの、コストと信頼性の問題で新型エンジンの採用は取りやめとなってしまいます。
こうして、操縦性にクセのあるTF-30エンジンが使い続けられることになったというわけです。
2つ目の課題は「操縦特性」…最終的には解決も
そして、F-14はエンジン以外にも、別の問題を抱えていました。
それは気流に対する迎角を大きくとって飛行しているときに旋回などで機体を傾けると、方向安定性が不足してスピンに入りやすいという点でした。これは飛行性能に大きく影響し戦闘機としては重大な問題であると同時に、実際にこの問題が原因とみられる事故により、複数のF-14と乗員が失われています。
事態を重く受け止めた海軍は徹底的な原因究明と対策に踏み切ります。その結果、判明したのがF-14の翼型の構造に起因する問題でした。
エプロンに展示された際のアメリカ海軍のF-14A「トムキャット」(細谷泰正撮影)。
VG(可変)翼機ではロール(機体を横に傾ける)制御を行う補助翼を主翼に取り付けることができません。そのため、スポイラーと水平尾翼の差動でロール制御を行っています。この制御系統に原因が隠れていたのです。最終的には、製造元のグラマンとNASA(アメリカ航空宇宙局)によって設計変更を行った試験機を製作し、212回の飛行試験を実施するなどして、原因究明がなされ対策しています。
しかし、その成果が実機に反映されたのは1999年から部隊配備が始まったF-14D、通称「スーパートムキャット」からでした。つまり、前作の「トップガン」が公開、上映されていた1986年当時、F-14にとってスピンの防止とスピンからの回復は切実な問題だったといえるでしょう。
こうして誕生したF-14Dは、「トムキャット」シリーズの最終生産型となったモデルで、NASAの研究成果を盛り込んだ飛行制御システムに加え、エンジンも強力でコンプレッサーストールの問題も解決したF110エンジンを搭載しました。さらにグラスコックピットなど最新の電子機器が導入されるなど、2つの課題を解決できた「決定版」だったわけです。
その仕様と性能は「スーパートムキャット」の名に相応しいものでしたが、同時期に生産されていた安価で多用途性に優れた F/A-18「ホーネット」を相手にした場合、予算獲得の戦いでは苦戦を強いられます。結果、F-14Dは少数生産に終わり、その活躍も短期間にとどまりました。
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