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「女は格下」「子どもを産んで当たり前」 地方の若い女性を悩ます“男尊女卑”の因習

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地方から若い女性が流出し続ける理由は?
地方から若い女性が流出し続ける理由は?

 近年、子育て世代の地方移住が注目されている一方、地方出身の若い女性が進学や就職を機に、首都圏に移り住むケースは珍しくありません。評論家の真鍋厚さんは、地方では待遇面で恵まれた仕事が少ないほか、仕事や教育などにおけるジェンダーギャップが大きいことなどが背景にあると指摘しています。今後、地方から若い女性が流出し続けることでどのような問題が起きる可能性があるのか、真鍋さんが解説します。

2050年までに全国の4割超の自治体が消滅する可能性

 有識者で構成する「人口戦略会議」が2024年4月、2050年までに全国1729の自治体のうち、4割超に当たる744の自治体が消滅する可能性があるとする分析結果を公表しました。人口が急激に減少することが推測されたからです。

 この衝撃的なデータは、「20~39歳の女性人口」の将来動向によってはじき出されたものでした。若年女性の人口が減少し続ければ、当然ながら出生数がさらに低下することが確実だからです。

 そのような点を踏まえ、人口戦略会議は2020年から2050年までの30年間で20~39歳の女性の人口が50%以上減少する自治体を「消滅可能性自治体」と位置付けたのです。そして、この問題の背景には、単なる少子高齢化にとどまらない深刻な課題がありました。

 魅力的な仕事や職場の不足、男女間の賃金格差はもちろんですが、地方特有の因習によるジェンダーギャップがいまだ解消されていないことが大きく影響していることが分かってきたのです。

 例えば、徳島県が行った意識調査の結果によると、男女の地位の平等感について、「男性の方が非常に優遇されている」または「どちらかといえば、男性の方が優遇されている」と回答した割合が「社会通念・慣習」「政治の場」で8割、「家庭生活」「職場」で6割に上りました(2024年度「男女共同参画に関する意識調査」徳島県)。

 つまり、地方在住の女性は、地方で、かつ女性に生まれたというだけで多くのハンディがあり、環境的に不自由を感じているのです。「お茶くみは女性」といった差別的な取り扱いから、「子どもを生むのが当たり前」といった出産、育児に対する期待まで非常に多種多様な抑圧があり、その一方で男性優位な状況を嫌でも目の当たりにしますから、絶望感が深まっていきます。

 そうなると、唯一の希望は、進学や就職です。都会の大学に合格したり、首都圏の企業に就職が決まったりすれば“脱出”することが可能になるからです。移住先で彼女たちは、親や親族の価値観や地元の視線から解放され、もっと広い世界があることを知ることになります。さまざまな人々、コミュニティーとの出会いを通して実感していくのです。

 つまり、地方と都会とでは、どちらが生きやすいかが火を見るよりも明らかになります。地方の場合、給与や仕事内容が魅力的な職場が少ないことは事実ですが、仮にそのような職場が地元にあったとしても、恐らく「男の職場」「女は格下扱い」といった男尊女卑のような文化がはびこっているので、選択肢から排除されている可能性があります。

 また、身近な女性、例えば母親やおば(叔母、伯母)は、現状に肯定的なことが多いため、ロールモデルにはなりにくく、どちらかといえば男性優位の文化の片棒を担がされています。そのため、女性の人生に対するイメージが結婚と子育てに偏っていることが少なくなく、帰省のたびに、「〇〇歳までに結婚を」「孫の顔が見たい」といったせりふを彼女たちから聞かされることも珍しくありません。

 そんな女性サイドの心境について、韓国のカウンセラーで作家のクォン・ミジュは、社会が女性たちに妻や母親として生きることばかりを求め、同時にありのままの「私」として生きることを「気が強い」「自分勝手」と決め付けてきたことへの反発があると述べています(『非婚女性 けっこう上手く生きてます』バーチ美和訳、KADOKAWA)。彼女は韓国人ですが、日本の女性たちが置かれた立場とよく似ており、その思いがうまく表現されています。

「女性たちがもはや結婚を夢見ない社会。それは勉強をしすぎたせいで鼻っ柱が強い、偉そうな女性がたくさん生まれたからではない。女性もたくさん勉強をして社会的地位を上げるべきなのに、そういう生き方を選べないようにしてきた社会に、まず責任がある。女性たちは、自分らしく生きられないのであれば、妻として、母親として生きる人生を拒否する権利がある。二つの生き方をすればいいなどと、簡単に言わないでほしい」(同前)

 結婚や出産を巡るライフプランに干渉されることも大きな問題ですが、行事や催しなどの際に「食事を用意する側に回される」「お酒やおつまみを用意し、男性の話し相手をするクラブの女性従業員のような役割を求められる」といった地方でよくある役割の固定は、自然や人情という地方が誇れるプラスの部分をもマイナスにしてしまうほどの影響力を持っているのです。

ジェンダーギャップを解消しようと奮闘する自治体も

 しかし、地方自治体も手をこまねいているわけではありません。例えば兵庫県豊岡市は、このようなジェンダーギャップをなくすまちづくりを市の主要政策に位置付け、一定の成果が現れてきたことで注目されるようになりました。

 同市は2021年3月に「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」を策定し、職場や地域、家庭、学校などの分野、対象ごとに体系的に取り組みを開始。

 企業主体の働き方改革に関する推進会議や、女性のための人材育成プログラムを立ち上げ、地域啓発推進アドバイザーによる研修、ワークショップなどを展開した結果、企業における職場環境の改善が進み、地域コミュニティーで女性の声が反映されるようになりました。

 しかし、残念なことに豊岡市はレアケースに過ぎません。大半の自治体では「ジェンダーギャップ解消が重要」という認識があっても、効果的な取り組みにつながっていないのが実情です。最も大きな障壁になっているのは、そのような根本的な問題を二の次にしてしまう企業や地域のトップの無自覚と現状追認なのです。

 このまま地方から若い女性の流出が続けば、最悪のシナリオは、人口戦略会議の推計の通り、大量の自治体が消滅することですが、その中長期的なプロセスで、地方で暮らす若者たちが犠牲を強いられる可能性があります。人口減とともに人材減が急速に進行すれば、産業基盤やインフラが成り立たなくなるからです。

 また、「地元を出たくても親が許してくれない」「家族の面倒を見る必要がある」「お金がない」など、都会に行きたくてもそれがかなわず、生まれ育った地域で生活をしていかなければならない若者は一定数いますが、そうした人たちにのしかかる負担は、財政状況が厳しい状況にある地方ほど必然的に増大していく可能性があります。

 若い女性たちが激減すれば、「地方は男余り」がデフォルトになって、結婚や子育てどころではなくなることでしょう。不穏な話ですが、地方に残された人々のストレスや不満が蓄積されることは目に見えていますし、いろんなトラブルを引き起こすことになるかもしれません。

 今、物価高などによる生活苦が悪夢のような状況をもたらしていますが、最低限必要な産業も人も失われることによって、本当の悪夢はこれから始まるのではないでしょうか。

評論家、著述家 真鍋厚

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